第20話 カプリナと再会する元魔王
カプリナが到着後、部屋でサハーと遭遇してひと悶着があったことは言うまでもない話だった。
だが、アリエスが説明したことに加えて、スラリーからの言葉添えもあってカプリナはどうにか受け入れていた。
「承知致しました。アリエスさんのお力で、魔族側から引き入れたというわけですね。聖女という存在は、魔物すらも改心させてしまうのですか」
カプリナは改めてアリエスに対して感服しているようである。
「そういえば、伯爵様はいらっしゃらないのですか?」
「お父様はお母様と一緒に貴族の挨拶回りに出ております。私たちはデビュタント前ですので、このようにのんびりしていても構わないのですよ」
「まあ、そうなのですね」
アリエスは一緒に来ているはずの伯爵たちがいないことに気が付き、カプリナに確認する。カプリナからはそのような答えが返ってきて、アリエスは理解したようだった。
「それにしても、よく王族のもとに連れていかれませんでしたね、アリエスさん」
「アリエス様の希望を聞いてくれた護衛隊長が叶えてくれたのだが、何度となく連れ出そうとする連中が来たな。俺が全部追い返してやったがな、はっはっはっはっ!」
カプリナの質問に答えたのはサハーだった。
サハーは聖女であるアリエスの望むことだといって受け付けなかったのだが、それでも連れ出そうとするからすごんでまで追い返していた。さすが護衛を誓っただけのことはある。しっかりと仕事をしているのだ。
「はんぎょじんごときが、りくのうえ、よくせいかつできる」
「ふん、アリエス様の加護を頂いた時点で、そんな弱点は克服しておる。以前はスラリー殿の方が地位は高かったが、今は同等だ。偉そうな口を利くでないぞ」
「えらそうにいうな。すらりー、つよい、ためす?」
「はいはい、やめて下さい。ここは城の中です。本気で暴れて壊れてしまったらどうするのですか」
言い争いを始めたスラリーとサハーを、アリエスが間に入って邪魔をしている。さすがは聖女、その圧倒的なオーラで二人をあっという間に従えてしまった。
「さすがはアリエスさん。素晴らしいお力です。私もできるようになりますでしょうか」
「はい、きっとできるようになりますよ。魔王も倒れた世の中ですから、仕える相手を探している魔族もいらっしゃることでしょう」
カプリナの質問に、アリエスは笑顔で語っている。後ろではスラリーとサハーが揃って頷いている。
「だがな、魔族を従えるというのも考えた方がいい。人間どもは魔族を敵視している者が多いのだ。俺一体だけならそこまで思うやつはいないだろうが、数が増えていけば必ず警戒するようになる。心には留めておいてくれ」
ところが、その話が終わったところでサハーが釘を刺してきた。
元々魔王に仕えていただけに、魔族の上に立つ者が人間たちにどう見られるかということは、いやというほど分かっているのだ。
つまり、従える魔族が増えていくと、人間たちから魔王認定されかねないというわけである。
このまま人間の中で生きていきたいのなら、いたずらに魔族の部下を増やすなと忠告しているのである。
「ありがとうございます、サハー。今の私は聖女。聖女は国に安寧をもたらす存在でなければなりませんものね。敵対するというのはもってのほか、忠告を受け入れておきましょう」
アリエスは眩いばかりの笑顔で答えていた。
(さすがアリエス様。ご自身への心遣いとあれば、魔族の言葉でも聞き入れるのですね。そして、このサハーという魔族、本気でアリエス様を心配なさっています。聖騎士として、負けていられませんね)
カプリナは、思わずサハーに対して静かに対抗心を燃やし始めていた。
夕食の時間を迎え、ようやくカプリナの両親であるゾディアーク伯爵とその夫人が部屋に姿を見せた。
「待たせてしまったな、カプリナ。まったくデビュタントの挨拶回りをしていただけだというのに、奴らの話は長すぎて困る」
「まったくですね。我が子の自慢話は分かるのですが、いくらなんでも話し過ぎだと思います」
夫婦そろってかなりご不満なようだった。
部屋の中に配膳が終わった夕食を見て、伯爵たちは困ったような顔をしている。
「そうか、そんな時間を迎えていたのか。まったく、子どもたちとのだんらんの時間を削られてしまうとは、これは十分な抗議理由にできるな」
伯爵は分からないように振る舞ってはいるが、言葉にしっかりと怒りが出てしまっていた。
「とりあえず、アリエス様。どのようなことがあったのか、説明して頂けますでしょうか。我が娘とご一緒されるはずでしたよね?」
「あ、えと、その……」
伯爵から睨むような視線を向けられて、アリエスは慌ててしまっている。聞かれるとは想定していたものの、思った以上に怒っているからである。そのために、アリエスがなんとも挙動不審となってしまったのだ。
「貴殿、これ以上アリエス様を困らせるでない。おそらくは我々フィシェギルのことが原因だ。貴殿らを巻き込まぬようにと案じられたのだろう」
「なんとな?」
サハーが代わりに説明するが、伯爵はアリエス本人から説明を求めている。
「はい、サハーの仰る通りです。王家の体面を守りつつ、カプリナ様たちを危険から遠ざけ、相手にも一応の満足を与えるために、そのようにしました」
「アリエス様の仰る相手というのはもちろん魔族のことだ。魔族にとって聖女や勇者というのは脅威の存在でしかない。だから、幼いうちに殺そうと考えたようだ」
「なんとそうでしたか。ですが、聖女様がわざわざ危険を冒す必要はないのです」
伯爵が跪きながら、アリエスの手を握っていた。どうやらかなりの無茶をしたと認識されているようである。
いろいろあったものの、食事が終わる頃にはアリエスたちの関係はほとんど元通りである。
落ち着きを取り戻したアリエスたちは、いよいよデビュタントの日を向かえたのである。




