第173話 戦果報告を受ける元魔王
カプリナから遅れること二日後に戻ってきたサハーだったが、テレグロス王国軍との戦果を国王に伝えるために、王都にとんぼ返りである。
まったく、人使いが荒いもんだと文句を言っていたが、アリエスに伝えなければならない以上、口には出さずに黙ってサハーは王都へと引き返していった。
そうして、王城に滞在しているアリエスのところへとサハーがやって来た。
「あ、アリエス様、ご報告が、ございます……」
急いで馬を走らせてきたこともあって、サハーはへとへとである。馬もかなり披露しており、状況を見てびっくりしたアリエスが、すぐさま軽く回復魔法をかけていた。
「どうしたのですか、サハー。あなたにしてはかなりボロボロじゃないですか」
「まったくですよ……。と、とりあえずご報告したいことが……」
「分かりました。それは国王陛下と一緒の場がいいでしょう。疲れているところを悪いですが、陛下のお部屋まで一緒に参りましょう」
「か、畏まりました……」
サハーのことを気遣いながらも、アリエスは緊急性があると判断したため、国王の部屋へとやって来た。もちろん、関係者であるヨミナ王女も侍女に頼んで連れてきてもらう。
部屋の中では、一体なにごとかという顔で国王が待ち構えていた。
「聖女、一体どうしたというのだろうか。急な話とは驚かされるぞ」
国王は少々ばかり前のめりになって尋ねている。よっぽど気になっているという感じだ。
「詳細はサハーの口から伝えてもらうことにします。サハー、大丈夫ですか?」
「も、問題ありません」
まだ肩で呼吸をしているものの、国王への報告であるために、そんなことには構っていられない。
どうにか呼吸を整えて、サハーは国王へと報告を始める。
「ゾディアーク伯爵領内にて、テレグロス王国軍と交戦を致しました」
第一声がこれであり、国王とヨミナ王女が驚いている。
だが、アリエスはとても落ち着いていた。予想通りだったからだ。
「して、戦況は?」
「はっ。私が戻った際にはすでに戦闘は決着しており、カプリナ様とライラの手によってほぼ無力化、大した被害もなく短時間で勝負は決したとのことです」
「なんと……?」
「まあ、あのクラブ将軍が率いていてですか?」
サハーの報告に驚かされっぱなしである。
ヨミナ王女はクラブ将軍の実力を知っているためか、なおさらびっくりのようだった。
「私も、信じられない結果ですが、事実のようです。やはり、聖女キャサリーン様による援護というのが大きかったのでしょう。カプリナ様が先んじて戻られたことで迎撃準備を整えられたことも、早期決着の要因と思われます」
「なるほどな……」
国王はあごに手を当てながら考え込んでいる。
「そ、それで、クラブ将軍をはじめとしたテレグロス王国軍の皆様はどうされているのでしょうか」
「丁重に扱わせていただいておりますが、一応捕虜でございます。どうするかという判断は陛下にお任せしたいということでして、私がこうやって報告にやって来た次第でございます」
「う、うむ……。分かった、それならば私が出向いてやった方がいいだろう。大量の兵士をこの王都まで運ぶとなると、いろいろと問題があるからな」
「はっ、承知致しました」
国王は、手間などを考えてわざわざ赴くことにしたようだ。相手はなにせテレグロスの王国軍だからだ。
サンカサスの国王がこのように判断した横で、ヨミナ王女も反応する。
「でしたら、私もご同行させて下さい。私も一緒にいれば、クラブ将軍たちは手が出せなくなるでしょうから」
「危険だと思いますけれど?」
「いえ。私もテレグロスの王族として、この結果に責任を取らねばなりません。いくらお父様たちの暴走とはいっても、私はそのお父様の娘なのですから」
アリエスが止めようとするも、ヨミナ王女の決意は固かった。
わざわざ戦いを仕掛けた相手の国にやって来ただけあって、ヨミナ王女は覚悟が決まっていたのだ。
ヨミナ王女の表情を見たアリエスは、ヨミナ王女に近付いていく。
「さすがでございますね。でしたら、私もご同行させていただきます。そもそも、今の私にとってゾディアーク伯爵領は故郷ですからね。故郷を守らなくて、何が聖女だというのですか」
「アリエス様……」
アリエスも同行すると聞いて、ヨミナ王女は少々感激しているようである。
話を終えたアリエスは、国王の秘書官に声をかける。
「私のペガサスを連れてきて下さい。空から向かいましょう」
「はっ、承知致しました」
アリエスの指示を聞き入れ、秘書官はすぐに部屋を出ていった。国王よりも上ではないが、聖女は国王に匹敵する権力があるので、このようなことが起きるのである。
「サハーはヴァコル様と一緒に、国王陛下不在の間の王都を頼みます」
「承知致しました」
アリエスの指示を聞いて、サハーもしっかりと返事をしている。
こういうところの判断の早さは、さすがは元魔王といったところだろう。
「さて、魔族と聖女と私の故郷を侮辱してくれた方には、どのような裁きを下しましょうかね。キャサリーン様がいらっしゃらないことを幸運だと思っていただきます」
アリエスにしては珍しく、かなり悪い顔をしている。
見慣れない表情に、国王とヨミナ王女は思わず震え上がってしまうのだった。




