第24話 王子王女と和解する元魔王
デビュタントを済ませた後のアリエスたちは、気まずい雰囲気になったにもかかわらず、ひと晩城で泊まっていくことになった。
案内された部屋でくつろいでいると、部屋の扉が叩かれる音がする。
「どうぞお入り下さい」
どうせやることもなくて暇なので、アリエスは訪問客を部屋に招き入れることにする。
サハーに命じて部屋の扉を開けると、そこには国王の三人の子どもたちの姿があった。
(誰かと思えば、王子王女か。そういえば先程挨拶がうやむやになってしまったからな)
王子や王女たちがやって来た理由を、アリエスはそのように推測した。
そして、その推測は当たっていた。
王子と王女たちは、それぞれアリエスに向かって自己紹介をしていた。
王子二人の王女一人、それがサンカサス王国の跡取り候補というわけのようだった。
王子は上から、ラソーダ、ソファリス、王女はシーラというらしい。ちなみにシーラ王女が一番上のようだ。
「先程はお父様が大変失礼を致しました。わが国には聖女様が長らく不在でございましたし、他国の聖女様の活躍を耳にしていたことで、功を焦ったようでございます。代わりに私どもの方から心より謝罪を申し上げます」
どうやら三人がやって来たのは、精神的にダメージの大きかった国王の代わりらしい。
だったら最初からするなといいたくなるアリエスだったが、聖女という立場もあってぐっと言葉を飲み込んでいた。
ひとまずは王女たちの謝罪を受け入れ、話をするためにテーブルを囲んで座るように促す。それを受けて、シーラは自分の侍女にお茶とお菓子の手配を頼んでいた。
お茶会の支度が整うと、シーラは一口お茶を含んでから話を始める。
「改めて、アリエス様、謝罪を致します」
「お父様でいらっしゃる国王陛下のなさったことですから、あなた方を責めるつもりはございませんよ。ご安心下さい」
アリエスはそのように話して、シーらたちを安心させている。
「国王陛下のあの様子から察しますに、国王としての威厳を示すために私を利用するつもりでしたのでしょうね。しかも、殿下方のどちらかと婚約までさせるつもりだったのでしょう」
「驚いた。そこまで見抜いていらっしゃったのですか」
「お爺ちゃんたちがずっと気にかけていらっしゃいましたからね。私もなんとなく察していました」
ラソーダが感心したように話すと、アリエスはしれっとそんなことを話していた。
育ての親である牧師と、所属する教会の中での話を総合するに、元魔王であるアリエスにとってはこの程度の想像などたやすいものだった。
だが、そんな裏事情を知らない王子たちからすれば、卓越した観察眼を持つように映ってしまう。そのため、王子たちはアリエスのことを過大評価してしまうのだ。
「今日の無礼もありましたので、私たちからすれば、弟との婚約の話も、聖女様を城に留めておくこともなかったことにしたいと思います。あとはお父様たちをいかに説得するかということでございますね」
シーラはアリエスのことは城で縛れないと判断したらしく、自由にしてもらうことを選んだようだった。
束縛するつもりなら、カプリナと一緒に国を出ていくことすらも計画していたアリエスからすれば、ちょっと意外な結果になりそうだった。
「それはありがたく存じます」
シーラの意見を歓迎するつもりのアリエスは、感謝の言葉とともに頭を下げている。だが、この行動にシーラが返って焦ってしまったようだった。
「頭を上げて下さい、聖女様。頭を下げるのは、むしろ私たちの方でございます」
頭を下げたことに対して、酷く慌てているようだった。シーラたちの中では、自分たちよりもアリエスの方が立場は上と認識したようなのだ。
身分が上の者は、下の者に対して頭を下げないというのが常識なので、シーラがこれだけ慌てているのだ。
そんなわけで、アリエスはおとなしく頭を上げる。
「私たちとしましては、聖女様には元の街に戻って頂いて、緊急の場合だけ頼らさせて頂くということにします。ただし、国の中で起きていることについては、教会を通じて細かくお伝えさせて頂きますので、そこはご了承ください」
「承知致しました。自由にさせて頂けるのでしたら、それだけでも十分でございます」
アリエスはシーラの提案を受け入れていた。
「そちらの魔族の方も、聖女様の下でしっかり監視して下さるのでしたら、国としては問題視しないつもりでございます。お父様たちはしっかり説得致しますので、こちらもご安心下さい」
「ありがとうございます」
アリエスは、横で黙って立ち続けるサハーに向けて、にっこりと笑ってみせる。
アリエスから笑顔を向けられたサハーはちょっと照れたような様子を見せたが、引き続き黙って王子たちの様子を監視し続けていた。
結果としては、アリエスとカプリナは、当面はそのまま伯爵領で過ごすことができるようになった。できる限り二人の意思を尊重することも約束してくれたのだ。
(ふん、ちょっと脅してやったのがいいように働いたようだな。面倒事に巻き込まれるのは、魔王の時で懲りたからな……)
アリエスはほっとした表情を浮かべている。その表情を見たシーラもひと安心した様子だった。
そんなわけで、アリエスはしばらく王女たちと歓談を行い、その後、家族と過ごしていたカプリナに報告に向かったのだった。




