表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王聖女  作者: 未羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/175

第2話 赤ん坊となった魔王

 次に魔王が意識を取り戻した時、空は灰色の雲に包まれた光景が目に飛び込んできた。


(どこだ、ここは……)


 声を出そうとした瞬間、魔王は驚いた。

 変な声しか出せなかったのだ。


(くそっ、まともに喋れぬぞ。まさか、本当に赤子にされてしまったというのか?)


 魔王は慌てて動こうとするが、体も思うように動かない。


(くそっ、何かに包まれているような感じだ。なんだ、いったいこれは!)


 魔王は自分が置かれた環境が把握できずに、とても不快そうに暴れようとしていた。


 しばらくすると、扉が開くような音が聞こえてくる。


「おやおや、何か泣き声が聞こえてくると思いましたら、赤ん坊ですか」


 頭上から年老いた男性の声が聞こえてくる。

 誰だと思って見ようとしても、魔王の首はまったく動かない。どうやらまだ首の座ってない赤ん坊のようである。

 次の瞬間、優しそうな表情をした男性の顔が視界に入ってくる。明らかに高い位置にあるので、自分が地面にいることがようやく理解できたようだ。

 徐々に顔が迫ってくると、今度は自分が持ち上げられる感覚に襲われる。


「おお、よしよし。なんというきれいな青色の瞳なのでしょうかね」


 男性は魔王の顔を見て、笑顔のまま特徴を呟いている。


「この教会の入口に置かれていたということは、おそらくは捨て子でしょうね。なんとおいたわしいことでしょうか」


 男性は嘆いているようだった。


(この男、見た感じからすると牧師か? 教会だとか言っていたから、間違いないだろうな)


 抱きかかえられながらも、魔王は実に冷静だった。

 そして、次の瞬間には魔王が教会に拾われるとかどういう状況だと憤っているようだった。


「おお、よしよし。すぐに中に入りますからね。ここに捨てられていたのも何かの縁。この私があなたの面倒を見てあげますからね」


(ふざけるな! 魔王である俺が敵である教会の人間に育てられるなど、あってたまるものか!)


 騒ぐものの、泣くだけしかできない赤ん坊ではあまりにも無力だった。

 こうして、魔王は教会の牧師に拾われて育てられることになった。


 魔王が牧師に拾われてから一年が経つ。

 アリエスと名付けられた魔王は、すくすくと成長していっていた。

 だが、まだまだ不自由な生活に、魔王は不満を覚えているようだ。


(この体は人間の女か。一年経ってようやく歩けるようになってきたが、まだまだまともな生活ができなさそうだな)


 魔王は自分の今の状況にもまだまだ不満が大きいようである。

 ベッドの上で寝転がっていると、外がなんだか騒がしくなってくる。

 何事かと思って音のする方を見る。首も座ったことで、顔を動かせるようになったので可能となったのだ。

 扉が開いて、牧師以外にも何人か神官が入ってくる。


(うげっ、教会関係者ばっかじゃねえか)


 魔王はあまりのできごとに驚いてしまっている。

 以前は魔王だったがために、教会関係者は全員敵である。拾ってくれた牧師は、生きるためにやむなくそのまま放置しているのだ。


「おやおや、金髪に青い目、それに透き通るような白い肌。可愛らしい子ではないですか」


「はい、女の子で名前はアリエスと申します」


「おやおや、歴代の聖女の中でも慈悲深かった方のお名前ではないですか」


(なんだと?! 俺の名前は聖女の名前だったのか。なんという屈辱)


 牧師たちの話を聞いていた魔王は、ものすごく憤りを感じている。

 魔王たる自分に、宿敵である聖女の名前をつけるとはなんたることかと、本気で怒っているのだ。


「おやおや、何か喋っていますね」


 神官たちが近付いてくる。

 魔王はこいつらをまとめて消すチャンスだと思い、魔力を練り始める。


(うう、赤ん坊の体ではうまく魔力が練れないな。だが、さすがに頭に来たから消えてもらうぜ!)


 聖女の名前をつけられたことに対して、相当頭に来ているようだ。

 育ててくれた牧師もろとも、神官全員を消すつもりで魔力を練っている。


「なんだ、この光は」


「まさか、この赤ん坊が?」


「まだ一歳だったよな、魔法が使えるなどありえない!」


 神官たちが驚いている。


(ふははは、死ねえっ!)


 魔王が魔法を放つ。

 だが、その直後に魔王は違和感を感じる。


「おお、長年悩んでいた腰痛が消えた……」


「お、おいっ、見ろ。頭に毛が生えているぞ」


「肩こりが治ったぞ!」


 牧師と神官たちが騒いでいる。

 魔王はどういうことかと面食らってしまっている。


「おお、このあふれ出る神聖魔力……。もしかしたら、この子はこの国の聖女様になられる方かも知れませぬな」


「なるほど、この禿げ渡った頭にこのような髪を復活させるなど、まさに神業と言えましょう」


(神聖魔力? なんだと、俺は魔王だぞ)


 魔王はぷんすかと怒っているが、一歳児の怒りなんて可愛いものである。

 目の前の牧師たちの表情はにまーっと顔が完全にほころんでいる。


「このことはわしらだけの秘密だぞ」


「そうだな。誰かに知られたら、きっと王家にまで連絡がいくはずだ」


「まだ一歳の可愛い赤子だからな。まずは五歳くらいまではわしらの手で守ってやらねば」


 ぽかーんとする魔王の目の前では、牧師たちが年甲斐もなくわいわいと騒いでいた。


 どうやら魔王が持っていた強大な魔力は、転生させた神のいたずらによって聖女の力へと変換されてしまったようである。

 自分でも思ってもみなかった力を持たされてしまった魔王は、どうなってしまうのだろうか。


(……こやつらが五歳くらいまで育ててくれるのか。仕方がない、力に慣れるまではこやつらの世話になるか)


 不本意ながらも聖女となってしまった魔王は抗う気力をなくし、牧師たちの元でしばらく世話になることを決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ