第162話 王城に突撃する元魔王
しばらくの作戦会議ののち、ついにアリエスたちは作戦を実行に移す。
「ペガサス! お城に突入です!」
「ヒヒーンッ!」
アリエスが号令をかけると、ペガサスがテレグロス王城に向かって真っすぐ突進していく。
作戦も何もない。ただの正面突破による強行突入である。
「キャサリーン様!」
「ああ、分かっているわ、アリエス様。タイミングを合わせるわよ?」
「はいっ!」
二人には何か役割があるらしく、声を掛け合っている。
「ヴァコル様は突入してから、一発お願いします」
「ふふっ、そういうことなら任せてもらいましょう。魔法使いとして、一度盛大に暴れてみたかったですからね」
アリエスが声をかければ、ヴァコルはにやりと笑っていた。一体どんな作戦を立てたというのだろうか。
そうしている間に、アリエスたちの乗ったペガサスが、テレグロス王城の中心へと到達する。
まさにその瞬間だった。
「今です!」
アリエスの声で、キャサリーンと同時に聖女としての能力を発動する。
中心の王族や兵士たちがいる場所が、光り輝く分厚い障壁によって、街と分断されたのである。
そう。危機に陥った国王たちが、街の人たちを人質にできないように閉じ込める防壁を展開したのである。
まさか空から侵入されるとは思っていない王城内部の人たちは、防壁を張られるまでまったく気付けなかったのだ。
「敵襲! 敵襲!」
防壁が展開されてからはじめて、兵士たちのが動き始める。
だが、時すでに遅し。
テレグロス王城と城下町は、完全に防壁によって切り離されてしまっていた。
「くそっ、なんだ、この分厚い壁は!」
「おーい、外の連中聞こえるか?」
城の城門付近では、防壁内外の兵士たちが話をしようとしているが、分厚い障壁に阻まれて声が届かなくなっていた。
そう、寸断に成功したのだ。
こうなれば、アリエスたちが気にするのは城の中のみ。
「ヴァコル様。お願いします」
「任せて下さい。さあ、おとなしくしてもらいましょうか」
ペガサスの一番後ろに乗るヴァコルが、チャージしていた大規模魔法を展開する。
「ダウンプレス!」
ヴァコルが魔法を放った瞬間、ズンという重苦しい音が響き渡る。
指定した領域内に魔法を発動した時点でいる者たちすべての動きを封じる、土属性の大規模魔法だ。本来なら範囲は大したことがない。
ところが、ここでもキャサリーンの力が大きく作用しており、ヴァコルの集中力と合わせて、とんでもない範囲で効果を発揮しているのである。
「この時間なら、あそこに見える最上階の王の間にいるはずだわ。さっさと乗り込んで一発殴らせてもらうわよ」
キャサリーンがものすごく鼻息荒く話している。こんな性格だったかなと、アリエスはちょっと苦笑いである。
アリエスはペガサスを駆り、城の中央部の最上階へと向かっていく。
上空からだと何も障害がないため、実にスムーズである。
最上階のバルコニーに降り立ち、キャサリーンの手で城の内部へと侵入する。
「すごい、全員動けなくなっていますね」
「僕の魔法の威力もさることながら、聖女キャサリーンのバフが強力すぎます。まさかここまでの効果を発揮するとは思ってもみませんでしたね」
放った魔法の効果には自信があったようだが、実際の光景を見るとやはり驚いてしまうようだ。
アリエスたちに対して声をかけることはできるが、動くことができない。魔法の使えない兵士たちは、完全に無力化されてしまっていた。
これは、王の間の前で陣取る兵士たちも同じこと。特に装備品の重量がある兵士であるために、完全に床にめり込むほどに効果を発揮していた。
「あらら……。これは後で修復しておきませんと。このままにしておけば、床が抜けてしまいますよ」
「それは終わってからで十分でしょう。国王さえ降伏させてしまえば、ひとまず安全になるでしょうからね」
「さて、それはどうだろうかな。私に対して人使いの荒かった連中だから、国王だけ降伏させても、あまり意味はないだろう」
「……そうですか。ですが、まずは国のトップをしっかりと押さえてしまいませんとね」
王の間を前にして、アリエスたちはなにやら少し揉めているようだった。
「きゃ、キャサリーン様……。これはいったい、どういうおつもりですか……」
やり取りを聞いていた、床にめり込んだ衛兵がどうにか話をしてくる。
「残念だけど、私はもう国王陛下のやり方にはついていけないの。食事はほとんどくれないし、そのくせ散々こき使うし、聖女は平和をもたらす存在だというの戦争の道具にしようとするし……。今まで黙っていたけれど、アリエス様の姿を見て決心したの」
「国を、滅ぼされるのです……か?」
衛兵の問い掛けに、キャサリーンは首を横に振っていた。
「元魔王ですら平和を愛するというのに、対照的すぎる国王に降りてもらうだけ。国を滅ぼすんじゃないわ」
「同じ……ことです。今の国は、国王陛下の血筋で保たれているのですから……」
「……話の無駄ね。動けないのだから、そこでおとなしく見ていなさい。新しい時代の幕開けを」
キャサリーンは衛兵に答えると、扉を開けて王の間へと進んでいく。
アリエスとヴァコルも、それに続いて足を踏み入れる。
いよいよ、テレグロス国王との対面である。
自分が殺されることとなった遠因であるテレグロス国王を前に、アリエスは一体何を思うのだろうか。




