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魔王聖女  作者: 未羊


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第137話 最初の目的地へ向かう元魔王

 こうして、アリエスは周辺諸国への説得のために出かけることとなった。はっきりいって、戦争ということになっては最強聖女であるキャサリーンを有するテレグロス王国には束になっても敵わない可能性がある。

 しかし、教会を通じて説得に回れば、テレグロス王国をはじめとした野心を抱える国家にとって牽制になるのではないかと、司祭たちはそう睨んでいるのである。

 アリエスとしては、キャサリーンは敵に回らないと信じたいところだ。聖女オーロラが誘えば応じるし、ゼラブ国に危険があれば駆けつけてくれるような優しい女性だからだ。

 しかし、アリエスにはどうにも不安があるのである。


「アリエス様、かなり深刻に考えていらっしゃるようですね」


 馬車に乗るカプリナが、ペガサスで移動するアリエスに話しかけている。


「ええ。正直申しまして、私には人間同士の争いというものが分かりません。元々が魔王だったということもあるでしょうが、……私の時代が平和すぎたのでしょうかね」


「アリエス様はお優しすぎます。私も信じたいところですが、お父様が仰るには、そんなきれいごとだけで済む世の中ではないとのことですよ」


「……そうですね。実際、私が……魔王としての私が死んだあとには、魔族同士の抗争があったようですからね」


 アリエスは、下を向いて黙り込んでしまった。


「アリエス様、とにかく各国を説得して回りましょう。人間同士の争いが起きて混乱を極めれば、いくらアリエス様の意思が伝えられたとしても、動き出す魔族はいると思われますからな」


「そうですね。何事も行う前から弱気になっていては達成できません。まずはゼラブ国へと向かいますよ」


「はっ!」


 サハーの言葉に元気を取り戻したアリエスは、最初の目的地であるゼラブ国へと移動していく。


 なぜゼラブ国を最初に選んだのか。

 ゼラブ国はテレグロス王国の隣国である。それでいて魔族領とも隣り合っているため、争いが勃発すれば真っ先に消滅しかねない場所である。

 アリエスがここに向かう理由はひとつだ。

 このゼラブ国の聖女であるエリスである。

 このエリスという聖女、実は神官と魔族との混血である。そして、その魔族というのが、他でもない魔王だった頃のアリエスである。

 アリエスとエリスが触れ合うと共鳴が起きるのは、この親子の縁のためである。

 ところが、アリエスは魔王だった頃に、女性との接触は表面的なものだけだった。エリスの母親であるアクアに対しても、介抱をしてあげただけで特にやましいことなど何もしていない。

 だというのに、このアクアは子を成し、エリスを産んでいる。なんとも不思議な話である。

 そのため、エリスの頭には魔族であることを示す角が生えている。普段はそれを髪の毛で必死に隠した上に、ベールまで着けているのだ。かなり徹底的である。

 いろいろと考え込んでいる間に、アリエスたちはゼラブ国の首都までやって来てしまっていた。


「アリエス様、ゼラブ国の首都に到着いたしました。ひとまず、このまま教会に向かえばよろしいでしょうか」


 サハーがどう行動するのか確認をしてくる。


「はい、そのまま教会へと向かって下さい。聖女であるエリス様とお話をしないといけませんのでね」


「承知致しました。それでは教会へと向かいます」


 サハーは馬車を操り、そのまま教会へと向かっていく。

 相変わらず、ゼラブ国の状況はよろしくないようだ。エリスの力は以前よりはマシになったものの、やはりゼラブ国の土地そのものはあまりよろしくないようである。


「おお、これはこれは、サンカサス王国の聖女アリエス様ではございませんか。お話は伺っております、遠いところをわざわざよくお越し下さいました」


 ゼラブ国の司祭が丁寧に挨拶をしてくる。それにしても話を伺っているとはどういうことなのか、アリエスたちにはちょっとよく分からない話である。


「実はでございますね。サンカサス王国の司祭様より、お手紙を頂戴しておるのですよ。アリエス様が訪問なされるので、お話に応じてもらいたいと書かれておりました」


「まあ、司祭様ったら……」


 ゼラブ国の司祭の話を聞いて、アリエスは過保護だなぁと笑っていた。

 しかし、このように気を遣うというのも、当然の話である。聖女とはいえ、アリエスはまだ十一歳の少女なのだ。何かあっては困るということで、手を打っておくのは当然なのだ。

 自分が大切にされているということを改めて見せつけられたアリエスは、ただただ苦笑いをするばかりである。


「お話には私どもが対応いたします」


「いえ、これは私の役目でございます。すべて責任者の方々を目の前に、私が訴えて説得させていただきます。ですので、どうかご理解下さいませ」


「はい、承知しました」


 自分たちが話を聞いて、アリエスの言葉を伝えるつもりであった司祭たちだが、アリエスに強く言われてしまったので従うしかなかった。

 話を終えたアリエスは、荷物をカプリナたちに任せ、一人でエリスに会いに教会の中を歩き始めたのだった。

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