第144話 ガールズトークで盛り上がる元魔王
教会に戻ってきたアリエスは、エリスに会いに行く。カプリナたちよりも先にである。
それというのも、墓場でエリスの母親であるアクアに出会ったからだ。不思議な空間での出会いではあったものの、そこであったことは、エリスには聞く権利がある。なにせ、アリエスの前世とアクアとの間に生まれた娘なのだから。
墓場を去る時にしっかりと浄化をしてきたので、アリエスは万全の状態でエリスの部屋までやってきた。
「エリス様、いらっしゃいますでしょうか」
部屋の扉をノックして、中に呼び掛ける。
「アリエス様、お戻りになられたのですね。お入り下さい」
ノックに気が付いたエリスが、快くアリエスを迎え入れる。
返事を聞いたアリエスは、そーっと扉を静かに開けて中へと入っていく。
「アリエス様、お帰りなさいませ」
部屋の中に入ったアリエスは驚いていた。なんとカプリナも部屋の中にいたからだ。どうやら、年の近い女性同士でなにやらお話をしていたようだった。
「カプリナ様、どうしてこちらに?」
アリエスは驚いて、ついカプリナに状況を確認してしまう。
質問されたカプリナは、少しおかしそうに笑いながらも、アリエスの質問に答える。
「実は、エリス様から普段のアリエス様の状況について質問されてしまいましてね。それで、私の知る限りをお話していたのです」
「か、カプリナ様? それはさすがに私の個人的なことを話しすぎでは?」
カプリナから返ってきた答えに、アリエスは少し表情を引きつらせてしまう。
まあ、聖女である以上は、その動向は周囲には知らされてしまうので、プライバシーも何もあったものじゃない。だからといって、こうもほいほいと他人に話されてしまうのは、はたしてどうなのかと思うわけなのである。
「カプリナ様。私たち二人でいる時以外のことは、特に話されていませんよね?」
「それはもちろん。私が知りえない話ですからね。あっ、でも……」
「でも?」
言い訳をしているカプリナは、何かを思い出したかのように声を上げている。
「スラリーから、アリエス様の魔王時代のお話を少し聞きましたよ」
何かと思えば、普段はマントに擬態しているスラリーのことだった。どうやら、スラリーもこの話に参戦していたようである。
カプリナから話を聞いたアリエスは、じっとスラリーのことを見ている。
「スラリー、正直に話しなさい。どこまで話したのですか」
アリエスが問い詰めると、マントに戻っていたスラリーがぐにゃりと形を元のスライムの状態に戻している。
カプリナの頭の上に載ると、アリエスに対して釈明を始めていた。
「ありえすさま、やさしい。それだけ」
スラリーはそんなことを言っている。
「エリス様、カプリナ様。これは本当ですか?」
「はい、本当ですよ、アリエス様」
スラリーの言い訳を二人に確認すると、その通りだという返答があった。二人の性格からしてごまかしはしないだろうから、アリエスはその言い訳を信じることにした。
「まったく、人のことはあまり勝手に話をするものではないですよ」
「はい、アリエス様」
しょうがないなという感じでアリエスは三人を許しているようだった。
「とはいえ、私も今から他人の話をするので、あまり咎められたものではないですか」
「えっ?」
続けてアリエスの口から出てきた言葉に、エリスとカプリナは耳を疑っているようだ。
「誰のお話をされるんですか?」
「エリス様のお母様、アクア様の話ですよ」
「お母さんのお話ですか?!」
カプリナの質問にアリエスが答えると、エリスはとても驚いてるようだった。
それもそうだろう。エリスの母親であるアクアは、だいぶ前に病気で亡くなっているからだ。つまり、アリエスが前世まで含めてもほとんど面識のない人物である。そのアクアの話をするというのだから、驚いて当然というわけだった。
「私とアクア様の出会いは、このゼラブの近くで魔族との間で戦いが起きた時でした。私は争いを起こした魔族を止めに行き、そこで負傷されたアクア様と会ったのです」
淡々とアリエスはアクアとの思い出を語り出した。エリスもカプリナも黙ってその話を聞いている。
それによれば、アリエスは本当にゼラブの兵士たちを介抱しただけで、何もしていないのである。
「不思議ですね。本当に介抱をされただけなのですか」
「はい、他にもたくさん兵士はいましたからね。魔王に助けられたなど恥でしょうし、私の方としてもあまり当時はいいとは思っていませんでしたので、口止めしておいたのです。ですので、ゼラブの中でもこのことを知っているのはかなり限られていたはずです」
「確かに、教会の方々も知っている方はいらっしゃいませんでした。先日のアリエス様のお話で初めて知ったようですよ」
アリエスの話を、エリスが肯定している。それだけみんな秘匿にしていたのだろう。
「まあ、不思議な空間でアクア様にお会いしたのでしたが、私はとことん恨まれていましたね。人生をめちゃくちゃにしたのだから、エリス様の面倒を一生見ろだなんて言われてしまいましたよ」
「お母さんってば……」
アリエスの話を聞いて、エリスは困った顔をしているようだ。
「言われなくても、私の魔王時代の娘だと分かったのですから、それは大切にさせていただきますよ。だって、自分の子どもなのですからね」
アクアの言い分には正直困惑していたものの、エリスを目の前にすると迷いなど吹き飛んでしまったようである。
アリエスの宣言を聞いたエリスは、それは顔を赤らめながら目を逸らしてしまっている。
カプリナも困った顔をしていたものの、事情が事情なのであまり気にしないようしたようである。
「みんな、なかよし」
スラリーは嬉しそうにカプリナの頭の上で飛び跳ねている。
ちょっとだけ沈みかけた気持ちではあったアリエスだが、二人の姿を見てすっかり持ち直したようだった。
食事の時間まで、いろんな話で盛り上がるアリエスたちなのであった。




