表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王聖女  作者: 未羊
17/57

第17話 かつての部下に襲われる元魔王

 ざばあっという音ともに、川から魔物が飛び出してきた。


「な、なんだこいつらは!」


 使者や護衛たちが叫んでいる。


「おやおや、あなたたちですか」


 襲撃されているというのに、アリエスは困ったように微笑むだけである。


「聖女様!」


 護衛が割って入ろうとするが、飛び出してきた魔物は一体だけではなかった。


「ギギギギッ、フィシャーッ!」


「くそっ!」


 飛び出してきた魔物たちに遮られ、護衛たちはアリエスに近付けない。


「聖女様、お逃げ下さい!」


 叫ぶものの、アリエスに動く様子は見られない。

 目の前まで魔物の攻撃が迫っている。

 ダメだと思った瞬間だった。


「ギケケッ?!」


 魔物は突然弾かれて飛んでいく。

 尻餅をついて倒れた魔族は、何が起きたのか分からない様子で目をばちぱちとさせていた。


「お痛はいけませんね。誰に命令されたかは知りませんが、私の刃を向けた以上……覚悟はできておりますか?」


 アリエスは怒っていた。


(まったく、フィシェギルたちは俺のことをすっかり忘れたというわけか。どれだけ能力を買ってやったと思っているのだ。直々に指導もしたことがあるというのにな)


 その理由が魔王時代に世話してやったということを忘れたかというものだった。

 ところで、自分の今の姿を忘れていないだろうか。


「フィシェギル、あなたたちは誰の命令でこのようなことをしているのですか!」


 尻餅をついたフィシェギルに向けて、アリエスの声が飛ぶ。

 びりびりと空気が震えた気がらしく、護衛に対して襲い掛かっていたフィシェギルたちも思わず震え上がってしまくらいだった。


「おお、聖女様の一喝で魔物の動きが止まったぞ」


「今がチャンスだ。叩き潰してしまえ」


「ギギギ……」


 驚き戸惑うフィシェギルたちに、護衛たちは一転攻勢をしかけていく。


「王国の騎士たちの力、甘く見てくれるでないぞ」


「ギギッ!」


 護衛たちが攻撃を仕掛けるものの、さすが魔王の指導を受けたフィシェギルたちだ。十年以上経っても指導の成果がきっちりと現れている。

 槍でもってしっかりと護衛の攻撃を防いでいるが、どういうわけか反撃をしてこなかった。


「我らの力に怖気づいたか!」


「魔物は一匹たりとも逃さん!」


 護衛たちが攻撃を仕掛けるが、フィシェギルたちを一匹たりとも倒すことはできなかった。


「ギギギギ……、ケケーッ!」


 一体のフィシェギルが唐突に大声を出す。

 それを合図にして、フィシェギルたちは一斉に退却をし始めた。

 アリエスの前で尻餅をついていたフィシェギルも逃げ出そうとするが、アリエスにがっちりと腕をつかまれて逃げられなかった。


「どこに行くというのですか?」


 アリエスはこう言うと、捕まえたフィシェギルに顔を近付ける。


「おい、どこの誰にそそのかされた。ことと次第によっては、俺が手を下さなければいけなくなる。正直に答えた方が身のためだぞ」


 可愛い顔から突如として繰り出される低音ボイス。思わずぎょっとしてしまうほどの迫力があった。


「ギギ、ギギギ?」


「お前は喋れるだろうが。今でこそこんな姿だが、俺のことはもう誰だか分かっているはずだろ?」


「ギ……も、もしやまお……」


 フィシェギルが答えようとした時だった、その身に寒気が走る。

 目の前のアリエスから無言の圧力がかけられているのだ。


(こ、この威圧感は、まさしく魔王様だ。だが、目の前の人物は聖女のはずだ。第一、魔王様は聖女に討たれてお亡くなりに……)


 全身うろこだらけの半魚人の頬に汗が伝う。

 次の瞬間、目の前のフィシェギルはアリエスに対して跪いていた。


「お、お許しください。なにとぞ命だけは……」


 首を垂れて必死に命乞いをする姿に、使者と護衛たちは驚きを隠せなかった。


「魔物が喋っている?」


「喋れるということは、こやつは魔物ではなく魔族ということか?!」


 護衛たちが驚きに顔を見合っている。


「ええ、分かって頂ければ結構でございます。あなたたちに私を襲わせたのは、一体誰なのでしょうか。お答え願いますか?」


「は、はい。それは……」


 アリエスの質問にフィシェギルが答えようとするが、どうも様子がおかしい。


「おぶっ、ごふっ、がはっ!」


 突如として苦しみだし、紫色の血を吐いてその場に倒れてしまった。


「だ、大丈夫ですか?」


 アリエスが呼び掛けるも、反応がない。


(これは自白を阻止する契約系の呪いか。これが使える者はそう多くない。おかげで犯人が絞り込めてきたな。だが、それよりも今は……)


 アリエスは目の前で倒れて動かなくなったフィシェギルを見る。


(まだかろうじて生きいる。魔王時代に鍛えまくっておいたかいがあるというものだな。この程度の呪いに耐えられるとはな)


 アリエスはつい微笑んでしまうが、気を取り直してすぐさまフィシェギルの回復を試みる。

 かつて自分が鍛えた相手なのだ。ここで死なせるには惜しすぎるというものである。それゆえ、アリエスは必死に助けようとしているのだ。

 今こそ聖女となった自分の力の見せどころ。

 かつての部下を救うために、アリエスは座り込んでフィシェギルを助けるために魔法を使うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ