第149話 緊急事態を告ぐ元魔王
アリエスは、ペガサスを駆ってサンカサス王国のゾディアーク伯爵領を目指す。ここでまずは援軍を募るためだ。
なんといってもアリエスの拠点はゾディアーク伯爵領なので、どうしても無視はできない。
テレグロス王国の兵士たちの進軍ルートは分からないが、先程の兵士たちの状況からしてすでに出発して数日は経過しているだろう。そうなると、アリエスはとにかく急ぐ必要があった。
「ペガサス、無茶をさせますけれど、みなさんを守るためです。どうか耐えて下さい」
「ヒヒーンッ!」
任せろと言わんばかりに、ペガサスは大きくいななく。
こうしてアリエスを乗せたペガサスは、ほぼ不眠不休でサンカサス王国のゾディアーク伯爵領まで戻ってきた。
「伯爵様!」
伯爵邸を訪れたアリエスは、大慌てでゾディアーク伯爵に会う。
「おお、これはアリエス様。どうされたのですか。カプリナたちは?」
「それどころではありません。伯爵様、一大事でございます」
「い、一大事とな?!」
アリエスがものすごい切迫した表情で伝えると、ゾディアーク伯爵は驚いた様子で聞き返している。アリエスがこのような表情を見せることはまずありえないからだ。
「はい。各国の説得に回っている中で、テレグロス王国で不穏な動きに出くわしました。どうやら、サンカサス王国に向けて派兵をしたのではないかと思われます」
「なんだと!?」
さすがにゾディアーク伯爵は驚きを隠しきれないでいた。
テレグロス王国といえば、現在在職している聖女の中でも最強といわれるキャサリーンを擁する国である。
聖女キャサリーンの庇護があれば、少数精鋭でも魔王軍を壊滅できるほどの勢力になるのだから、驚くというのは当然の反応だろう。
「それで、カプリナたちはどうしたのだ?」
「実は、ゼラブ国からハデキヤ帝国へと移動中にテレグロス王国の兵士と遭遇しまして、私の代わりに交戦してくれているのです」
「なんと……。娘は、無事なのか?」
事情を聞いたゾディアーク伯爵は、アリエスに確認をしている。だが、アリエスは首を横に振るだけだった。
「スラリーがついていますので、無事だとは思います。兵士たちは大勢いるとはいえ、キャサリーン様の加護のない兵士たちです。多勢に無勢ではありますが、粘ってくれればテレグロス王国の兵士たちの補給を遅らせることができますので、無事を祈るばかりです」
「そうか……」
さすがにゾディアーク伯爵は元気がなくなっていた。
しかし、状況はそんなことを言っている場合ではない。キャサリーンが率いる本隊が迫ってきているのだ。早急に対応をするしかない。
「伯爵様。ライラたち魔族も連れて、王都へと急いでください。私はこれより王都に向かって事態を伝えます。どういう風に情報が伝わっているのか分かりませんので、どこが狙われるか分かりませんが、王都は確実に狙われるでしょうからね」
「分かった。では、すぐに組織するとしよう」
「頼みます」
話を終えたアリエスは、すぐに伯爵邸を飛び出し、すぐさま王都へと向けてペガサスを駆る。
かなりに無理を強いているが、ペガサスはアリエスの要求に懸命に応えていた。
あっという間に王都に到着したアリエスは、王都へ上空から侵入。お城に直接訪問するという荒業を展開していた。
「な、何者だ!」
当然ながら、城にいた騎士や兵士たちから剣や槍を向けられる始末である。
だが、アリエスが姿を見せると、一斉に武器をおさめて跪いていた。
「こ、これは聖女様。なぜ空からやって来られたのですか?」
「緊急事態だからです。どうやら、テレグロス王国が、このサンカサス王国に向けて進軍をしているようなのです」
「それはなぜですか?」
「どうやら、私の話をどこからともなく聞いたようですね。キャサリーン様に命じて兵を差し向けたようなのです。事態は急を要します。すぐに国王陛下に謁見はできますでしょうか」
「はっ! すぐに行ってまいります!」
アリエスの話を聞いた兵士が、国王のところへと走っていく。
騎士たちは、アリエスとペガサスをとりあえずこの場で休ませることにした。下手に動くと、兵士からの伝令が届かない可能性があるからだ。
そのタイミングを利用して、アリエスはここまでほぼ休まずに飛んでくれたペガサスをしっかりと労う。回復魔法まで使って、体をしっかりといたわっている。
「本当に無茶をさせましたね。ですが、そのおかげでどうにか迎撃ができそうです。キャサリーン様をどうにか説得して、この戦いを終わらせませんとね」
ペガサスの顔を撫でながら、アリエスは強い決意を固めている。
ようやく魔族との和平交渉が成立したのだ。このような形で平和への道のりを壊したくないのである。
「聖女様、国王陛下がお呼びです。すぐさま謁見の間へとお越し下さい」
「分かりました。では、この子の世話を頼みますよ」
「はっ! お任せ下さい」
アリエスはペガサスを兵士たちに預け、騎士たちと一緒に謁見の間へと向かっていく。
刻一刻と差し迫ってくる他国との戦争という事態に、少しでも早く対処をしなくてはならない。
アリエスの表情は、その険しさを一段と増していっているのだった。




