第25話 予想外な結果を残す元魔王
王城からアリエスたちが去っていく。
国王たちは立ち去っていく聖女と聖騎士のペアを、ただ見送ることしかできなかった。
それというのも、聖女かつデビュタントを迎えたばかりの子どもとは思えぬ迫力というものがあった。
デビュタントの場で聖女の力を自分たちのものにする予定であったがために、国王の計画は完全に崩れ去ってしまったのだった。
「ぐぬぬぬ……、なんなのだ、あの聖女の力は!」
聖女たちが去った後の城の中では、国王は歯ぎしりをしながら大きな声で叫んでいる。
国家にとって大きな力となるはずだった聖女と聖騎士の力。その両方をつなぎとめることができずに、国王は苛立ちの表情を浮かべているのだ。
「生意気な聖女が……! 俺に逆らったことを必ず後悔をさせてやるぞ」
国王は思い通りにいかなかったことで、アリエスたちに対して恨み節のような言葉を呟いている。
そこへ、直後にアリエスたちに出会ったラソーダたちがやって来る。
「父上、お話があります」
「なんだ、息子たちよ」
顔に当てていた両手をどけ、完全に瞳孔の開いていた目を戻した国王は、落ち着いた様子で子どもたちに接している。
先程までの鬼気迫る気配が残っているために、末の王子であるソファリスはシーラとラソーダの後ろに隠れてしまっている。
「おお、すまぬな。大丈夫だ、俺はこの通り優しい国王だからな」
「お父様、取り繕い方がへたくそでございます」
国王の言葉に対して、シーラから辛辣なツッコミが入る。娘からのダメ出しに、国王は思わず玉座からずり落ちてしまいそうになってしまった。
「聖女様についてですが、私たちの方で謝罪を入れさせて頂きました」
「なっ、お前たち。なんて勝手なことを!」
間髪入れずにシーラが話を始めると、国王は勢いよく玉座から立ち上がってしまう。
ところが、そんな父親の叱責が今のシーラたちに通じるわけがない。
「聖女様を怒らせたまま帰らせるよりはよっぽどマシでございます。私たちが話をした結果、聖女様の機嫌は戻りましたし、国の危機にはちゃんと対応して下さることをお約束頂きましたよ」
「なんと……?!」
娘たちからの報告に国王は驚くばかりである。
「もう魔王はいないのですし、魔王軍の残党に対処していくだけでございます。それほど警戒すべき事情はございませんでしょうからね」
「お前たちのような子どもに、事情というものが完全に分かってたまるものか。出過ぎた真似はするな!」
ほっとした表情を浮かべるシーラたちを、国王は必死に叱責している。
だが、聖女との間で和解を勝ち取ったシーラたちに、国王の薄っぺらい威厳など通じるわけがなかった。
「父上、もうおやめください」
「なんだと?! 黙れ、俺の子どものくせに、出過ぎた真似をするでないぞ」
国王の怒りの言葉も、すっかり薄っぺらいものとなっている。ここまで来ると、もはや子どもたちを黙らせることは不可能となっていた。
「父上、お言葉ではございますが……」
ラソーダが国王に対して意見を述べ始める。
「聖女様には魔物を改心させて従わせる力がございます。あのまま魔物を集めて勢力が拡大するようになった時、国王の力で従わせ続けることは果たして可能でしょうか」
「ぐぬぬぬ……」
聖女の持つ、魔物を改心して従わせるという力。この力をラソーダたちはとてつもなく警戒している。
万一反旗を翻すような事態になれば、おそらく王国は簡単に滅ぼされてしまうだろう。そのくらい強力な力だと身をもって感じ取っていたのだ。
「聖女様の希望を叶えつつ、ご機嫌を取って国の平和を保っていただくのが最善なのでございます」
ラソーダの説明には、国王も完全に黙りこくるしかできなかった。
魔物を従えることは当然なのだが、聖女自身もかなり強い力を持っているのだから。とにかく敵に回さないこと、これしかないという結論を抱いていたのだった。
そんなわけで、定期的に人を送ることで、アリエスたちのことを監視しようというわけだった。
「父上、私どもの結婚相手は、また一からでございますね」
「うるさい、分かっておるわ!」
国王は完全にへそを曲げてしまっていた。
手元に置くはずだった聖女たちには完全に逃げられてしまったし、自分の子どもたちには知らない間に対応されてしまっていたりと、まったくもっていいところがないのだから。
結局父親である国王から部屋を追い出されてしまったシーラたちである。
「やれやれ、へそを曲げられてしまいましたね」
「仕方ありませんよ。そもそも父上の計画には穴がありすぎましたしね。オウルスからの報告を受けた時点で、この結果は目に見えていたのですからね」
シーラとラソーダは、父親の様子に完全に呆れているようだった。
「また、会えるでしょうかね、姉上、兄上」
「どうでしょうかね。あれでは国家行事に誘ったところで参加して下さるとは思えません」
「どうしたんだ、ソファリス。まさか、聖女様たちに一目惚れをしたというわけではないのだろうね」
訝しむシーラに対し、ラソーダはからかうように末の弟に確認をする。
なんということなのだろうか。ソファリスは真っ赤になって黙り込んでしまったのだった。
「……本気か?」
「……うん」
ソファリスは、アリエスに惚れてしまっているようだった。
「はははっ、そうかそうか、頑張るといいよ」
「ソファリスは、変わった趣味をお持ちのようね。でも、私たちは応援しますよ」
「……ありがとう」
どうやら、なんとも予想外なことが起きているようだった。
アリエスと王家との奇妙な関係は、しばらくの間続くことになりそうだ。




