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魔王聖女  作者: 未羊
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第14話 友人を心配させる元魔王

 アリエスが出発する同時刻。

 辺り一帯を治めるゾディアーク伯爵家の家では、カプリナが王都に向かう支度をしていた。


「遅いですね、アリエスさん……」


 馬車に乗り込もうとするカプリナは、心配そうに教会の方を見ている。


「ありえすさま、しんぱい?」


 肩にかかるショールに擬態しているスラリーが、カプリナに問いかけている。


「ええ、デビュタントへはご一緒に向かう約束でしたから。何か問題があったのでしょうか」


 どうやら、カプリナの方はというと、アリエスと一緒に王都へ向かうと約束していたのだという。そのために、こうやってアリエスを待っているようだ。

 しばらく待っていたカプリナのところに、様子を見に行っていた部下が戻ってきた。


「どうしたのだ、そのような血相で」


「た、た、大変です!」


「どうかなさいましたか?」


 伯爵と部下の慌てた声に、カプリナも乗り込んだはずの馬車から飛び降りてきた。


「大変でございます。教会へ王家の馬車が入っていきました」


「なんだと?!」


 部下が王家の馬車を目撃したのだという。聖女が誕生したということは王家には報告してあるがために、伯爵にはすぐにあることが頭に過る。


「まずいな……」


「何がまずいのですか、お父様」


 カプリナが伯爵に問いかける。


「王国に報告した時から、王族たちは聖女のことをかなり欲しがっていた。報告した時はまだ五歳だからと断りを入れたのだが、今回はデビュタントを控えた十歳だ。自分たちのところで囲うつもりだろう」


「ですが、聖女様は王国の守護者なのでしょう? でしたら、当然ではないのですか?」


「カプリナ、お前はどういう立場だ?」


「アリエスさんの聖騎士です」


 カプリナはそう答えた時に気が付いた。


「そうですわ。聖女と聖騎士は常に一緒にいるものではないのですか? なら、なぜ私のところには来ないのでしょうか」


「そうだ。王家は何も知らない聖女だけを手に入れるつもりなんだ。くそっ、こんなことなら早めにこちらに住まわせておくべきだった」


 伯爵は気が付くとすぐにカプリナと一緒に馬車に乗り込むと、すぐさま教会に向けて出発する。

 なんとしても王家に聖女をかっさらわれるのを防ぎたいからだ。

 デビュタントを迎えるとはいえ、聖女はまだ年端の行かぬ十歳の少女である。教会でしっかりと教え込まれているとはいえ、お城に着いてしまえば、いや、今のうちからどんなことを吹き込まれるか分かったものではない。

 伯爵もカプリナも気が気ではない状態だった。


 伯爵たちを乗せた馬車が教会に到着する。だが、その時に見た光景に、伯爵は愕然とした。

 入ってきたはずの王家の馬車が、すでにいなくなっていたからだ。


「司祭、どうなっているのだ」


 伯爵はすぐに責任者である司祭を呼ぶ。

 大きな声が聞こえてくるので、慌てて司祭と育ての親である牧師が表に出てくる。


「これは伯爵様、一体どうなされたのですか」


 あまりの剣幕に、司祭も牧師もびっくりである。


「どうもこうもない。私どもの馬車で一緒に向かう予定ではなかったのか?」


「ええ、そうでございましたか?! ですが、アリエスは何も……」


「なんですって。アリエスさん、約束しましたのに……」


 カプリナはショックを隠し切れないようである。

 だが、司祭と牧師たちを問い詰めても、誰も約束を聞いていないという。とても嘘を言っているようには思えないこの反応を見る限りは、アリエスがわざと司祭たちに今回の約束を伝えていなかったようだ。一体どうしてなのだろうか。

 これ以上話を続けていても時間の無駄だと感じた伯爵は、やり取りを切り上げて王都へと向かうことにする。


「どうやら知らなかったようだからな、今回は責を問わないものとする」


「ありがとうございます」


「だが、これまで以上に領地のために尽くすように頼むぞ」


「もちろんでございます」


 急いでいるために簡単にやり取りを済ませた伯爵は、妻とカプリナと一緒に王都へと向かっていく。

 本当は急いでいきたいところだが、相手は王家の馬車だ。下手に手が打てないために、距離を保ちつつ後ろをついて行くことしかできなかった。


 馬車の中は静まり返っている。

 ある程度教会から離れたところで、スラリーがいきなり擬態を解いてカプリナの膝の上に居座る。


「かぷりな、これ、ありえすさま、さくせん。ありえすさま、しんじる」


「作戦? どういうことなのですか?」


 スラリーが急にわけの分からないことを言い出すものだから、カプリナは驚いている。もちろん、両親もである。


「さいきん、まものかっぱつ。すらりー、けはいかんじる。いっしょ、おそわれる」


「つまり、聖女様は魔物の気配を感じて、私たちとわざと別行動になるようにしたということなのか?」


「みんな、だいじ。なかま、まもる。ありえすさま、やさしい」


 スラリーは体を左右に揺らしながら話をしている。


「このさき、みぎはまもの、ひだりあんぜん。すらりー、けはいわかる」


「それなら、なおさら聖女様もご一緒なさるべきだったのでは?」


「ありえすさま、じぶんでせおう。じゃま、だめ」


 スラリーの言い分に、伯爵たちは何も言えなかった。それがアリエスの選んだ道ならば、従うしかなかったのだ。


「アリエス様、どうかご無事で……」


 カプリナにできることは、ただ祈ることだけだった。

 スラリーの指示通り、街道の分岐点で伯爵たちは左の街道へと進んでいく。

 きっと無事に王都で出会える。ただそれを願いながら。

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