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魔王聖女  作者: 未羊
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第12話 お茶会に向かう元魔王

 スラリーとアリエスが再会してから、さらに二年が経過する。

 十歳になると、サンカサス王国の貴族子女はデビュタントを迎える。

 デビュタントは貴族子女の話なので、アリエスには関係ない話だと思っていた。ところがだった。


「えっ、私もデビュタントに参加ですか?」


 あれから二年が経ち、聖女としての活動が増え、ますます美少女となったアリエスはびっくりしていた。

 教会に拾われた出自不明の身ゆえに、貴族たちの催し物に参加することになるとは思ってもみなかったのだ。


「はい。アリエスは聖女の神託を受けたのです。聖女は貴族たちよりも身分は上になりますので、参加するのは当然ということになります」


「ふむふむ」


「ですが、義務でもありませんから、断ることもできますよ」


 育ての親である牧師がデビュタントについて説明している。

 貴族であれば必須。聖女や聖騎士は任意での参加で構わないらしい。


「私はどうしましょうかね……」


「お一人で決められないのでしたら、カプリナ嬢と相談してみてはいいでしょう。彼女は貴族ですから、デビュタント必須ですからね」


「分かりました。そうしてみましょう」


 一人で決めるのもなんだからと、アリエスは神託の後からパートナーとなっていたカプリナと相談をしてみることにしてみた。


 数日後、アリエスはカプリナの家を訪ねていた。

 用件はデビュタントの相談である。それと、護衛につけておいたスラリーの確認をする。アリエスは特に後者を重要視して領主である伯爵の邸宅を訪れた。


「アリエスさん、よくいらして下さいました」


「ご無沙汰しております、アリエス様」


 アリエスはちょこんとカプリナに挨拶をする。

 カプリナの肩には謎のショールが羽織られているのだが、これはスラリーが擬態したものである。この手触りのよさそうな質感の布がスライムとは誰も思うまい。そのくらい、スラリーもすっかり擬態に慣れているようだ。


「今日のところは天気はよろしいですが、お部屋でのお茶会でよろしいでしょうか」


「はい、それで構いません」


 カプリナの侍女の案内で、アリエスはカプリナと一緒に部屋に向かう。

 カプリナの部屋のテーブルの上には、すでにお茶菓子が用意されていた。アリエスがこちらを選ぶのは読まれていたようだ。


「アリエスさん、お掛けになって下さい」


「はい、失礼致します」


 言葉に甘えて椅子に腰掛けるアリエス。続けて、カプリナも座る。


「今日はデビュタントのお話ですよね?」


「は、はい。その通りです」


 話題について見抜かれていたので、アリエスはちょっとびっくりしている。


「そのくらい簡単に分かります。私は貴族ですので話は来ておりますもの」


 そう言いながら、カプリナはお茶を飲んでいる。


「もちろん、アリエスさんもご参加なさいますよね? 私とは聖騎士と聖女の関係なんですもの、ねっ、ねっ?」


 やたらとぐいぐいくるカプリナに、アリエスはつい気圧されてしまう。


「か、カプリナ様。近いですってば」


 テーブルに身を乗り出してくるカプリナに、アリエスはとにかく落ち着くように促す。

 侍女が咳払いしたこともあってか、ようやくカプリナは落ち着いて椅子に座り直していた。


「おほん、失礼致しました」


 真面目な表情に戻ったカプリナは、再びアリエスに対して話しかけてくる。


「それで、アリエスさんはデビュタントに参加なさるおつもりですか?」


「私は、実はまだ悩んでいるのです。聖女として知られてしまうと、こちらで落ち着いて生活ができないのではないかと思いましてね」


「なるほど、それは確かにありますね。今はまだ魔王との戦いの傷跡からの復興の真っ最中ですので、聖女の存在はきっと心の拠り所になるでしょうからね」


 カプリナも懸念を示している。

 ただ、自分は聖騎士である以上、聖女とともにいられることには間違いないだろう。ただ、王国によってあちこちに連れ回されて、アリエスが使い潰されないかという心配があるのだ。


「とりあえず参加してみまして、聖女として酷使されるようでしたら、一緒に逃げましょう」


「いいのですか? 王国の貴族がそんなことを仰っても」


 カプリナから飛び出た言葉に、アリエスは本気で驚いている。

 魔王としての知識から、貴族は王国への忠誠は絶対だと思っていたからだ。


「いいのですよ。だって、私は聖女を守る聖騎士なのですから。アリエスさんの身が一番なのです」


「カプリナ様……」


 両手を胸の前で合わせながら、優しい目を向けてくるカプリナに、思わずうるっと来てしまうアリエスである。


「分かりました。私もデビュタントに参加します」


 アリエスが言い切ると、カプリナの目がきらりと光る。


「そう仰ってくれると信じておりました。メイベル、すぐにあれをお持ちになって下さい」


「はい、お嬢様」


 カプリナはすぐ横に立っていた自分の侍女に命令を出している。


「ちょっと、カプリナ様?!」


「こういうことは急いだ方がいいのですわよ。ささっ、アリエスさん、お覚悟をなさいませ」


 このあと、アリエスはカプリナの手によってデビュタント用のドレスの試着に付き合わされたのである。

 ドレスの試着が終わる頃には、アリエスは目が回っていた。この時、令嬢は大変だなと思ったアリエスなのであった。

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