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魔王聖女  作者: 未羊


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第22話 国王たちとまみえる元魔王

 最後にアリエスが入場すると、歓談の声がぴたりと止まる。

 会場のあちこちから、聖女を見定めようとして視線が注がれているのだ。


「見て。あれはゾディアーク伯爵家のご夫人よ」


「まあ、ご家族の方はいらっしゃらないのかしら」


「聖女様とはいっても、普通の少女じゃないか」


「まあ、家名もないだなんて。平民ということなのかしらね」


 アリエスを巡って、貴族たちの声があれこれと聞こえてくる。


(まったく、耳障りな声だな……)


 聞こえてくる雑音に、アリエスは表情は崩さないものの、拳を強く握りしめている。

 魔王としてのプライドと、聖女としての振る舞いがせめぎ合っているのだ。


「ダメよ、アリエス。あんな雑音に耳を貸しては」


 声をかけられて、アリエスははっと我に返る。

 よく見ると、握られていない手を肩に置きながら、代わりに怒った顔をしているカプリナの母親の姿があった。


「伯爵夫人……」


 アリエスはカプリナの母親の顔を見て、すっかり気持ちが落ち着いてしまった。自分のために怒ってくれる存在というのは、新鮮だったのだろう。

 今の自分は守られている。

 そう感じたアリエスは、自分の役割を貫き通すことに集中する。

 笑顔を浮かべ、気品あふれる立ち振る舞いで、あくまでも聖女という立ち位置に徹するのだ。

 信じられるだろうか。これでもかつては世界を恐怖に陥れていた魔王と同一人物なのだ。その方向性はまるで正反対である。


(ふっ、魔王も聖女もみなを守る立場というのにな……。だが、こうやって守られるというのも、悪くはないな)


 思わず目を伏せてしまうアリエスだった。


「静粛に! 国王陛下並びに王族の登場である。デビュタントを行う子女は、整列をして待つように」


 近衛騎士と思われる男性の声で、デビュタントを行う子ども以外は会場の縁へと退いていく。

 十歳となった子女たちは、先頭に聖女であるアリエス、隣に聖騎士であるカプリナが並び、その後ろに公爵家から順番に爵位に従って整列している。

 一番前で堂々と立つアリエスは、しっかりと前を見据えている。


(さて、この国の王族というのはよく分からんのだが、一体どういう連中が出てくるのだろうな)


 どうやら、緊張よりも好奇心の方が大きく勝っているようだった。

 だが、同時に、育ての親である牧師を含め、教会の人たちが警戒をしていた相手である。それゆえにアリエスも警戒……と思いきや、先述の理由のせいで楽しみに打ち震えているようだった。

 隣では聖騎士であるカプリナが緊張してカチコチに固まっている。声をかけてあげたいところだが、もうそろそろ王族が姿を現すとあって、アリエスは仕方なく見守るだけで済ませる。


 ようやく目の前に王族たちが現れる。

 一斉にデビュタントを行う子女はもちろん、付き添いで来ている家族たちも一斉に頭を下げる。もちろん、アリエスも下げている。


(魔力の感じからして、王族は全部で七人か。魔力の感じからして、国王夫妻、先代夫妻、それと王子王女たちといったところか。子どもが三人とは、恵まれた方かな)


 頭を下げて前が見えない状態でありながらも、アリエスは魔王時代の能力でもって王族の構成をしっかりと把握する。

 こういうのも魔王時代からの癖というものなのだ。相手を知ることは、戦いの上では重要だ。なので、会うたびに無意識のうちに相手を調べてしまう習慣が身に付いてしまっていたのである。


「国王陛下からのお言葉である。そのまま拝聴せよ」


 近衛騎士の横に立った男性が言い渡すと、国王へと体を向ける。


「では、陛下。お言葉をよろしくお願い致します」


「うむ」


 国王が一歩前に出てきて、会場の中を見渡している。


「よく参られたな、我が国の民よ。集まった令息、令嬢たちよ、デビュタント、誠に喜ばしい限りだ」


 ひと息、間を取った国王が言葉をかけ始める。


「今年は喜ばしいことに、我が国に久しぶりに誕生した聖女と、聖女を守護する聖騎士が揃ってデビュタントを迎える。この輝かしい席に同席できたこと、その喜びをとくとかみしめるがよい」


 国王はそう述べると、近衛騎士を見る。


「デビュタントを迎えた令息、令嬢たちに、その証を授ける。城に集まる時には、それを必ず身に着けるように、よいな?」


「はっ!」


 国王の言葉に、デビュタントに参加している子女が一斉に返事をする。もちろんカプリナも返事をしていた。


「さて、聖女と聖騎士の二人は、証を受け取った後、近衛騎士であるスペードについて、我らのもとに来るがよい」


「はっ、承知致しました」


 カプリナが返事をしているので、アリエスも同じように返事をしておく。

 どうやら自分たちは別室行のようだった。


(なんだろうな。あまりいい予感がしない)


 不安を覚えたアリエスは、手を挙げて国王へと発言の許可を求める。


「なにかな、聖女殿」


「はい、カプリナ様のご両親もご同行頂いてよろしいでしょうか」


「なんだ、それくらいなら構わぬ。デビュタントを済ませたといえ、いきなり子どもたちだけに無茶をさせるわけにはいかぬからな」


 国王からはあっさりと許可が下りていた。

 ひとまずは安心というところだが、アリエスからは不安は消えなかった。


 無事にデビュタントの証を受け取ったアリエスとカプリナは、カプリナの両親とともに、国王たちの待つ部屋へと移動する。

 アリエスの感じた不安は、はたして杞憂で済むのだろうか。

 いよいよ国王たちとの直接対決である。

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