第48話 かつての敵対者に目をつけられる元魔王
女性が魔族を倒すと同時に、マントに擬態するスラリーが反応する。
「まもの、きえた。このかんじ、せいじょ。せいじょが、まもの、たおした」
「えっ?」
スラリーが突然話した内容に、アリエスとカプリナが驚いている。
「魔物が消えたって、スライムが倒されたってことですか?」
小声でスラリーに確認するアリエス。
「そのとおり。いっしゅんで、せいじょに、やかれた。つよい」
視線だけで言葉を交わすアリエスとカプリナである。
なにせオープンな馬車に乗っているので、大きな動きを見せれば聴衆に異変に気付かれかねない。なにせ今はお披露目の行進の真っ只中なのだ。二人は細心の注意を払っているのである。
「でも、魔物が倒されたというのでしたら、安心ですね。これで心置きなくこちらに集中できますね」
アリエスはほっとした表情を見せながら、集まっている聴衆に手を振り続けている。
「でも、本来聖女というのはこういう事態に真っ先に動かなければならないはずですよね。まさかこんなことで動きを封じられるとは思いませんでした」
「うん、へんな、はなし」
「それは確かにそうですね。でも、こっそりと結界を展開なされるなんて、さすがアリエス様ですよ」
「そんなに褒めても、何も出ませんよ?」
カプリナは同じように聴衆に顔を向けながら、アリエスのことを褒めている。アリエスは照れくさそうにしながら言葉を返している。
その本心は、先程のことが気になりすぎて、早くこのお披露目行進が終わらないかと願っている。
ところが、この行進は伯爵邸に到着するまで続けられる。今いる場所は伯爵邸からちょうど反対側。まだまだ終わりそうにないお披露目行進に、心の中で盛大なため息をつくアリエスだった。
―――
アリエスのお披露目行進がもう少しで終わるという頃、伯爵邸に一人の聖女が戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「どこ行っていたのですか、キャサリーン」
他の聖女たちから、急にいなくなったことを問い詰められている。
キャサリーンと呼ばれた聖女は、アリエスが見たちょっとやせこけた聖女である。
そう、まだ魔王だった頃のアリエスの居城に攻め入り、魔王軍を壊滅に追いやった聖女本人である。
当時が十代半ばくらいだとすると、現在はもう三十歳前後ということになる。一瞬で魔族を壊滅させたあたり、その時の力はまだまだ健在のようだ。
「いえ、気になるコバエがいましたので、追い払ってきたまでですよ」
「……なんですって?」
キャサリーンの言葉に、一人の聖女が反応する。
その聖女はキャサリーンとは付き合いのある聖女で、独特の物言いを知っているのだ。
「新しい聖女様の生誕の場にコバエを送り込んでくるなど、なんて奴らですか。しかも、私たちが気がつけないなど、そんなことがあってたまるものですか」
突然声を荒げるものだから、他の聖女たちが全員困惑している。
だが、話の内容から、言いたいことは大体察しているようである。
「今度の聖女様は、期待できそうですね」
「どういうことですか?」
キャサリーンの言葉に、他の聖女がその意味を尋ねている。
「魔物の存在に気が付いて結界を張り巡らせたのです。張られた結界によりスライムどもが結界に弾かれました。そのおかげで、私はスライムたちを素早く撃退し、それを操っていた魔族を見つけて討伐してきたのです」
「なんと、スライムテイマーがいたのですか?!」
他の聖女たちが騒めき始めている。
スライムは擬態してしまうと魔物特有の気配が消えてしまう。そうなると見た目では気付くことはほぼ不可能だ。
ただ、聖なる力には魔物の核である魔石が拒絶反応を示す。
アリエスの結界によってスライムが弾き飛ばされたのは、そのことによるものだ。とっさのこととはいえ、アリエスは実に適切な処置をしていたのである。
「はい、すでに撃退済みですので、もう危険はありません。このようなめでたい日に強襲をかけようなど、さすが魔族のすることは理解できませんね」
キャサリーンは、ぐっと拳を握りしめていた。
「それにしても、この一瞬で複数のスライムと、それを操っていたスライムテイマーを倒してしまうとは……」
「さすがは魔王を倒し、世界平和に貢献された最強の聖女キャサリーン様ですね」
淡々とした態度であるキャサリーンとは対照的に、他の聖女たちからはキャサリーンに向けて憧れの視線が向けられている。
それでもキャサリーンは表情を崩さなかった。
「さあ、新たな聖女様を祝福する準備を致しましょうか」
「はい、そう致しましょう」
急にいなくなるという勝手な行動をしたキャサリーンを問い詰めるはずが、思わぬ事態だったこともありすっかりうやむやになってしまった。
アリエスの生誕祭が行われるゾディアーク伯爵邸の中へと入り、聖女たちは会場である伯爵邸を次々と祝福して回っていた。
こうして、会場のすべての穢れを取り払い、新たな聖女と聖騎士を迎え入れるための場所を整えていくのだ。
(私が魔物を退治するきっかけとなった結界を張られたアリエス様という新たな聖女。その資質、私が直に見て差し上げましょう)
キャサリーンは間もなく会場に到着するアリエスの登場を、とても楽しみにしているようである。
かつては敵対者としてまみえた二人の出会い。
果たしたなにごともなく終わるのであろうか。




