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魔王聖女  作者: 未羊


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第167話 テレグロスを去る元魔王

 テレグロス国王の罪ではあるが、キャサリーンもアリエスもそれほどまでは罰を求めなかった。だが、王位を子どもたちに譲り、自身は表舞台から完全に引退するようにという約束を改めて突きつけられた。

 食事だけは終えると、国王はそれを承諾して、それは寂しそうに部屋へと戻っていった。

 かつて威張り散らしていた国王の姿は、もうそこにはなかった。

 国王が去った食堂の中は、しばらく重い沈黙に包まれている。


「大変申し訳ございませんでした、キャサリーン様、アリエス様」


「お兄様?!」


 その空気を打ち破ったのは、ラサカ王子だった。

 立ち上がって、頭をしっかりと下げて謝罪している。


「顔をお上げください、ラサカ殿下」


 キャサリーンは、王子に頭を下げられるのはよろしくないようで、頭を上げるようにお願いしている。

 ところが、ラサカ王子の頭は下がったままだ。そのくらい、ラサカ王子はキャサリーンたちに対して申し訳ないと感じているのだろう。


「そのくらいはされても仕方ないとは考えていましたからね。なにせ、反乱ですからね。王子として責任を感じられるのでしょうが、私の取った方法も感心できるものではありません。おあいこということでいいのですよ」


「しかし……」


 気にしないというキャサリーンに対して、ラサカ王子は気が済まないようだった。


「ラサカ殿下は、現国王の後を継いでテレグロスの新しい王となるのです。そのような方が、軽々に頭を下げるものではありません。さぁ、頭をお上げください」


 再三のキャサリーンの言葉で、ようやくラサカ王子は顔を上げる。そうやって見えた王子の顔は、今にも泣き出しそうな表情だった。


「まったく、自分の責任のように感じられているとは、本当に甘いお方ですね。あの国王と王妃の子とは、とても思えませんよ」


「あら、王妃様もそんなにひどい方なのですか?」


 アリエスが気になって問い掛けると、キャサリーンは意味ありげに笑うばかりだった。

 どういうことなのだろうか、アリエスにはその表情の意味をまったく理解できなかった。


「さて、国王が代替わりをするとなると、これからは忙しくなりますね」


 キャサリーンはにっこりと微笑んでいる。


「ラサカ殿下。私はこの国の聖女として、国を支え続けます。ですので、どうしてもという時には、ぜひとも頼って下さいませ」


「あ、ああ。そうさせてもらうよ」


 キャサリーンが笑顔で宣言すると、ラサカ王子はこくりと頷いて受け入れていた。


「あの、私の方はどうすれば?」


 ヨミナ王女がようやく話に入り込んできた。


「そうですね。アリエス様のサンカサス王国に嫁ぐのはいかがでしょうか」


「え、ええ……?」


 キャサリーンが冗談半分に勧めると、ヨミナ王女は困惑していた。


「それはいいと思いますね」


「はい、私も素敵だと思います」


 アリエスとヴァコルが次々と歓迎の意向を示している。そのせいで、ヨミナ王女はさらに困惑しているようだ。


「サンカサスは王子が二人、王女が一人です。上の王子ですと、ヨミナ王女ともそれほど年が離れておりませんし、お相手としてはよいかと存じます」


「そ、そうですか……。時に、そのお姿を見せていただくことは?」


「私たちと一緒に来ればいいのですよ。そうしたら、ヴァコル様を送り届けるためにサンカサスのお城に寄りますから、お姿を拝見するだけでもできますよ」


「ちょ、ちょっと考えさせてくださいませ」


 興味を示しておきながら、いざ行こうとなるとしり込みをしてしまうヨミナ王女である。その可愛らしい反応に、キャサリーンとアリエスはくすりと笑ってしまっていた。

 現在のテレグロス国王の子どもたちは、いたって問題なさそうな感じである。

 だが、無事に王位を継げたとしても、国王の側近たちがどういう風に考え、行動するかというのは想像がつかない。なので、当面はキャサリーンがラサカ王子にくっついて警護をすることに決まった。

 また、ヨミナ王女の方も、身の安全を考えなければならない。現国王の体制の維持を考える連中の人質にされかねないからだ。

 そんなわけで、アリエスとヴァコルがサンカサス王国に戻る際に、一緒についていくことになった。結局こういう結論なのである。

 聖女同士の交流のあるハデキヤ帝国やゼラブ国というのも対象ではあるものの、現状どちらも男子の跡取りが存在しない。なので、ヨミナ王女が行く意味自体が存在しないのである。

 そのことから、サンカサス王国へと身を寄せることとなったのだった。

 このまま王子と結婚ということになれば、両国の間の関係は一気に好転をする可能性もある。現状、最善の選択肢というわけであった。


 しばらく、テレグロス王国内は混乱が続くだろう。だが、キャサリーンがいれば、ひとまず大きな混乱は避けられると思われる。

 夕食を取った二日後のこと、アリエスとヴァコルはヨミナ王女を連れて、サンカサス王国へと戻ることになった。


「それでは、これにて私たちは失礼致します」


「すまなかった。私の父上のせいでいろいろと混乱に巻き込んでしまって」


「本当にだよ。私も判断を迷ったがために、かなり迷惑をかけてしまった。素直に謝罪をしたい」


「いえ、キャサリーン様も無慈悲な方ではないと分かりましたので、むしろこれでよかったと思います」


 ラサカ王子とキャサリーンがそろって謝罪をする中、アリエスはずっと笑顔を絶やしていなかった。


「ヨミナのことを、よろしく頼みます」


「はい、しっかりと預からせていただきます」


「ま、まだ、結婚するとは決めていませんよ?!」


 すっかり嫁入りするような雰囲気になっているので、ヨミナ王女は慌てているようだった。


「聖女、そろそろ出発しましょう。みんなもきっと心配しているはずです」


「そうですね」


 ヴァコルが声をかけると、アリエスはにこりとしながら、小さく頷く。


「今度お会いする時は、平和に会えるといいですね」


「ああ、約束しよう」


 アリエスがキャサリーンと言葉を交わすと、ペガサスへとまたがる。

 最後にもう一度挨拶を交わすと、アリエスはペガサスに命じて宙へと舞い上がっていく。


「それではみなさん、お元気で」


 その挨拶を最後に、ペガサスはサンカサス王国へと向けて、空を駆り始めたのだった。

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