第159話 戦場に赴く元魔王の部下
ハデキヤ帝国へ行くことを諦め、馬車を飛ばしてサンカサスの王都へと戻ってきたカプリナたち。
ところが、ちょうど王都にたどり着いた頃に、王都が騒がしくなっていることに気が付いた。
「なんでしょうか。なんだか騒がしいですね」
「私が先に参って見て参りましょう。スラリー、カプリナ様をよろしく頼みますぞ」
「まかせてよ」
マントに化けているスラリーが手のようなものを出してぶんぶんと振っている。その姿を確認して、サハーは一人で馬車から移動していく。
問題の騒ぎは、王都からゼラブ国の方へと向かう門の外で起きているようだった。
「すまない、一体何が起きているというのでしょうか」
王都の門番に、サハーは声をかけている。
「おお、これは確か聖女様の護衛の方。実は、ヴァコル様が戻られまして、これからテレグロス王国を迎え撃つために出兵するところでございます」
「まだ、到着していなかったか。大回りをしてきた私たちの方が先に到着するとは、相当に進軍速度が遅いな」
門番から話を聞いたサハーは、なんともいえない表情で考え込んでいる。
「進軍は基本的に歩兵に合わせますからね。それに、あちらからだと途中にあるミルキー湿原が邪魔になります。突っ切ってくるにしても、足を取られて進軍速度が落ちますからね」
「なるほど、納得がいった。して、アリエス様は?」
「ヴァコル様と一緒に偵察に向かわれたのですが、戻られておりません。私は話を聞いておりませんので、詳しくは分かりません」
門番は自分は詳しくは知らないと答えていた。
仕方がないので、カプリナたちを門番たちに任せて、サハーは一人で兵士たちのところへと向かう。
「すまない。状況を説明してもらってもいいでしょうか」
出発前のサンカサス王国軍に対し、サハーが声をかけている。
「お前は、聖女様の護衛の魔族か」
「しっしっ、お前の出る幕じゃない。聖女様を一人危険なところに出させたくせに」
「なんですと?!」
かなり邪険にあしらわれて、サハーは怒りの表情を見せている。
「やめないか!」
その瞬間、怒鳴り声が響く。
「こ、これはヴァコル様、申し訳ございません」
声の主は王宮魔術師のヴァコルだった。
どうやらサハーのことに気が付いて見に来たと思われる。
「サハー、よく無事でしたね。テレグロスの兵士に襲われたと聞いていたのですが」
「ははっ、元々魔王様にしっかり鍛えられていましたからね。カプリナ様もいらっしゃいますし、大した脅威ではありませんでしたよ」
ヴァコルから状況を確認されて、サハーは笑いながら答えている。
「ということは、カプリナ嬢は無事に戻ってきているのですね」
「はい。王都の門の近くに馬車で控えていらっしゃいます」
「そうですか。それなら聖女も安心でしょう。すぐに迎えに行きませんとね」
ヴァコルはそう言いながら、少し険しい表情をしていた。
「その様子ですと、アリエス様が一人残ってテレグロス王国軍を相手になさっているということですね。まったく、聖女になられてもあの方はまったく変わらない……。あの時もそうでした。私たちを逃がすために、聖女キャサリーンの前に一人で打って出たのですからね」
「なるほど、聖女らしい正確ですね。しかし、魔王時代からそうとは、元から心優しい方だったのですね」
「はい。強さと優しさを兼ね備えられた方ですよ。ですから、私もこうやっておそばに仕えているのです」
サハーの証言に、ヴァコルはくすりと笑っていた。
「それでは、一緒に参りましょうか。私たちの聖女を迎えに」
「そうですね。いくら聖女キャサリーンがいらっしゃるとはいえ、アリエス様が負けるとは思ってはおりません。ですが、できるだけ早く加勢をしなくては」
ヴァコルとサハーが確認し合うと、サハーの代わりにカプリナの護衛に一人兵を残すことになった。
残された兵士は少し残念そうにしたが、聖女の親友であるカプリナを守るという任務だと分かると、元気を取り戻していた。
ヴァコルとサハーがサンカサス王国軍の先頭に立つと、全軍に向かって声をかける。
「者どもよ。これよりテレグロス王国軍の迎撃、お呼び、聖女アリエスの救出に向かう。相手は聖女キャサリーンを擁する強敵だ。心して進むのだ!」
「おおーっ!」
ヴァコルの声に、サンカサス王国軍は声を上げる。
それと同時に、アリエスがテレグロス王国軍を足止めしているミルキー湿原へ向けて進軍を開始する。
(どうか、ご無事でいて下さい、アリエス様……)
ヴァコルとともに先頭を進むサハーは、アリエスの身を案じている。
なんといっても、当時は魔王だったアリエスを殺した張本人、テレグロス王国の聖女キャサリーンと彼女が率いるテレグロス王国の兵たちが相手だ。十三年前の因縁の再現である。
その時のことがあるからこそ、サハーはまったくもって気が気でないというわけだ。
(あの時は一人で行かせましたが、私は後悔をしております。最善だったとしても、あなたに何かあっては、私はとても自分を責めてしまいそうです……)
サハーの拳に力が入る。
目的地であるミルキー湿原までは、徒歩で三日。その間、サハーの心が休まる時は、一時もなかったのだった。




