第166話 目論見を見抜く元魔王
結局、テレグロス王国の結論は持ち越されたが、その夜は夕食を共にして、そこで話をするということになった。
その時間までの間、アリエスとヴァコルは、ペガサスと一緒に客間で待機することとなった。
「ふう……。聖女、これで解決と見ていいのでしょうかね」
「ヴァコル様、あなたはどのようにお考えでしょうか」
ヴァコルの質問に、アリエスは答えずに質問をそのまま返していた。
アリエスの反応に、ヴァコルの表情は少々曇る。だが、ここでは言い返さずに、ヴァコルは少し考え込んだ。
「……僕は、解決するとは見ておりません」
「理由は、お聞きしてもよろしいでしょうか」
ヴァコルの答えを聞いて、アリエスはあえて理由も聞いてみることにする。
「他国へと攻め入ろうとしていた人間が、そう簡単に諦めるとは考えられないからです。圧倒的な戦力差を見せられても、急に考えを改めるというのはそうないでしょうからね」
「なるほど……。様子を見て、反旗を翻すということは十分考えられるというわけですね」
「その通りですよ」
ヴァコルの見立てを聞いて、アリエスは考え込んでいる。
実はこのヴァコルの考えに、アリエスはかなり近いことを考えている。
それは、元魔王という経験があるからだ。
ペガサスを馬小屋ではなく、この客間に連れ込んだのも、実はそこが理由だったりする。
少なくとも、サンカサス王国の中へと攻め入ってきた国なのだ。アリエスたちも油断できるわけがないのである。
見た目では降伏したつもりでも、どこかで反撃のタイミングを見ている可能性が十分考えられる。それを経過して、ペガサスも自分たちのところに連れ込んだというわけなのである。
「となると、一緒に取ることになる夕食も警戒しなければなりませんね」
「そうですね。毒が直前に混入されるということも十分考えられますからね」
「……はあ、実に無駄なことですね」
ヴァコルの警戒に、アリエスは頬に手を当てながらため息をついている。
「聖女?」
「私には毒は効きませんよ。元魔王をなめないでいただきたいですね」
そう、アリエスには毒が効かないのである。
魔王であるアリエスは、大抵のことに対して耐性を持ち合わせている。そのため、効かないとはっきり言っているのである。
「いや、僕たちは普通に通じますからね?」
「食事の前に解毒してしまうに限ります。全毒性無効ですからね」
ヴァコルの警戒に、アリエスはにっこりと微笑んでいた。
そうしていると、テレグロスの兵士が二人を呼びに来た。アリエスたちはそれに応じて、部屋から移動を始まる。
「さあ、答え合わせといきましょうか」
アリエスは満面の笑みを浮かべていた。
王族が食事をする食堂までやって来た。
案内されて席に座ったアリエスだったが、すぐさま違和感を感じ取っていた。
(ふっ、やはりな……。一応、部屋に入った瞬間から浄化の魔法を使っているが、明らかに雰囲気がおかしい。確実に何かを仕掛けてきているな)
アリエスは読み通りの状況に笑っているようだ。
キャサリーンとヴァコルに挟まれた位置に、アリエスは腰を落ち着ける。
「アリエス様、何をそんなに笑っているのかな?」
「いえ、面白そうなことになりそうだと思いましてね」
キャサリーンが声をかけると、アリエスは本当に楽しそうな声で返していた。これにはキャサリーンは思わず顔をしかめてしまう。よく分からない反応を示されたのだから、当然こうなるというものである。
最後に、テレグロスの王族たちが入ってきて、いよいよ会食が行われる。
テレグロスの現国王によって音頭が執られ、食事が始まる。
その際、アリエスはキャサリーンとヴァコルに事前に声をかけた通り、口に食事を運ぶのを待ってもらっている。
というわけで、アリエスがまず食事を口に運ぶ。
その姿を、どういうわけか現国王や周りの給仕たちがじっと見つめている。
「うん、さすがは大国の食事ですね。おいしいですね」
アリエスがご満悦な表情で食べていると、国王がびっくりした表情を見せていた。
「あら、国王陛下、どうなさいましたか?」
「あ、いや、何でもない……」
アリエスにきょとんとした表情で問いかけられて、国王は挙動不審になりながら目を逸らしている。
「あら、まさか、毒でも盛られていたのですか? こんなにおいしい食事ですのに、もったいない」
アリエスはもぐもぐと食べながら、にっこりと微笑んでいる。
「父上! まさか、本当に毒を盛られたのですか?」
アリエスの言葉を聞いて、王子が立ち上がって国王を問い詰めている。
「いや、まさか、そんなことがあるわけないだろう……」
王子と目を合わせずに、国王はしどろもどろに答えている。これは間違いなく、毒を盛っていた反応である。
キャサリーンとヴァコルは、国王の反応に呆れてしまっている。
「ふふふっ、残念でしたね。私は元魔王ですから、毒は全部効きませんよ。それに、部屋に入ってから無毒化するための浄化の魔法を使っておりましたので、そもそも効きようがないのです」
「なんと……」
「国王陛下。他国とはいえ、聖女を殺そうとするのは大罪です。恥をお知り下さい!」
キャサリーンにまで大声で怒られる国王である。
こうして、逆転を狙った国王の作戦は、見事失敗に終わってしまったのだった。




