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魔王聖女  作者: 未羊


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第163話 力でねじ伏せる元魔王

 いよいよ、テレグロスの国王と相まみえることになる。

 アリエスは何気に、テレグロス王と会うのは初めてである。

 だが、自分が死ぬ原因となった、テレグロス王国軍の出兵の命令を出した相手なのだ。アリエスは気をしっかりと持って、王の前と乗り込んでいく。


「……キャサリーンよ。誰の許しを得て、ここに足を踏み入れた?」


 男の声が聞こえてくる。

 前を見てみると、背の高い椅子が一脚置いてあり、そこの向こう側から聞こえてきたようだった。


「誰の許しが必要だというのでしょうか。私はテレグロス王国の聖女です。必要とあれば、国王陛下と会うことも自由のはずですけれど?」


 立ち止まったキャサリーンが、謎の声の問い掛けにしっかりと答えている。


「ふふっ、確かにそうですね」


 キャサリーンの回答を聞いて、ヴァコルが笑っている。


「聖女というのは、国の守護者のようなものです。ですから、必要とあれば誰の許可も必要なく、国王と会うことは可能なのですよ」


「そ、そうなのですか?」


「そうですよ。ですから、聖女も、その気になればいつでもお城にやってきて自由に行動ができますよ」


「え、遠慮しておきます」


 ヴァコルがちょっとからかい加減にアリエスに振ると、アリエスは本気で断っていたようだった。


「なんだ。余計なものまで連れてきているのか……。まったく、誰が育ててやったと思っているのだ?」


 椅子の向こうにいる誰かが、立ち上がってくるりと振り返る。

 立ち上がって姿を現した人物こそ、このテレグロスの国王その人である。その顔はなるほど納得がいくほどの悪人面である。


「サンカサスの聖女を連れてくるとは、この俺に逆らうというのか、キャサリーンよ」


「逆らうつもりなどございませんよ」


「だったら、なぜそいつを連れてきた。それこそ、反逆の意志ありと見て当然であろうが!」


 国王が大きな声を出すと、部屋の外から金属の音が響いてくる。


「国王陛下、いかがなされましたか!」


 どうやら、衛兵たちが王の間に集まってきたようである。

 ヴァコルの魔法で動けなくなっているはずなのだが、これはなんとも意外なことだった。


「ちっ、僕の魔法が解けたというのか?」


 ヴァコルが険しい表情をしている。


「ふふっ、お前たちはこの国に張られた、そこにいるキャサリーンの結界を甘く見過ぎたようだな」


 テレグロス国王は、にやけた顔をしながらアリエスたちに告げている。


「ちっ……。普段から張らされていた結界が、ここに来て悪い方向に働くとはね」


「仕方ありません。でも、できれば犠牲は出したくないのですけれどね」


「聖女は本当に甘いし優しいですね。ですが、今の相手にその理論は通じませんよ」


 アリエスが怯える中、キャサリーンとヴァコルの二人はすっかり構えている。


「ふっ、元魔王というくせに、仕草はすっかりどこにでもいる少女だな。ふん、こんな腰抜けでは、恐るるに足らぬわ!」


 テレグロス国王は、すっかり余裕の表情を見せている。

 ところが、さすがにこれにはアリエスもぶちんときた模様。


「な、なんだ……? 急に冷え込み始めたぞ」


「国王陛下、ご無事でしょうか」


 国王が急に寒くなったことに違和感を感じたちょうどその時、部屋に衛兵たちがなだれ込んできた。


「おお、お前たち、やっと来たか。キャサリーンが謀反を起こした。さっさと捕らえるのだ」


「はっ!」


 国王の命令に従い、衛兵たちが攻撃の構えを取る。

 ところが、動こうとするもまったく足が動かない。一体何が起きているのだろうか。


「言わせておけば、言いたい放題ですね。まったく、こんな愚王に仕えさせられているなんて、キャサリーン様が不憫で仕方ありませんよ」


「聖女?」


 ヴァコルが、アリエスの様子に異変を感じている。

 よく見ると、アリエスの足元から放射状に床が凍り付いていたのだ。


「これが、魔王の持つ元々の力か。あれだけ広範囲に雪を降らせていたくらいだから、なるほど、簡単にこの程度の広さなら凍てつかせることが可能か」


 キャサリーンはとても冷静に分析している。


「ええい、早くこいつらを捕らえないか!」


「しかし、陛下! あ、足が動かないのであります!」


「床が……、床が凍っている!」


「足が張り付いて動かないぞ!」


 国王の声にも、衛兵たちはまったく動けないでいた。


「ええい、キャサリーンの結界がある以上、すぐに融ける。慌てる必要などあるものか!」


「へえ……」


 国王が騒いだ次の瞬間、場の空気がさらに冷たさを増す。


「魔王の力を本気で使った状況で、無事にいられると思っていらっしゃるのですか……?」


 アリエスの雰囲気がかなり怖くなっている。


「まったく、こんな国王、キャサリーン様の力の恩恵にあずかるにふさわしくありません。殺しはしませんが、退場いただきましょうかね」


 アリエスが少し本気になると、さらに部屋の温度が下がっていく。

 後ろでは衛兵たちが、腰まで氷に覆われて騒いでいる。


「な、なにが望みだ!」


 同じように氷に覆われていく国王は、さすがに恐怖を感じたのか、アリエスに対して交渉を持ちかけようとしている。


「望み? あなたには退位いただき、新たな国王を即位させて下さい。もし、また戦争に突き進もうというのなら、今度はテレグロス全土が凍り付くとお考え下さいね?」


「わわわ、分かった。分かったから……、これ以上凍らせないでくれ」


 国王から返事を引き出したアリエスは、にっこりと笑って力を緩める。


「おい、何ぜ融けないんだ?」


「あら、約束したのは、これ以上凍らせないことではありませんか。誰も融かすとは、一言も約束していませんよ?」


「ふざけるな!」


 国王が文句を言うと、アリエスは国王だけをさらに凍らせようとする。さすがに体が冷えてきたこともあって、国王は完全に降参したようである。


 アリエスは、一滴の血も流すことなく、テレグロスの制圧に成功したのだった。

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