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魔王聖女  作者: 未羊


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第153話 敵軍を見つめる元魔王

 アリエスたちは、無事に偵察からサンカサスの王城へと戻ってくる。

 だが、その様子はかなり疲れた様子だった。


「ただいま、戻りました……」


「おお、聖女殿。よく戻られた」


 お城に戻ってきたアリエスを、国王が自らで迎えている。


「それでどうでしたかな、相手の状況は」


「はい。国境近くで野営を張っておりました。今頃はもう国境を越えてしまっているはずです。それにしても、まさか一日近く離れたような場所にいたというのに、キャサリーン様に勘付かれてしまうとは思いませんでした」


「なんだと?! では、こちらの動きにも気づかれたのでは?」


 国王の問い掛けに、アリエスは首を左右に振っている。


「サンカサス王国の者だと気付かれないように、迂回しながら戻ってきました。ですが、こちらが狙いであるなら、もうあさってには王都に到着してしまいます。すぐに打って出るべきでしょうね」


「うぬぬぬぬ……」


 アリエスの報告を聞いて、国王は唸っている。

 だが、すでに一刻の猶予もなくなっているのは事実なのである。すぐに決断を下さざるを得ない。


「今ならば、こちらの有利な地形で迎え撃てるはずだ。将軍に伝えて、すぐに打って出るようにしろ!」


「承知致しました!」


 国王の命令で、近衛兵がすぐさま伝令に走る。

 伝令が走った姿を見送ると、国王は改めてアリエスとヴァコルを見る。


「どうにか、相手をかく乱することはできるか?」


「やってみましょう」


「僕に不可能があるとでも?」


 アリエスが快く返事をしたのとは対照的に、ヴァコルは笑っているようだった。さすがは王宮魔術師というものである。


「あの位置からこちらに向かうとなると、途中で通るのはミルキー湿原ですね。あそこを戦場にできるのであるのなら、いくら最強聖女相手とあっても、有利に進めるはずですからね」


「ああ、なるべくあの湿原で止めてくれ」


「承知致しました。参りましょうか、聖女」


「はい」


 国王の命令に従い、テレグロス王国を迎え撃つべく、アリエスとヴァコルは再びペガサスに乗って飛び立っていく。

 アリエスはペガサスに無茶をさせ続けていることを心苦しく思っているらしく、その首筋をそって撫でていた。


 再びサンカサス王国の城から飛び立ち、半日くらいペガサスで進んだ場所へとやってくる。

 アリエスたちの眼下には、ぬかるんだ場所が広がっている。

 こここそ、ヴァコルが戦場に選んだミルキー湿原である。

 この場所は、以前アリエスたちがフィシェギルたちの群れに襲われた川の下流に広がっている湿地帯である。ここから再び、ハデキヤ国方面へと川が流れている。

 そう、この湿地帯は、遊水池のようなものなのだ。ここは周辺よりも川底も浅いために、キャサリーンの力があれば強引に通れてしまうというわけである。


「予想通りに通ってくれればいいのですけれど……」


「大丈夫でしょう。ここを通らないとなると、余計に二日くらいの道のりを必要としますからね。奇襲を考えているのなら、ここを通るのが一番の近道なのですよ」


「それはそうなのですが、間者の存在というのが気になります」


「聖女が魔族だとテレグロスに伝えたやつのことですか。ですが、今はそいつを気にしている場合ではありません。なんとしても、ここでテレグロス王国軍を食い止めるのですよ」


「……そうですね」


 ヴァコルに強く言われて、アリエスは覚悟を決めたように頷いている。

 しばらく見つめていると、ペガサスが何かを感じ取ったらしく、アリエスの方へと視線を向けた。


「ペガサス?」


「どうやら、おいでなさったようですよ、聖女」


 ヴァコルの言葉で、改めて前を見るアリエス。その視線の先には、テレグロス王国軍の軍勢の姿があった。

 索敵を切っていたせいか、アリエスの地の視力ではテレグロス王国軍を見つけることができなかったようだ。


「……本当にここを通るのですね」


「そのようですよ。本当ならここでぬかるみに足を取られて行軍が止まるのですが……。見て下さい、行軍速度がほとんど落ちませんよ」


「みたいですね」


 アリエスたちの目の前で、テレグロス王国軍は、湿地帯をどんどんと突っ切ってきている。

 水草もたくさん生えているので、奇襲をかけるにはちょうどいいというものだ。

 だが、そんな動きも、上空からならば丸見えである。

 とはいえ、こちらから見えるとあれば、向こうからもアリエスたちのことは丸見えのはずである。

 だというのに、現状では上空のペガサスに気がついたという様子はなかった。


「念のために、姿を見えなくする魔法を使っておいたのですが、効果はあったようですね」


「いつの間にそんな魔法を……」


 どうやらアリエスが、隠れ身の魔法を使っていたようだ。


「ペガサスに無茶をさせ過ぎているのです。これ以上酷使するのは、さすがに可哀想というものですからね」


 そう、ペガサスのことを考えてのことだった。

 しかし、その魔法の一時しのぎでしかない。自分と相対したキャサリーン相手に、いつまでもだまし通せるというものではないのである。

 そのアリエスたちの目の前では、テレグロス王国軍がじわじわと進軍を続けている。この状態でどうやって足止めをするのか、アリエスたちは様子を見続けるのだった。

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