第174話 伯爵領にお偉いさんを連れてくる元魔王
ペガサスを飛ばしたアリエスは、あっという間にゾディアーク伯爵領まで戻ってきてしまう。やはり、地形を無視した移動というものは楽でいいものだった。
普通ならば街道沿いに進んで七日もかかるような場所も、地形を無視すれば半分程度で済む。ちゃんと街に宿泊しながらだったので、それすらも無視すればもっと早かった可能性はありそうだ。
「信じられん早さよな」
「私も最初は驚きましたよ」
アリエスの後ろに乗っていた国王とヨミナ王女は、ゾディアーク伯爵領に到着した時にはこんな言葉をこぼしていた。
国王とヨミナ王女が話す内容は聞こえていたものの、アリエスはあえて気にしないでいた。なぜなら、今はそういう状況ではないからだ。
地上へと降り立ったアリエスは、国王とヨミナ王女をペガサスに乗せたまま、ゾディアーク伯爵の屋敷を目指す。
「聖女様?!」
伯爵邸の目の前までやってくると、衛兵に気付かれる。
アリエスの姿に気が付いて駆け寄ってきた兵士だったが、ペガサスに乗っている人物を見て再び大声を上げる。
「ここ、こここ、国王陛下?!」
「いかにも。私がサンカサス王国の国王である」
「しょ、少々お待ち下さいませ。伯爵様を呼んで参りますっ!!」
国王の姿を認め、大慌てで屋敷の中へとすっ飛んでいく兵士。その姿に、アリエスはつい笑ってしまっていた。
しばらく待つと、ゾディアーク伯爵と娘のカプリナが慌てて姿を見せた。
「これは国王陛下。このような場所にお越しいただき光栄でございます」
ゾディアーク伯爵は跪いて国王に挨拶をしている。
聖騎士であるカプリナも、ドレス姿ではあるが同じように跪いている。
「堅苦しい挨拶はよい。とりあえず中に入れてもらって、状況を説明してもらいたい」
「はっ!」
国王の命令を受けて、伯爵はすぐに部下に命じて国王たちを迎え入れる支度をさせる。
だが、あまり待たせるわけにはいかないので、ひとまずは屋敷の中に足を運んでもらうことにしたようだ。
アリエスたちは、屋敷の玄関から近い応接間に一時的に通された。先触れもない急な訪問なので、お茶すらも出てこない状況である。
しばらくすると、応接間の扉が叩かれ、ゾディアーク伯爵とカプリナが入ってきた。
「大変失礼を致しました。それでは、食堂へ移動いたしまして、食事をしながら説明ということでよろしいでございますでしょうか」
伯爵に聞かれて、国王とヨミナ王女は自分のお腹に手を当てている。
確かに、ここまでろくに食事もできなかったので、おなかはとても空いている。なので、この食事の誘いに乗ることにしたようだった。
「分かった。それでは食堂で現状の説明を受けよう」
「はっ! では、私めが直々にご案内致します」
国王が食事に応じたので、伯爵が国王たちを食堂まで案内することとなった。
食堂までやってくると、すでにテーブルには食事が並べられていた。
ちょうど伯爵たちの食事の時間も近付いていたので、これだけの準備ができたようだった。
「我々の分だけの予定でしたので、このような簡素な食事になってしまって申し訳ございません」
「よいよい。急な訪問だったのだから、食事が出てくるだけでもよしとせねばな」
「はい。もう一食我慢も覚悟しましたので、あるだけでもありがたく思います」
申し訳なさそうに話す伯爵に対して、国王もヨミナ王女も寛大な心でもって咎めるつもりはないようである。
「ありがたく存じます」
国王とヨミナ王女の心遣いに、伯爵は大きく頭を下げていた。
これで全員揃ったかと思いきや、外から誰かが近付いてくる足音がする。
食堂の前で足が止まり、扉を叩くとともに呼び掛ける声が聞こえてきた。
「傭兵ライラ、招集に応じ、ただいまはせ参じました」
どうやら、ライラがやって来たようだ。
傭兵でありながら、魔族たちのまとめ役でもあるライラなので、確かにテレグロス王国軍との戦いについて話すとなれば、必要な人物だろう。
「おお、来てくれたか。入りなさい」
「はっ、失礼致します」
伯爵が給仕に命じて扉を開けさせると、ライラがその姿を見せたのだった。
「ライラ、よく来て下さいましたね」
「はっ! アリエス様がご帰還なされたとあれば、たとえ遠くにいようともすぐに駆けつけます」
「ふふっ、頼もしいですね」
ライラの返答を聞いて、アリエスはつい笑ってしまう。
これでも十三年前までは、上司と部下の関係性だったのだ。それゆえ、ライラがこう答えるのも当然というものである。
こうして、テレグロス王国軍との戦いの状況を確認する上で必要な人員が揃った。
ここからは食事をしながら、テレグロス王国軍との間でどのような戦闘が行われ、現在はどのようになっているのかという状況の説明を、国王やヨミナ王女に行うことになる。
ゾディアーク伯爵とカプリナ、それとライラから戦果報告には、国王もヨミナも言葉が出てこなくなるくらいに驚いていた。
「キャサリーン様の加護なしとはいえ、テレグロス王国軍を一方的にですか。さすがは私の守護騎士と、魔王時代の部下ですね」
「はっ、このライラ、アリエス様のために精一杯尽力させていただきました」
「守るべきものを守っただけです。当然のことをしたまでです」
アリエスが褒めていると、ライラもカプリナもさらっと答えていた。二人とも相変わらずといった感じだった。
その後も、捕らえたテレグロス王国軍の処遇などの確認をする。
ひとまず、王国軍の兵士たちが無事と聞いて、ヨミナ王女はほっとしているようだった。
「そういえば、そちらの方はどちら様でしょうか」
ある程度話が済んだところで、ようやくカプリナがヨミナ王女のことを尋ねてきた。今までは国王に驚きすぎて、まったく気が付かなかったようである。
「あ、申し遅れました。私はテレグロス王国の王女ヨミナと申します。此度はお父様と兵士たちがご迷惑をおかけしたこと、お詫び申し上げます」
「まあ、テレグロス王国の王女殿下でしたか。これは失礼を致しました」
ヨミナ王女とカプリナがお互いに頭を下げ合っている。
「ゾディアーク伯爵よ」
「はっ、なんでございましょうか、国王陛下」
「テレグロス王国軍の扱い、私とこのヨミナに任せてくれぬか?」
「はっ、承知致しました」
国王から声をかけられて、ゾディアーク伯爵はその言葉に従うことにしたようだ。
はたして国王とヨミナ王女は、テレグロスの兵士たちにどのような処置を行うのだろうか。ちょっぴり興味のあるアリエスなのであった。




