第49話 話をする元魔王の部下
ようやくお披露目行進が終わって、アリエスとカプリナは馬車から降りる。
途中でスラリーが魔物の気配に反応したことで緊張が走ったものの、なんとか無事に最後まで終わることができた。
「では、アリエス様。私はここで待機して傭兵たちと話をしております。近くに寄れば絶対魔物だと気付かれてしまいますので、ここで待機させて頂くしかありませんからね」
「分かりました。あの傭兵の方とお話をされるつもりですね?」
アリエスはちらりと視線を向ける。その視線の先にいたのは、ララと名乗る傭兵だった。
さすがにアリエスとサハーにはバレバレのようである。
「その通りでございます。それとスラリー、お前もドジを踏んでばれるんじゃないぞ」
「わかってる。すらりー、そこまで、ばかじゃない」
たくさんの冒険者の目や耳があるので、ひそひそと話をしている。
しかし、いつまでもここで待機し続けるわけにはいかない。
馬車の到着後、なかなか入ってこないことに我慢ならなかったのか、屋敷の中から使用人が様子を確認するために顔をのぞかせてきた。
「使用人の方が心配なさっていますね。参りましょうか、カプリナ様」
「はい、アリエス様」
これから行われるのはアリエスの生誕祭だ。さすがに主役がいなくては始まらない。
よその国からせっかく集まってくれた聖女たちに申し訳ないと、アリエスはサハーとの話を切り上げて、ゾディアーク伯爵邸の中へと入っていく。
扉の外では、サハーが冒険者たちを取りまとめている。
「傭兵の方々、本日は護衛、まことにありがとうございました。今から依頼達成書をお渡しするので、傭兵ギルドの受付にお渡しください。報酬が支払われますから、紛失しないようにして下さいよ」
サハーは声をかけると、傭兵たちが一人ずつ並んでサハーから依頼達成書を順番に受け取っていく。傭兵というには意外とお行儀がよかった。
それもそうだろう。なにせ領主である伯爵邸の目の前だ。しかも、今回の依頼は教会と伯爵の共同のもの。乱雑に扱えるわけがないのである。
これからも依頼を受けられるようにするために、傭兵たちはこのようにお行儀がいいのである。
「おっと、ララとかいいましたね。あなたはちょっとお話があるので、残ってもらいましょうか」
ようやくララの順番になった。さっさと去ろうと思っていたのに、ララはサハーに呼び止められてしまう。その瞬間、ばれていると悟ったようだ。
やむなく依頼達成書を受け取っても、サハーのところに残っている。
全員分を渡したところで、サハーは見張りを伯爵邸の兵士に任せ、自分はララを連れて人気のない場所へと移動していった。
人がいないことを確認すると、サハーがララに声をかける。
「さて、ライラ様がなんでこんなところにいらっしゃるんですかね」
思いっきり本名で呼ばれてしまうライラである。
サハーの顔をじっと睨みつけるが、サハーはまったく動じていない。ギリギリと歯ぎしりをするライラだが、大きなため息をついてようやく冷静になったようだ。
「まったく、サハー。死んだと思われていましたが、生きていたのですね」
「当たり前ですよ。ただ、一度死にかけましたけどね」
「どういうこと?」
ライラが不思議そうな顔をしていたので、サハーはここまでに起きたことをすべて話すことにした。
「なんですって? 今の魔王様が、あなたを使い捨ての駒に?」
「そういうことですよ。ですが、私は襲ったはずのアリエス様に命を救われましてね、それでこうやって今は側近をしてるんですよ。それに、あの方は……」
「あの方は?」
ここまで言いかけて、サハーは思わず口に手を当てる。
アリエスの許可もなしに、自分以外のことを喋るわけにはいかなかったからだ。さすがは忠義に厚い半魚人である。
「あ、いえ。なんでもありません。とにかくアリエス様は慈悲深い方です。私のような魔族であっても、分け隔てなくお救い下さるのですから」
「……嘘を言っているようには思えないですね。ですが、アリエスという聖女があなたを迎え入れても、他の聖女、特に前の魔王様を殺したという聖女が許すわけがありませんよ」
「わかっていますとも。だからこそ、こうやって外で待っているのではないですか」
サハーはちらりと伯爵邸の中へと視線を向ける。
「それにしても、スラリーは一緒じゃないのかしら」
「ああ、スラリーにはばれていたのでしたね。私も彼から聞きましたし。スラリーならカプリナ様と一緒に中に入っておりますよ。カプリナ様のマントに擬態しておりますから、よっぽどでない限りばれませんよ」
「そう、それなら安心でしょうかね」
ライラは一応ほっとしているようだった。ライラにとってスラリーは元同僚にあたるからだ。
「とりあえず、ライラのことはアリエス様にはきちんと報告しておきますからね。もしお話があるのでしたら、アリエス様は時折こちらの伯爵邸に出向かれますので、その時にでも会いにきたらよいと思います」
「そうですか。ならば、そうさせてもらいましょうかね。話を聞いていて、アリエスという聖女には何か感じるものがありますから」
ライラはその言葉を最後にくるりと振り返る。
サハーは黙って立ち去っていくライラの姿を見つめ続けたのだった。




