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魔王聖女  作者: 未羊


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第130話 国王と約束をする元魔王

「私、アリエスは、魔王の生まれ変わりなのです」


 アリエスから放たれた言葉に、国王をはじめとした全員が黙り込んでしまう。


「すまない。私の聞き間違いでなければ、魔王とか聞こえたのだが……?」


 国王はもちろん、周りの誰もが聞き間違いを期待していた。

 ところが、アリエスから繰り返された言葉は、間違いなく魔王の生まれ変わりだという告白だった。


「本当に、そんなことがありえるのか?」


 国王は頭を抱えていた。

 サンカサス王国に長らく不在だった聖女が誕生したのはいいが、その聖女が実は魔王の生まれ変わりだったなど、誰が信じられるというのだろうか。

 ところが、アリエスと一緒にいるカプリナたちはまったく動じていなかった。つまりそれは、そこにいる面々はアリエスのことを知っていたということになるのだ。


「そなたたちは、知っておったのか……?」


「ボクやカプリナ嬢は最近知ったばかりですよ。先日の魔王軍の襲撃の時です。もちろん驚きましたが、なんとなく納得がいきましたよ。魔族を従えている時点でね」


 国王の疑問に、ヴァコルはすらすらと答えていた。

 ヴァコルはアリエスに魔力の使い方を教えた時に、護衛として教会に住んでいるサハーと出会っている。その前に国王からも情報はもらっていたのだが、信じていたわけではなかった。

 ところが、実際に出会ったフィシェギルのサハーは、アリエスに対して絶対的な忠誠を誓っていた。何かあったことは感じ取っていたものの、そこまでの関係とは思ってもみなかった。


「ありえすさま、すらりー、そだててくれた。とても、やさしい。せいじょでも、おどろかない」


 カプリナの頭の上で、スラリーが体を揺らしながら話をしている。

 スライムは言葉も喋れず、ただ他の生物を捕食して回るだけの危険な存在だ。それがこうやって喋っているだけでも奇跡的なことである。

 スライムをそこまで面倒を見ることができるだけでも大したものである。つまり、スラリーを育てた魔王という存在は、それだけ根気と愛情を持ち合わせた人物だったということが容易に想像できるというわけである。

 そのスラリーが慕うアリエスなのだから、育てた魔王と同一人物ということにもある程度の説得力が生まれるのである。


「私も、アリエス様が魔王の生まれ変わりということを信じます。小さい頃からの付き合いがありますが、アリエス様はうそを言う方ではございませんので」


 カプリナは自分の頭の上で体を揺らしていたスラリーを両手に抱えながら証言をしている。

 カプリナも言っていた通り、カプリナはアリエスを教会の人間以外では最も近くに居続けた人物なのだ。信ぴょう性があるというものである。


「……つまり、アリエスは魔族たちをまとめ上げることができるということでいいのかな?」


「はい。少なくとも魔王城にいた魔族たちに限れば、私が言うことを聞かせられます」


 国王の問い掛けに、アリエスははっきりと答えている。

 だが、その答えには条件が付いていた。そう、『魔王城にいた』という言葉である。

 実際、アリエスが魔王だった頃にも、魔王城の魔族に関してはアリエスの意に反する者はほぼいなくなっていた。

 人間や他の魔族に襲われることがあれば、アリエスが率先して助けて回っていたというのもある。末端に至るまで見捨てないアリエスの方針に、多くの魔族が忠誠を立てていた。あのラースですらも、アリエスの前世である魔王には従っていたのだ。

 ところが、いくらアリエスが尽力しようとも、魔王城から遠い魔族にまではその思いが届くことはなかった。そういった魔族たちが好き勝手に暴れていることは、アリエスにとっては悩みの種だったのである。

 まあもっとも、放っておいても人間たちに戦いを仕掛けては聖女の率いる軍勢に懲らしめられていたのだが。


「私が聖女となったからには、必ずや魔族たちの脅威を減らしてみせましょう。パイシズ、それとそちらの魔族の兄妹もよろしくお願いします」


 アリエスはパイシズたちに対して頭を下げていた。


「いえいえ、魔王様。魔王様が頭を下げられるほどのことではございません。魔王様の意思は我々の意思。必ずやその思いを達成してみせましょう」


 パイシズはアリエスに対して跪いていた。

 目の前で繰り広げられるやり取りに、謁見の間に集まっている誰もが言葉を失っていた。魔族に対して聖女が頭を下げるし、逆に聖女に対して魔族が跪いたりしているのだから。

 歴史的な瞬間ではあるものの、夢でも見ているのだろうかと誰もが思ったのである。


「おほん」


 国王が咳払いをする。

 いくら信じられない光景が繰り広げられているとしても、国王はこの状況をどうにかしなければならない。自分を落ち着かせる意味でも、わざと大きな咳払いをしたのである。


「……分かった。とにかくアリエスを信じようではないか。魔族たちへの対処、アリエスとカプリナ、それとヴァコルの三人で頼んだぞ」


「はっ、陛下の御心のままに」


「はい、必ずややり遂げてみせます」


 国王の言葉に、三人は力強く答えていた。


 驚きに満ちた謁見ではあったものの、どうにか無事に終わることができた。

 その夜、国王たちとの晩餐に参加したアリエスたちは、一度ヴァコルと別れてゾディアーク伯爵領へと戻っていったのだった。

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