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魔王聖女  作者: 未羊


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第43話 罰を受ける元魔王

 アリエスが再び意識を取り戻した時、衣装の置かれた部屋に倒れていた。

 ただ、かなり時間が経っていたらしく、部屋の外から自分のことを探す声が聞こえてきた。


(やれやれ、これはものすごく怒られそうだな……)


 体を起こしたアリエスは、ゆっくりと起き上がり扉へと近付いていく。

 聞き耳を立てて、外に人がいなくなるタイミングを見計らって魔法でカギを開けて外へと出る。

 ただでさえ、行方不明になって大騒ぎになっているのだ。儀式の日まで立ち入り禁止になっている衣装室にいたことが発覚すれば、どんなお叱りを受けるのか分かったものではない。だからこそ、慎重にタイミングを計ったのである。

 うまく外に出られた。アリエスがそう思ってほっとした時だった。


「あーりーえーすー?」


 声が聞こえてきたので振り返ってみると、そこにいたのは育ての親である牧師だった。


「げげっ、おじいちゃん……」


 まさかいるだなんて思ってもみなかったので、アリエスは表情を引きつらせて後退っている。

 牧師の顔は笑顔ではあるものの、よく見てみると眉尻がぴくぴくと動いている。これは完璧に怒っている顔だった。


「アリエス、どこから出てきましたか?」


「えっと……」


 確認をしてくるということは、間違いなく見られていたということだと、アリエスは直感で感じ取っていた。

 アリエスは、じりじりっと後ろに下がっていく。


「ご、ごめんなさい!」


「これ、待ちなさい、アリエス!」


 魔力があるとはいっても人間を傷つける魔法を持たないアリエスは、牧師を目の前にして逃げ出そうとする。

 だが、牧師は老いぼれとはいえども素早かった。アリエスはがっちりと肩をつかまれ、あっさりと捕まってしまったのだった。


「皆の者、アリエスを発見しましたぞ!」


 牧師が大声で呼ぶと、周りから神官たちがぞろぞろとやって来る。

 肩をつかまれて身動きの取れないアリエスは、下を向いて怯えたようにしながら周りのみんなを見ている。


「牧師、どこにいたのですか」


「そこの衣装のしまってある部屋ですじゃ。衣装合わせに参加しておった神官たちの話を聞いて、もしやと思って張り付いておったのじゃが、思うた通りじゃったよ」


 どうやら牧師は、女性神官たちからアリエスが衣装のことを気にかけていたことを聞いていたらしい。そこでピンとくるあたりが、さすがは育ての親といったところである。

 周りを完全に取り囲まれ、さすがにアリエスも観念したようである。


「うう、ごめんなさい。衣装のことが気になりましたので、どうしても理由が知りたくてこっそりと忍び込んでしまいました。もうしません……」


 素直にしおしおと謝ると、神官たちは大体の事情を察して強くは咎めてこなかった。

 しかし、入ってはいけない部屋に入ってしまった以上、罰を受けてもらわなければならない。

 そこでアリエスに下された罰はというと……。


「はい、アリエス様。あと三回でございます」


「こんなに文字ばかり書いていられませんよ!」


「ダメですよ。罰なのですから、ちゃんと書いていただきます」


 アリエスの監督をしている神官に、ぴしゃりと断られるアリエスである。

 課せられた罰というのは経典の書き取りを十回である。

 この世界の神の教えを広めるために、まとめられた経典はそれなりのページ数になる。だからこそ、罰として成り立つのだ。

 実は世界中に広まっている経典の中には、今回のアリエス同様に罰則として書かれたものも混ざっているのだとか。

 問題を起こした神官たちへの処罰と、経典の普及が同時に行える画期的なシステムなのである。

 アリエスは涙目になりながらも、どうにか経典の書き取り十回の罰を終えることができたのだった。


「ふぅ~……、終わりました……」


 アリエスが罰を終えた時には、すっかり辺りは暗くなってしまっていた。

 まだ日が出てから間もない頃に捕まって罰が始まったのだから、日中まるまる経典の書き取りに費やしていたのである。


「お疲れ様です、アリエス様。それにしても文句は時々出ておりましたが、最後までやり遂げられるとはさすがでございますね」


 見張りをしていた神官がアリエスのことを労っている。


「それを言いましたら、あなたもだと思いますよ。一度も交代されていませんし、食事などで出ていかれた形跡もございません。私に最後まで付き合って下さるとは、あなたも信心深い方なのでしょうね」


「お褒め頂き恐縮でございます」


 女性の神官は、アリエスに対して頭をしっかり下げている。

 神官はアリエスの書き写した経典を手に取ると、その状態を確認する。


「素晴らしいですね。ここまできれいな筆跡というのも、なかなか見られたものではありませんね。この罰を受けられた過去の神官の中には、それはなんて書いてあるのかさっぱり読めない方もいらしましたからね」


 罰則について詳しいのか、神官はそのようなことを話していた。


「これでしたら、聖女様の書かれた経典として、各地の教会が欲するでしょうね」


「よ、よろしいのですかね。罰則として書かれたものがその様な扱いになるというのは、ちょっと戸惑ってしまいます」


 アリエスは困ったようにはにかんでいる。


「いいのですよ。この教会に置かれている経典も、同じように過去に罰を受けた神官がお書きになられたものですからね。見ての通り字のきれいな方でして、大司教にまでなられたそうです」


「それはすごいですね……」


 アリエスが感心していると、大きなお腹の音が鳴り響く。


「わわっ、私ってば……恥ずかしい」


 アリエスのお腹の音だった。

 これには神官も苦笑いである。


「それではお食事に致しましょう。私も朝から食べておりませんから、ご一緒してもよろしいでしょうかね」


「はい、よろしくお願いします」


 罰が終わってほっとしたアリエスは、それはおいしそうに食事を食べたのだという。

 その一方、もう二度とこんなことはしたくないと、自分の行動をもう少し制御できるようになろうと決意したのであった。

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