第127話 王都を目指して戻る元魔王
翌日、パイシズがアリエスたちに同行することになる。その代わり、ピスケースが代わりに魔王軍をまとめることになった。
なぜ、パイシズが出かけることになるかというと、サンカサス王国との和平交渉に臨むためだった。
「私に父上の代わりが務まるでしょうか」
「何事も経験だ、ピスケース。ラース亡き今、我々は前魔王様、今のアリエス様の意思に逆らう者はいない。統制の取れた軍勢を扱うのだ、何も難しいことはない」
不安そうにするピスケースに、パイシズはしっかりと言い聞かせている。
アリエスが魔王時代にまとめ上げていた魔族たちは、かなりひとつにまとまっていたのだ。輪を乱すようなやつはいないから、それほど心配するなというのがパイシズのアドバイスなのである。
「そうですよ、ピスケース。私が苦労してまとめ上げた魔王軍なのです。自由にやらせていてもさほど問題はありません。どうぞ、ご安心下さい」
「ま、魔王様がそこまで仰られるのでしたら……」
まだ半信半疑といったところだった。
出かけるにあたり、パイシズはアリエスの乗るペガサスに目を向ける。
「それにしてもペガサスですか。このような幻の生物まで出現させるとは、本当に魔王様は変わったお人でございます」
「ペガサス……。初めて見た時はびっくりしましたが、どういった存在なのでしょうね。調べるだけの時間がありませんでしたので、私もよく分からないのですよね」
「ブルル……」
首筋を撫でると、くすぐったそうに鳴いている。
「魔族たちの間では、不吉の象徴とされている存在ですよ。ペガサスナイトと呼ばれる存在がおりまして、ペガサスを駆り、空中から魔族たちを殲滅すると伝えられております。こうやって無事だったことを考えると、その伝承を知る者はいないようですな」
「そうなのですか。でも、私は聖女で騎士ではないのですけれどね」
「聖騎士は私ですが、私の前には現れませんでしたよ」
「そのようですな。ですが、私としてもそのペガサスを不吉なものとして断ずることはできません。なにせ、魔王様を連れて帰ってきて下さったのですからね」
パイシズはペガサスをじっと見つめているが、魔族の視線をまったく嫌がる様子はない。
「そちらのお二方は、私とともにこちらの馬車にお乗りください。さすがに徒歩はつらいでしょうからな」
パイシズは部下に馬車を用意させていた。
馬車の馬を見てみると、なんと足が六本ある。これだけでも魔族の馬だというのがよく分かる生き物だった。
「エキュイエ、久しぶりですね」
「ヒヒーン」
ペガサスの上から声をかけると、馬車を牽く馬がいなないている。どうやらアリエスは、この馬のこともよく知っているらしい。
「あれから十三年経つといいますのに、よく生きていますね。魔物であるために、寿命が普通の馬とは違うのでしょうかね」
「そうですな。馬によっては百年生きるとも言われておりますし、長寿なのは間違いないでしょうな。私ども魔族に比べれば、短いですがね」
「それは仕方ありませんよ」
パイシズの言い分に、アリエスはくすくすと笑っていた。
アリエスが他の馬に興味を示したせいか、ちょっとペガサスが機嫌を損ねているような素振りを見せる。
「おっとっと、大丈夫ですよ。エキュイエは私が魔王時代に拾ってきた馬です。久しぶりに会ったのですから、挨拶をするのは当然というものですよ。機嫌を悪くしないで下さいね」
「ブルルル……」
ペガサスはしょうがないなというような感じで鳴いている。まったく、最近アリエスとよく一緒だったせいか、昔の馬が出てきたことでちょっとやきもちをやいているようだった。これにはさすがのアリエスも苦笑いをするしかなかった。
出発の支度が整い、アリエスたちはサンカサス王国を目指して出発することとなる。
「それでは、参りましょうか。サンカサスの王都を目指しますよ」
「はい、魔王様。仰せのままに」
パイシズが返事をすると、ゆっくりと馬車が歩き出す。
アリエスと魔族の兄妹が乗るペガサスも、それに合わせて歩き始めた。
「このように魔族と同じ馬車に乗り合わせるとは、まったく考えたことがなかったですね」
「それは私とて同じこと。魔族と人間は相いれないものと、どこかで思い込んでおりましたからな」
「同感ですね」
言っている内容の割には、なぜか意見が合う二人である。これにはヴァコルの隣に座るカプリナも笑うしかなかった。
「へんなの。たがいがきらい、いいつつも、いけんがおなじ」
「そうですね、スラリー。それだけ種族の壁というのが厚いということなのでしょうね」
「すらりー、よくわからない」
カプリナと話をしながら、元の姿に戻っているスラリーは体を左右に揺らしていた。
カプリナたちを乗せた馬車と、アリエスの乗るペガサスは、実にゆっくりとサンカサスの王都を目指して魔族の領域を進んでいく。
途中で魔物が襲い掛かって来るものの、パイシズとヴァコルの連携によって、あっさりと倒されていた。
「ふん、やりますな」
「そっちこそ」
仲が悪そうに見えて、息もぴったりである。これにはアリエスたちも笑うしかなかった。
ちょっとしたトラブルは起きているものの、アリエスたちは無事にサンカサス王国の領土内に入ることができたのだった。




