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魔王聖女  作者: 未羊


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第4話 洗礼を受ける元魔王

 お昼を前にして、外が賑やかになってくる。

 どうやら教会の前に洗礼を受ける子どもたちが親と一緒に集まってきたようだ。

 すべての町や村に教会があるわけではないので、周辺に住む者たちはこのようにして教会のある場所でまでわざわざ出向いてくる。それが、洗礼式が昼から行われる理由である。


(あの外に集まってきてる連中は、みんな五歳児なのか。ずいぶんと多いな)


 アリエスが外を見ると、教会の周りを埋め尽くすかのように人が洗礼式の時を待ちわびている。

 想像していたよりもかなり多い人数だったので、思わずびっくりしているようだ。


「アリエス、お前もそろそろ準備しようか」


「はい、お爺ちゃん」


 五歳の少女らしく振る舞いながらも、内なる魔王は盛大なため息をついている。


(実につまらん儀式だが、世話になっている以上は付き合ってやらんとな。とりあえず、適性が出るだけなら俺が聖女にされることもないだろう。他のやつも注視せねばな)


 魔王は自分が聖女にされないように、同じように神聖魔力が高そうな人物を見定めて擦り付けようと画策しているようである。

 だが、ことというのはそんなにうまくいくわけがない。

 いざ洗礼式が始まるが、出てくる適性は剣だの農業だの木こりだの裁縫だの、聖女とは程遠いものばかりだった。

 職が指定されるようなお告げがあるにはあるものの、確かに事前に聞かされていた通りなんとも大雑把なものである。

 希望すれば適性の記された写しがもらえるらしいが、そんなのをもらって何になるのだろうかと、魔王は退屈そうに洗礼式を眺めている。


「アリエス、お前の番だよ」


「えっ」


 考えごとをしていたせいか、アリエスはつい牧師の声に驚いてしまう。


「緊張するのは分かるが、お前のことはわしらが守ってやる。安心して行ってきなさい」


 どうやらびっくりしたのは緊張のせいだと思われているようだ。

 アリエスの中の魔王は、愚かなと笑っている。

 とはいえ、呼ばれたからにはいかなければならない。

 アリエスは、教会の司祭の前に置かれた、不思議な色の石板の前に立つ。


(このような石板で何が分かるというのだ。まったくもってくだらん。さっさと終わらせて眠るとしよう)


 最後にしれっと五歳児の考え方が混ざっている魔王である。

 だが、そんなことなど気に留めることもなく、アリエスは石板の上に手を置く。


 ……何も起こらない。


(ふん、欠陥品が)


 アリエスがそう思った瞬間だった。

 ぱあっと光があふれ出し、教会の中を満たしていく。


(うおっ、まぶしっ!)


 さすがに目を開けていられない。

 ところが、その光は一瞬で消えてしまう。

 一体何だったのだろうかと、教会にいる誰もが思った。


「光には驚かされましたが、アリエスさんの適性は……と。うん?」


「どうかしたの?」


 子どもらしい言葉遣いで、アリエスは石板に近付いていく。

 ところが、石板になんて書いてあるのか見えない。司祭の隣でぴょんぴょんと飛び跳ねている。


(見えん。くそっ、なんて小さくて貧弱な体なのだっ!)


 内なる魔王はものすごくもどかしい叫び声をあげている。


「こらこらアリエス。あとで教えてあげるから、君は下がっていなさい」


「えー、けちー」


 なんということだろうか。アリエスの神託はこの場では発表されなかった。

 知りたくて食い下がるものの、司祭には断られる上に、育ての親である牧師までもが出てきてしまう。仕方なくこの場ではおとなしく引き下がるアリエスだった。

 アリエスは牧師とともに壁際に移動して、自分の後に向かった少女の姿をじっと見つめている。


「あの人、きれいな服」


「ああ、あの人はここの領主様のお嬢様だね」


「領主様の、お嬢様?」


「うん、そうだよ。カプリナといったかな。お前さんと同じ日に生まれた子だよ」


「へえ~、そうなんだ」


 同日に生まれたという領主の娘。

 なぜだろうか、アリエスはかなり気になったようである。

 アリエスが見つめる中、カプリナも石板に触れる。

 するとどうしたことか、アリエスと同じような現象が、カプリナの時にも起きたのだ。

 光がおさまった後、カプリナもアリエスと同じように石板を覗き込もうと必死にジャンプしている。だが、同じような背丈なこともあって、やっぱり見ることはできなかった。


「カプリナ様も、別室にて説明致しますね。伯爵様もよろしいでしょうか」


「ああ、構わない」


 伯爵と呼ばれた男性は、淡々と答えていた。


(俺と同日に生まれて、同じような現象を起こしているとは……。こやつ一体何者なのだ)


 アリエスの中の魔王は驚きを隠せずにいた。

 驚きで固まる中、アリエスはなにやら視線を感じる。どこから見られているのかと辺りを見回すと、カプリナと呼ばれた少女が自分のことを見つめていることに気が付いた。

 アリエスがその視線に気が付くと、カプリナはにこりと満面の笑みを浮かべている。


(な、なんなのだ、こやつ……)


 思わず引いてしまう魔王である。


 洗礼式も終わり、子どもたちが親御さんたちとぞろぞろと帰っていく中、アリエスとカプリナの二人だけが教会の中に残される。


「では、カプリナ様、アリエス、私についてきて下さい。もちろん伯爵様たちも」


「分かった」


 アリエスたちは司祭の後をついて行く。

 この二人には一体どのような神託が下されたというのだろうか。

 魔王はあまりにももやもやした気持ちに、難しい顔をするのだった。

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