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魔王聖女  作者: 未羊


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第21話 デビュタントに臨む元魔王

 デビュタント、貴族の子女が十歳を迎えると行うことになる、ひとつの通過儀礼である。

 社交界へのデビューであり、これによって大切に育てられてきた子女たちが厳しい貴族社会に放り込まれることになる。

 もちろん、このデビュタントよりも前に社交の場に出てきても構わないのだが、積極的に行う貴族は少ないようである。

 そして、デビュタントでは登場の際のパートナーが必要である。基本的には異性の人物が隣に立つことにはなるが、これも特に縛りはない。

 話を聞いたアリエスは、正直悩んだ。本当なら育ての親である牧師なのだが、教会の人間は何かと縛りが多く、そもそもついて来ていない。

 近くにいるの大人といえば……。


 そんなわけでこうなった。

 聖騎士であるカプリナは父親が、聖女であるアリエスはカプリナの母親が付き添うことになったのだ。


「申し訳ございません、伯爵夫人。私のお相手がいないばかりに」


「いえいえ、聖女様のお相手を務められるとなれば光栄でございますとも」


 スラリーとサハーは部屋で待機である。魔物が入ることは許可が下りなかったのだから仕方がない。


「怪しい奴らが居たらとっちめてやりますから、アリエス様とカプリナ様は安心して会場に向かって下さい」


「えっとですね、みなさん魔物が怖いとのことですから、一歩も部屋から出ないで下さいね。ただし、緊急事態の時はその限りではありませんので、もしもの時はお願いします」


「ぐぬぬ……、分かりました」


 アリエスに念押しをされ、二人は諦めたのである。


 こうして、ゆっくりと会場へと向かう。

 本来ならば爵位が下の者から順番にお城のパーティーホールに姿を見せる。つまりは、最後は公爵家、王族の順番に登場する習わしがある。

 だが、聖騎士と聖女は特別だ。

 なんと王族よりも後へと順番が回される。つまり、デビュタントの大トリとして、聖騎士、聖女の順番に登場することになる。

 パーティー会場に集まった貴族たちの視線が集まる中での登場ということで、カプリナはガチガチに緊張しているようだ。


「大丈夫ですよ、カプリナ様。私がついております」


「あ、アリエスさん……」


 アリエスが声をかけても、カプリナの眉がハの字になっている。緊張のあまりに怖がっているようだ。


「そうだぞ、カプリナ。私たちもいるのだ。聖騎士たるもの、堂々としなくてどうするというのだ」


「そうですよ。不安になるのは分かりますけれど、カプリナは聖女を守る聖騎士なのです。普段の通りに堂々としていればいいのです」


「お父様、お母様……」


 両親にも言われて、カプリナは突然自分の頬を叩いた。


「カプリナ様?!」


 アリエスが驚いているが、次の瞬間のカプリナの表情は実にキリッと引き締まったものになっていた。


(な、なんだ。気合いを入れていただけか。まったく驚かせてくれるな)


 あまりにも突然だったので、さすがのアリエスも慌てたようだった、

 しっかりとした表情を見せてくれているので、ひとまず安心といったところだった。


「カプリナ・ゾディアーク伯爵令嬢!」


 会場の外で待機していると、カプリナの名前が先に呼ばれる。


「それでは一足先に失礼します。アリエス様」


「はい。私もすぐに参りますね」


 お互いに笑顔を向け合うと、カプリナは先に父親に付き添われて会場へと踏み入っていった。

 最後の一人となったアリエスは、ひとまず胸に手を当てて呼吸を整える。


(カプリナと一緒になって選んだドレスだ。使用人たちも時間をかけてきっちりと整えてくれたし、どこもおかしなところはないはず)


 つい、身だしなみが気になってしまうアリエス。


(ええい、大きな席であっても緊張したことなどないというのに、なぜ今になってこんなに緊張を感じているのだ。貴族の中に放り込まれるたった一人の平民だからか? いや、聖女という肩書きだからか?)


 アリエスは手袋の中の手が、じんわりと汗ばんでいることが気になり始める。どうやら、緊張のあまりに手に汗をかき始めたようだ。


(落ち着け……。平民とはいえ、今の俺は聖女だ。大丈夫だ)


 呼吸は先程整えたばかりなはずなのに、なぜか何度も深呼吸をしてしまう。

 見かねた伯爵夫人が、アリエスの両肩に手をそっと添える。


「大丈夫です。落ち着いて下さい、アリエスさん」


「伯爵……婦人……」


 思わず目を見開いて見上げてしまう。

 ぴたりと合った伯爵夫人の目を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。


「最後は、我が国の希望の聖女、アリエス様です!」


 自分の名前が呼ばれて、アリエスは慌てて会場の中へと視線を向ける。


「呼ばれましたね。それでは参りましょうか。アリエスさんもカプリナに仰られたように、普段通りを心がければいいのですよ」


「はい……、承知致しました」


 アリエスは伯爵夫人の呼び掛けに、柔らかな笑顔を見せて頷いている。


(……これが、俺にとって聖女としての第一歩となるのか)


 覚悟を決めたアリエスは、伯爵夫人に手を引かれてパーティー会場の中へと踏み入っていく。

 本格的な交流が始まるデビュタントの場。

 人間社会の洗礼が、アリエスに襲い掛かろうとしているのだった。

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