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魔王聖女  作者: 未羊


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第46話 お披露目される元魔王

 任命の儀式が終われば、いよいよお披露目の行進が始まる。

 聖女が乗る馬車の周りには護衛の騎士や傭兵ギルドを通して行われた依頼に応じた傭兵たちが取り囲んでいる。もちろん、ライラだっている。

 だが、そのライラはだいぶ落ち着かない様子を見せていた。なにせサハーとスラリーの二人と鉢合わせてしまったからだ。

 お話しかけてこないので少し安心しているが、いつは話しかけられるかと思うと気が気ではない。ひとまず護衛を引き受けた傭兵の一人として静かに聖女の登場を待ち続ける。

 馬車の前には聖騎士であるカプリナと護衛兵であるサハーの二人の姿がある。


「カプリナ、あそこにいるふわっとしたピンクの髪の毛の女が見えますか?」


「はい、見えますね。確か、最近街で活躍を続ける傭兵のララさんですね。それがどうかしたのですか?」


「……なんて?」


 名前を聞いた瞬間に、サハーは間抜けな顔をして驚いている。


「傭兵のララさんです」


「……ひねりがないですな」


「はい?」


 サハーの反応に、今度はカプリナが首を傾げている。

 はあっとため息をついたサハーだったが、次の瞬間、背筋に冷たいものを感じる。

 何事かと思って顔をくるりと振り向けると、傭兵のララがじっと視線を向けている。

 聖女お披露目のための馬車は、行進用に上部を取っ払ったよく見えるタイプのものだ。そのため、馬車の反対からでもよく見える。

 ライラのいる場所はサハーたちとは馬車を挟んで反対側だが、そういう構造になっているためにサハーはライラに睨まれているのである。


『い・う・な』


 ライラの唇がそう動いたように見えたので、サハーは黙り込んでしまう。


「サハーさん、どうかなさりましたか?」


「あ、いえ。なんでもありません。本日はアリエス様の護衛をしっかりしましょう、はい」


 急に背筋を伸ばして話すサハーの態度に違和感を感じながらも、カプリナはサハーの言葉に頷いていた。


 やがて、教会の扉が開く。

 中からは、儀式の衣装から正式な聖女の服へと着替えたアリエスが出てくる。

 聖女服に身を包んだアリエスは、普段よりも不思議と輝いて見える。

 聖女の登場により、騎士や傭兵たちは一斉に跪いている。

 女性の司教に連れられて、アリエスは一歩、また一歩と馬車へと近付いていく。

 馬車の手前までやって来ると、そこで一度立ち止まる。


「さあ、街の、そして国のみなさまにその姿を広く示すのです」


「はい」


 司教の言葉にひと言答えると、アリエスは馬車の方へと振り向く。

 それと同時にカプリナが立ち上がり、馬車の扉を開いて一足先に乗り込む。そして、馬車の上からアリエスの手を引いている。

 サハーも護衛として乗り込みたいところだが、魔族である以上乗り込むことはできなかった。

 だが、サハーは扉に触れることはできるので、扉を閉めてきちんとカギをかけていた。


 準備が整うと、御者が馬車を出発させる。

 アリエスを乗せた馬車が、ゆっくりとゾディアーク伯爵領の領都の中を進み始める。

 司教たちはアリエスたちの馬車を見送ると、教会の中へと戻っていく。


「さて、一足先に聖女の皆様とご一緒に伯爵邸へと向かいましょう。教会では、宴の類が行えませんからね」


「はっ!」


 司教たちは一足先に、アリエスの生誕祭のパーティーが行われるゾディアーク伯爵邸へと向かうことにしたのだった。


 街の中を行くアリエスたちの乗った馬車は、街の人たちから温かい祝福の声をかけられていた。

 このような形で周りの人たちから声をかけてもらえるというのは、アリエスにとっては実に初めての経験である。


「まさかここまでの声を聞くことになるとは思ってもみませんでした」


「今まではきっと、おそれ多くて声がかけられなかったのだと思います。今日は聖女様が正式に任命されたということで、今までみたいな遠慮もなしに声に出せますからね」


「なるほど、それでこれほどまでになっているのですね」


 カプリナの推測を聞いて、アリエスはなんともすんなりと納得がいったようである。

 集まった聴衆の祝福の声に、アリエスは笑顔で答えている。

 ただ、集まっている人数の多さに驚きを隠しきれないようである。

 それもそうだろう。サンカサス王国の聖女が久しぶりの誕生したのである。長らく空席だっただけに、新たな聖女を一目見ようと、サンカサス王国中からゾディアーク伯爵領へと人が集まってきているのである。

 このお披露目行進の最中にも、どんどんと街へと人が集まってきている。

 それとは裏腹に、周囲を固める護衛を務める傭兵たちの間には、ますます緊迫した空気が流れ始めている。


「スラリー、どうしました?」


 カプリナが羽織るマントに擬態しているスラリーが、妙な動きを見せている。


「まもの、ちかく。ぎたい、ちゅうい」


「えっ、擬態ってどういう?」


 スラリーの言葉に、カプリナが首を傾げている。


「どうやら、スライムが聴衆の中に紛れているらしいです。くそっ、なんだってこんな日にやってくるんだ」


「こういう日だからこそ、来たのかもしれません。ただ、スライムは通常群れることはありませんし、これだけの人がいておとなしくしていることもありません。おそらく、テイマーでもいるのでしょうね」


 アリエスたちの中に緊張が走る。

 どうやら聖女お披露目の行進は、ただでは終われないようである。

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