第44話 報告をする元魔王の部下
アリエスの生誕祭と聖女指名の儀式が着実に整いつつある中、潜入調査を続けているライラは、依頼を受けて郊外の森へとやって来ていた。
今日は採集系の依頼を受けてやって来ているので、森の奥深くに入り込んでいる。
ライラが依頼の対象である植物を探していると、一人の魔族がふらりと姿を現す。
「パイシズ様の使いの者ですか。よくここが分かったものですね」
「指定をしてきたのはあなたではありませんか、ライラ様。お久しぶりです、ご報告を聞かせて頂きましょう」
どうやら目の前の魔族は、ライラが報告をするために呼び寄せた魔族のようだ。
全身をローブで覆っており、どのような姿かはまったく分からない。
とりあえず、ライラはこの魔族に対してここまでの報告を行う。聞いていた魔族は、その報告の内容に驚いているようだった。
「なんと、行方不明になっているフィシェギルは生きていましたか」
「ええ。驚いたことに、聖女候補の少女の護衛になっていましたね。分からないように全身を隠すような服装をしていますけど、あれは誰が見てもよく分かるでしょう」
「ふむふむ。これはパイシズ様だけでよろしいですかね、伝える相手は」
報告を受けている魔族が、ライラに確認をしている。
それに対してライラは、当然でしょうというような表情を見せている。
「パイシズ以外に話をしてみなさい。間違いなく裏切り者といって攻め入ってきます。まだいろいろと確認したいことがありますから、それはどうしても避けておきたいのですよ」
「承知致しました。では、この報告の全件をパイシズ様に伝える、そういうことでよろしいのですね」
「当然です。私の調査はあくまでパイシズ様からの依頼。他の方に教える義理などありません。あなたも絶対誰にも話さないで下さいね」
「ははっ、もちろんでございますとも」
魔族はライラの言葉に震えながら答えていた。
「それと、今日から五日後にこの街の聖女の生誕祭と聖女認定の儀式が行われます」
「ほほう。それはいよいよ、我々と敵対する存在になるということですな」
「ええ。でも、私はあの聖女を何かと引っ掛かりを覚えていますので、当日の護衛の一人として潜入することになっています」
「ライラ様自らが!」
魔族は目を丸くして驚いている。
「当日はこの国だけではなく、よそからも聖女が集まりますので、かなり危険な任務ですね。聖女によっては私の擬態を簡単に見抜きそうですからね」
「いやはや、ライラ様を失えば、我々への打撃はかなり大きいですぞ」
「ええ、正直賭けになるでしょうね。魔族を受けて入れているような街なのですから」
ライラはかなり不安を抱えているようである。
「……分かりました。報告はこれですべてでございますね」
「はい、お願いしますね」
「承知致しました。私はパイシズ様とライラ様にご恩があります。いかなることがあっても裏切りませぬ」
ローブに身を包んだ魔族は、ライラから一歩距離を取る。
「それでは、ライラ様。ご無事を願っておりますぞ」
報告のすべてを受け取った魔族は、その場から霧のように姿をかき消してしまった。
魔族が立ち去ったのを確認すると、ライラはため息をひとつついて、採集作業を再開させたのだった。
―――
ライラから報告を受けた魔族が、拠点へと戻ってくる。
その足で真っすぐパイシズのところへとやって来た。
「パイシズ様、ライラ様より報告を受け取って参りました」
「おお、ご苦労だったな、ピスケース」
パイシズはピスケースと呼んだローブに身を包んだ魔族を手を広げて迎え入れていた。
「さすがは我が息子だな。だが、私と二人きりで一緒にいる時は父上と呼んで構わぬからな?」
ばさりとローブが外されると、そこからパイシズによく似た感じの顔をした魔族が姿を見せる。なるほど、親子というのも頷ける風貌だ。
「ふむふむ……。サハーが生きていたか。しかも、聖女の護衛を務めているとは、これはなんとも信じがたいことだな……」
「裏切りですかね?」
「いや、サハーは忠義にあつい男だ。簡単に裏切るなど考えられる」
報告を見ながら、パイシズは険しい顔で唸り続けている。
「これも気になるな」
「どこですか、父上」
パイシズが指差す部分をピスケースが覗き込んでいる。
「サハーと並んで、前魔王様の部下であったスラリーだな。奴までが聖女の周りで働いている」
「スラリーですか。私はその魔族をよく知りませんね」
「ライラと同じ諜報部の魔族だったからな。一部の魔族しか知らぬ存在だ。なにせスライムだからな」
「なんと?!」
パイシズから聞かされた内容に、ピスケースが大きく驚いている。
「サハーにスラリー、この二体を従える聖女……。ライラの続報を待つしかあるまいな」
「左様でございますか、父上」
ライラからの報告は、パイシズにとってとても衝撃的な内容だった。
自分たちと同じように聖女によって倒されてしまった魔王に仕えていた魔族が、そろいもそろって聖女の下で働いているのだから。
だが、自分たちは今の新しい魔王の下で働く身。自由に動けないもどかしさに、パイシズはライラへと期待のすべてを賭けるしかなかったのだった。




