第158話 兵士と睨み合う元魔王の仲間
時は少し戻り、アリエスを送り出したカプリナたちはというと……。
「くそっ! 子どものくせになんて強さだ」
「この御者も相当の手練れだぞ。なんで俺たちが押されているんだ!」
カプリナ、サハー、御者の三人で、テレグロス兵十数名を相手にしている。
たった三人だというのに、食糧補給のために村にやってきていたテレグロス兵たちと互角以上にわたり合っていた。
「これでも元魔王軍の正規兵です。甘く見ないでいただきたいですね」
「アリエス様をお守りするのが私の使命。そのために鍛練を積んできたのです、子どもと思って舐めないで下さい」
「私も同じですぞ!」
カプリナが攻撃を防ぎ、サハーと御者の二人で攻撃を押し返す。見事なパターンが決まり、テレグロス兵たちは完全に攻め手を欠いている。
「こんな少人数に押されるとはな!」
兵士の一部が、村の方へと走っていく。
何を思ったのか、村人たちを人質に取ったのだ。
「おらっ! こいつらの命が惜しくないのか?」
「自国民を人質に取るとは……。焦りに目を失いましたか!」
兵士が村人に剣を押し付けて、カプリナたちを脅している。
三人相手に完全に攻め手を欠いた兵士たちは、もはや正常な判断ができなくなっていた。
「なんという人たちですか。自分たちが勝つためであるなら、自国民すらも犠牲にしようとは……」
「なんとでも言え! あの元魔王の聖女の仲間を殺せるのなら、どんな手段だって取ってやるぜ!」
カプリナの言葉にすら、こんな風に答える始末である。
もはや、その正気を疑うしかない状態だった。
「ひっ、ひぃーっ! た、助けてくれ!」
村人たちは、剣に怯えて助けを求めている。
「さあ、さっさと武器を捨てろ。一般の民を巻き込みたくないだろう?」
怯える様子を利用して、兵士たちはカプリナたちに武器を捨てるように迫ってくる。
ところが、カプリナはそれを拒否している。
「いいえ、武器を捨てる必要はありませんわ。だって、この武器だって、私にとってはただの飾りですから」
「なんだと?! 気でも狂ったか?」
「それはそっくりお返しする。自国の民を盾にすることほど、愚かなものはない。魔族でも特に残虐な連中がすることだからな」
「出まかせを言うな!」
カプリナとサハーの言い分に、兵士たちは大声を張り上げている。
「ヒヒーンッ!」
「なっ?!」
その隙を突いて、なんとカプリナたちが乗っていた場所が兵士たちに襲い掛かる。御者もいないというのに、見事な動きでテレグロスの兵士たちをかく乱していた。
「今です!」
突然の馬の暴走に驚いたテレグロスの兵士の手が、村人たちから離れる。その隙を突いて、村人たちを聖騎士の魔法で保護する。
「見事です、カプリナ様。ここからはこのサハーにお任せを」
「お願いします!」
サハーは二股の槍を構えて、完全に崩壊しつつあるテレグロス王国の兵士たちに狙いを定める。
「もはや王国の兵士としての誇りを失った。その者たちに遠慮は要りませんな。命までは取らぬゆえ、我が水流にのまれてしかと反省することです!」
サハーの槍を握る手に力が入る。
「アクアスパイラル・スラストインパクト!」
素早く槍を突き出すと、二股の槍の先から水流が放たれる。
勢いよく飛び出た水流は、テレグロス王国の兵士たちを次々と飲み込んでいく。
「うわあーっ!」
回転する水流によって、兵士たちは勢いよく吹き飛んでいく。
なんということだろうか。サハーの一撃で、その場にいたテレグロスの兵士たちは全員気絶してしまったのだった。
「つまらぬものを突いてしまったな……」
サハーはくるりと槍を回して、背中へと納めていた。
「おー、よしよし。さすがは聖女様の恩恵を受けた馬たちだ。見事な働きだったぞ」
「ヒヒーンッ!」
御者は敵をかく乱する役目を果たした馬たちをしっかりと労っていた。
二人の様子を見ながら、カプリナはくすりと笑っていた。
「さて、目を覚まさないうちに、この兵士たちをどうにかしておきませんとね」
「ですな。人質に取られたことで村人たちもいい感情を持っていないでしょうし、縛り上げておくのがいいのではないですかね」
「そうですね。でも、それは村の方々の判断にお任せしましょう」
「承知しました」
カプリナの判断に、サハーはおとなしく従うことにしたようだ。
さすが、アリエスのために頑張ってきたカプリナなので、いろんなところでアリエスと似てきている。そのカプリナを見ながら、サハーもつい微笑ましく思ってしまうくらいだ。
「さすがは、アリエス様の守護騎士ですな。本当によく似ていらっしゃる」
「そ、そうでしょうか……」
サハーに言われて、カプリナはつい頬を赤くしてしまう。
その姿に、サハーはアリエスの持つ魅力をいうものを改めて認識する。
(本当にあの方は、人を惹きつけてやまない人ですな……。まあ、私もそういった者の一人なのですけれどね)
サハーは小さく笑っていた。
「サハーさん、村の人たちが今夜泊めて下さるようですよ」
「おお、それはありがたい。このようなことに巻き込んでしまったというのに、いい人たちに恵まれたようですな」
なんと、村人たちから受け入れてもらえることが決定したようだ。
ここでひと晩休息を取ったカプリナたちは、村人たちに見送られながら、一度サンカサス王国へと戻ることになったのだった。




