第172話 制圧する元魔王の仲間
テレグロス王国軍は、魔法と矢で牽制してきた。それと同時に騎兵がゾディアーク伯爵の軍勢に向けて突進してくる。
魔法と矢でかく乱したところを、騎兵によって一気に崩そうという作戦のようだ。
「甘く見てもらっては困ります。アリエス様とヴァコル様に鍛えていただいたわたくしの力、ここで見せてあげます!」
矢面というわけではないが、そこそこ前に立って、カプリナはすぐさま魔法を展開する。
「いでよ、防護壁!」
すでに練り上げておいた魔力を、キーワードによって一気に解放する。
カプリナたちの前には、魔法と矢を防ぐ光り輝く壁が出現する。
まだ十一歳ではあるが、アリエスとヴァコルに認められたカプリナの魔法はかなりのものだった。
テレグロス王国軍から放たれた魔法や矢をいともたやすく弾き返しているのだ。おかげで、ゾディアーク伯爵軍にはまったく被害がない。
「まったく、さすがあのアリエス様の相方を務めるだけある。こうなってくると、元配下である私も頑張らなければならないな」
カプリナの魔法を目の当たりにしたライラが、かなり気合いを入れているようである。
「魔族たちよ、まだ攻撃をするな。相手を確実に崩すまで待て」
「はっ!」
ライラの号令に、魔族の軍勢はぐっとこらえている。
「さて、騎兵どもを無力化しないとな」
魔族たちに命じたライラは、じっと前を見る。
「伯爵殿、兵はまだ動かさない下さい。今から相手の騎兵を無効化します」
「分かった。何をするのか知らないが任せる!」
ゾディアーク伯爵は、ひとまずライラにこの場を預けることにした。
それもそうだろう。できれば被害は最小限にしたいのだ。何か相手を無力化する作戦があるのなら、それにかけてみたいと思うのは当然というわけである。
「さあ、魔王軍諜報部の力、とくと見るといいわ」
ライラは胸の前で両手を向き合わせて、そこに魔力を集中させている。
この間も相手に騎兵は迫ってきており、最前線に構える兵士は警戒を強めている。
「マドプール!」
ライラが魔法を発動させる。
最前線の兵士たちの目の間で、不思議な現象が起こる。
「うわっ!」
「なんだ、これは!」
突然、騎兵の馬たちが体半分まで沈み込んでしまったのだ。急に動きが止まったことで、兵士たちも対処できずに放り出されてしまい、足元に突如として出現した泥沼に放り投げだされてしまった。
「ど、泥?!」
「なんで急に……!」
辺り一帯に広がる泥沼に体を突っ込んでしまい、兵士たちはまったく身動きが取れなくなってしまっていた。
「な、なにが起きたというのだ?」
さすがにゾディアーク伯爵も驚きを隠せない。
「騎兵隊が突っ込んでくる場所を、泥沼に変えたんですよ。私たち諜報部の魔族は、万一の時でも安全に逃げられるように、あらゆる魔法を身につけていますからね」
「なるほど……」
目の前の惨状を眺めながら、ゾディアーク伯爵は顔を青ざめさせていた。
味方であるならこの上なく心強いものの、これが敵に回った時どうなるのだろうかと思ったからだ。つくづく、アリエスが自分のところの聖女でよかったと思う伯爵である。
「さあ、機動力の大きな部隊は潰しました。狙うは、相手の大将である将軍です。そうですよね、伯爵殿?」
「うむ。敵兵は極力無力化し、敵将を捕らえろ! いいか、できる限り殺すな!」
「はっ!」
ゾディアーク伯爵の号令で、泥沼を迂回するようにして敵軍に攻め入っていく。
泥沼に落ちてしまった兵士たちは、ほとんど思うように動けないので、戦力として見なさなくてもいいだろう。
「さあ、私たちも参りましょうか」
「分かりました。とにかく武器と心を折ってやればいいのですね。お任せを」
「ええ、私たちに戦いを挑んだことを、後悔させてあげなさい」
「お任せを!」
「我らが魔王様の安寧のため!」
「おおーっ!」
ライラの許可が出ると、魔族たちも一斉にテレグロスの兵士たちに向けて突進をしていく。
完全に予想外な状況に陥ってしまったテレグロス王国軍に、もはや戦い意志と力はほとんど残っていなかった。
クラブ将軍が最後まで気をはくものの、もはや完全に大勢は決してしまっていた。
こうして、テレグロス王国軍とゾディアーク伯爵軍との戦いは、ゾディアーク拍車たちの勝利で幕を閉じたのである。
兵士たちは捕虜となったものの、アリエスの考えをしっかりと汲んだライラ率いる魔族たちがによって、監視されながらも自由を約束されていた。
問題は、大将であるクラブ将軍だ。
他国に対して戦争を仕掛けた時点で大罪である。背景には確かに魔族との同盟があるとはいえ、魔族が存在している状況での人間たちの争いは認められていない。それを破ったのだから、しかるべき処罰がいずれ下されることだろう。
「さて、どうしたものかな」
「とりあえずは、国王陛下に報告をして、判断を仰ぐ方がよいかと思われます。しばらくするとサハーもやってくるでしょうから、彼を伝令役として再び王都に送り返しましょう」
「ふむ、そうしようか」
というわけで、カプリナよりも遅れてやってくるはずであるサハーに報告を頼むことになった。
戦いを圧勝で終えた伯爵たちは、その日はほっとした気持ちで休んだのであった。




