第40話 衣装の数の驚く元魔王
あっという間に時は過ぎていく。
気が付けば、生誕祭と聖女指名の儀式一週間前を迎えていた。
この日、アリエスとカプリナは二人して教会の一室に呼び出されていた。どうやら、当日に着る衣装ができたらしい。五日前と言っていたので、二日も早く仕上がったことになる。
どのような衣装なのか、アリエスたちは楽しみでたまらないらしい。どことなくそわそわした感じでソファーに腰を掛けていた。
「き、緊張しますね、アリエスさん」
「そうですね、カプリナ様。ですが、いくらなんでも緊張し過ぎだと思いますよ?」
見た目はほとんど落ち着いているアリエスに対して、カプリナの方は足を動かしたり、あちこち視線を動かしたりと、それはまったく落ち着きがない様子だった。
(まったく、なんとも落ち着きのないことだな。ここは聖女として、しっかりとカプリナに見本を見せてやらんとな)
こんなことを思う内なる魔王ではあるが、魔王時代に儀式らしい儀式の経験がないだけに、自身もかなり気持ちが落ち着いていないのだ。
しかし、自分は前世魔王で今世は聖女。そのことを自分に言い聞かせながら、カプリナの見本となるべく気を張っているのである。なんとも素晴らしい心構えではないか。
しばらく待っていると、扉が叩かれる。
「大変お待たせ致しました。聖女様と聖騎士様の儀式衣装をお持ち致しました」
外からは先日教会にやって来ていた服飾店の女性の声が聞こえてくる。
「今参りますね」
アリエスたちの部屋で控えていた女性の神官が、扉を開けに向かう。
扉を開けると大量の荷物を持った服飾店の女性と従業員の女性が入ってくる。
片手が塞がった状態ながらも、女性はきっちりと挨拶を決めている。
「ご機嫌麗しゅうございます。再びお目にかかれて光栄でございます。儀式で着用される聖女服と聖騎士の正装をお持ちしました」
女性がその様に言うのだが、どう見ても一着のようには見えない荷物の量だった。一体何着持ってきたのだろうか。
「一部の儀式では伝統ある衣装を必ず着用なされればなりませんが、この度は生誕祭を兼ねていらっしゃるとのことでして、パレードで着用される衣装などは私どもの腕によりをかけて手がけさせて頂きました。さあ、お披露目になって」
「はっ!」
従業員たちが一斉に動き出し、衣装を飾り付ける木組みを取り出して、当日に着用する衣装を次々と飾り始めた。一着どころか、なんと十着近くもあった。二人の合計ではなく、一人分でである。
あまりの衣装の数の多さに、アリエスもカプリナも驚きで固まってしまっている。
「衣装の説明ですが、こちらにある簡素な衣装が、聖女指名式とその前のみそぎの際に着用される衣装で……」
服飾店の女性が衣装の説明を始める。
パレード用、生誕祭の宴用などなど、それはもうすごい速さで説明をしている。あまりの説明の量に目が回りそうになっている。
「それで、最後のこの三着は、正式に聖女様となられた後に着用なさる普段着でございますね」
最後に説明が始まった衣装を見た瞬間、アリエスは思わずその衣装に目が釘付けになってしまった。なぜかは分からないが、とても惹きつけられてしまったようである。
「おお、さすがは慈悲の聖女様と同じ名前ですから、分かりましたでしょうか」
女性はにっこりと微笑んで一度説明が止まる。
そして、ひと息を入れると、再び説明をし始めた。
「こちらはかつてご活躍をなさいました、慈悲の聖女アリエス様が着用されていた衣装を参考に仕立てさせて頂きました。おそれ多いとは存じましたが、現代の聖女様のためを思い、それは裁断の段階から一つ一つ祈りを込めるようにして仕立てさせて頂きました」
アリエスは感じ取っていた。
他の衣装とは明らかに違う、その三着からあふれ出る魔力というものを。
(これは、神の祝福というものなのか?)
ふとこう思うと同時に、アリエスは思わず首を横に振ってしまう。
「……どうかなさいましたか?」
服飾店の女性が思わず声をかけてしまうほどの反応だった。
「なんでもございません。どうぞ、説明を続けて下さい」
アリエスはにこやかに笑って、説明の続きを促す。
困惑しながらも女性は、衣装についての説明を再開していた。
(いや、俺を聖女に転生させた奴の祝福なんぞ信じてどうするというのだ。だが、不思議とあの衣装には気持ちが奪われてしまう。一体どういうことなのだ……)
アリエスは必死に悩んだものの、その答えはまったく出ることはなかった。
長々とした説明が終わり、いよいよ衣装をひとつずつ試着しての最終確認を行うことになる。ただし、みそぎと指名式に使われる衣装二着だけは、試着は許されなかった。これだけは神聖なものであるので、やり直しては罰が当たるということだからだそうだ。
アリエスとカプリナは、それ以外の衣装を順番に試着していき、違和感や仕立てのミスなどがないか入念にチェックが行われる。
そして、アリエスはいよいよ気になっていた普段着の試着へと移る。
先程から気になっている衣装に、いよいよ袖を通す時が来たのだ。
アリエスはごくりとつばを飲み込むと、おそるおそる衣装へと手を伸ばしたのだった。




