第114話 一変する元魔王の部下
ライラとピスケースの戦いもまだ続いていた。
実力でいえばライラの方が上なのだが、ピスケースも鞭という変則的な武器に加え、魔法を駆使してライラの攻撃をうまくいなしている。
「まったく、やりづらい相手ですね」
「それはお互い様でしょう」
意外とピスケースは笑いながら戦っている。
基本的に魔族は好戦的とは言われているが、頭脳派であるパイシズの息子であるピスケースまでがここまで好戦的とは思ってもみなかった。そのために、ライラはなんとも複雑な表情を浮かべていた。
(まったく、どうすればピスケースを正気に戻せるでしょうかね)
同僚として、ライラはあまり攻撃する気になれないようだった。それが、この戦いが長引いている原因ともいえる。
(パイシズ様のご子息であるならば、失えば魔王軍に影響は確実に出ますからね。魔王様が復帰された時に弱体化しているなどあっては、はっきり言って困りますから)
どうやらライラは、アリエスのためにピスケースを攻めあぐねいているようだった。
そもそも今の魔王軍は、前の魔王であるアリエスの前世によって鍛え上げられてきたのだ。
聖女となった今でも、アリエスは自分たちの部下のことを気にかけている。そのことを知っているからこそ、ライラは本気で攻勢に打って出られないというわけだ。
どう戦えばいいか困っている時だった。
大きな魔力が近付いてきた後、懐かしい魔力を感じた。
(この魔力は、魔王様の魔力。相変わらずとんでもない神聖力ですが、間違いありません)
質は変わってしまったとはいえ、すぐに分かってしまうライラだった。
そう、アリエスが戻ってきたのだ。
アリエスが戻ってきたことを感じ取ると、ライラはその表情に余裕が出てくる。
「戦いのさなかに笑えるとは、相当余裕ですね!」
ピスケースの攻撃が繰り出される。
ところが、ライラはその攻撃をすべて余裕で捌いていた。
「ええ。私の信奉する、あの方が戻ってこられたのですから。これで、万が一にもあなた方に勝ち目はありません」
「ほざきなさい。私たちには魔王様が控えているのです。あの方さえいらっしゃれば、あなたたちなど一瞬で蹂躙できるでしょう」
「やってみなさい」
余裕の表情を見せるライラに対して、ピスケースは露骨に不機嫌な表情を浮かべている。
いらつきを募らせたピスケースの攻撃がかなり乱雑になり、ライラは捌きやすくなっていた。しかし、瘴気に戻す方法を見つけられず、そのまま長々とピスケースを一人で引き付ける形となってしまった。
膠着状態の続いた二人の戦いだったが、ある時転機が訪れる。
ドンという音ともに、とんでもない神聖力が辺りに降り注いだのだ。
(これは、魔王様の魔力!?)
あまりにも大きな衝撃だったので、ライラはつい目をそちらに向けてしまう。
「よそ見とは、愚かな!」
ピスケースの鞭がライラに向けて飛んでくる。
「しまった!」
ピスケースの鞭にライラの腕がつかまってしまう。
「さあ、捕まえましたよ。今すぐにでもあの世……、うっ!」
優勢に立ったはずのピスケースが、突然、しゃがみ込んで苦しみだした。一体何が起きているというのだろうか。ライラは状況がよく分からずに困惑している。
「ら、ライラ……?」
「ピスケース、どうしたのです」
顔を上げたピスケースは、なぜかきょとんとした目をしていた。状況がよくのみ込めないらしく、辺りをきょろきょろとしている。
「私は、今どこにいるのですか? 父上と一緒に執務室にいたはずなのですが……」
「どういうことだ? もしや、洗脳が解けたのか?」
「洗脳?」
ライラの言葉にピスケースは頭を押さえている。
「うう、何も思い出せない。なぜ、私は魔王城にいないのだ……?」
取り乱すピスケースは、ライラに向けて質問を投げかけてくる。
「ここはどこなのだ。どうして私はこんなところにいるのだ。分からない、ライラ、教えてくれ……」
頭を抱えるピスケースに、ライラはしばらくどうすべきか対応を考えこむことになってしまった。
一方、他の場所でも異変が起きていた。
ゾディアーク伯爵の軍勢と戦っていたはずの魔族たちが、突然戦いを放棄し始めたのだ。
「な、なんだ? 一体何が起きているんだ……」
伯爵も困惑している。
「お、俺たちは一体」
「うわぁ、人間だぁっ!?」
一部の魔族にいたっては、人間を目の前にして震え始めていた。
先程までとまったく違う状況に、騎士や兵士、傭兵たちは攻めながらも首を捻っている。
「一体どうしたということなのですか。魔族たちの統制がいきなり乱れだしていますね」
アリエスと別れて戻ってきたヴァコルも、状況がまったく理解できないようだ。
「ですが、今が好機です。一気に魔族たちを押し返しましょう」
「おーっ!」
ヴァコルの声が聞こえた一部の軍勢が、大きな声を上げている。
すっかり形勢が逆転した戦闘は、またたく間に魔族たちの敗走によって決着がついたようである。
そう、ゾディアーク伯爵領は魔族の脅威から守られたのである。




