第112話 仕掛けを見抜く元魔王
「おらぁっ! 挨拶代わりに一発食らっておけ!」
アリエスとヴァコルに対し、ラースが棍棒を振り上げてもう一度力一杯に振り下ろす。
この攻撃に対して、アリエスたちは意外と落ち着いていた。
「ハイシールド!」
アリエスは防御魔法を展開する。
ラースが放った一撃は、地面の破片を勢いよく飛ばしてくるが、そのすべてはアリエスの魔法によって防がれていた。
「小癪な!」
驚くラースに対し、アリエスはヴァコルへと声をかける。
「さあ、ヴァコル様。遠慮なく攻撃を!」
「あ、ああ。そうだな、魔族を目の前に怖気づいている場合ではなかったな」
アリエスの声に、ヴァコルは落ち着きを取り戻す。王宮魔術師とはいえ、これほどまでに大きな魔族と対峙するのは初めてだったため、少しばかり面食らってしまっていたようだ。
すぐさま魔法を使う動作に入る。
「巨大な魔族とはいえ、力業しかなさそうな相手だ。ボクの魔法を、どこまで耐えられるかな?」
巨大な魔族であるラースに対しても、ヴァコルは思いの外余裕の笑みを浮かべている。
「ファイアランス!」
炎の槍を生み出す魔法を展開し、ラースに向けて一斉に放つ。その数は十本にも及ぶ。
普通の魔法使いなら二本から三本が精一杯の魔法だ。それを十本も同時に操るあたり、さすが王宮魔術師といえる。
ところが、ラースはその魔法にもまったく驚く様子はない。
「ふん、この程度の火の魔法。俺様に通じると思うな!」
ラースが叫ぶと同時に、炎の槍の威力が弱まってしまう。
「なんだと?!」
さすがにヴァコルが驚く。さっきのファイアーボールもだったが、どういうわけか突然威力が弱まってしまった。一体どういうことなのか。さすがのヴァコルも理由が分からなかった。
ところが、この状況の中で一人だけ理由が分かっている人物がいた。
(なるほど、ラースの大声に紛れて、魔法を無力化する魔法を使ったというわけか。ふん、この俺を欺けると思うなよ?)
他ならぬアリエスだった。
アリエスは前世で自分の力でもって魔王まで上り詰めた経験の持ち主だ。そのために、物理も魔法もそれなりに極めてきた。それゆえ、場に展開されている魔法について、かなりの精度で感じ取っているようなのだ。
(この魔法は、場の魔力に揺らぎを与えて無効化する魔法だな。ということは、ラースの裏にいる人物に大体想像はついたな)
アリエスはヴァコルが驚くのとは対照的に、実に余裕に満ちた表情でラースを見つめている。
しかし、このままヴァコルを無力化され続けても困るというもの。魔法が無力化される原因に目星がついたアリエスは、すぐさま防御魔法を維持したまま、次の手を講じる。
「ディスペル・サークル!」
アリエスが使った別の魔法は、ぐんぐんとアリエスの足元から広がりを見せている。
「ふん、この程度の魔法がどうした。俺様は痛くもかゆくもないぞ」
ラースは平然と立ち続けているが、アリエスの狙いは別のところにあった。
「ぐわぁっ!!」
誰もいないはずの場所から、いきなり悲鳴が聞こえてきた。
ヴァコルが目を向けると、黒いもやがあふれ出るローブをまとった魔族が苦しみながらその場に姿を現したのだ。
「やはりいましたね。その場の魔力を自在に操る魔族、ディサイトが!」
「こ、小娘、どうしてこのわしを……!」
「さあ、どうしてでしょうか」
苦しむ姿を見せるディサイトと呼ばれた魔族が、アリエスを睨みながら大声を出している。
睨まれたアリエスは平然として立ち続け、苦しむディサイトとは対照的に余裕の笑みを見せていた。
「さあ、ヴァコル様。今ならラースに魔法が届きます。あいつの弱点は意外にも土属性ですから、がっつりといって下さい!」
「聖女様。なぜそんなに魔族にお詳しいのですか?」
「どうだっていいじゃないですか、今は。あいつを倒せば、おそらく攻めてきている魔族たちの大半が動きを止めます!」
「わ、分かりました。あなたを信じましょう!」
細かいことはいいんだよと言わんばかりに、アリエスはヴァコルにさっさと魔法を使うように促す。
ヴァコルもそれに応えるように、すぐさま姿勢と呼吸を整えて魔法を使う準備を整える。
(さっきのディスペルでは、やはり一時的な解除しかできなかったな。この魔族たちにかけられた洗脳は、おそらくラースとディサイトが協力して展開をしているはずだ。どちらか一方を倒せば、きっと元に戻ってくれるはず)
アリエスは、どことなく確信を持っていた。
アリエスのディスペルで弱っているディサイトはいつでも倒せると判断し、アリエスはヴァコルにラースの弱点を伝えていた。
そのアリエスの狙い通り、ヴァコルが魔法を放ってくれればきっと終わるはずである。
「命を育みし大地よ、その慈悲に逆らいし者たちに、静かなる怒りの鉄槌を下したまえ」
大魔法を使うのか、ヴァコルの魔法の詠唱が少しばかり長い。だが、アリエスはもうちょっと短くならないだろうかと、ちょっとばかり不満そうな表情をしていた。
とはいえ、ふたつの魔法を同時に展開しているために、文句を言うことは控えていた。
魔力のチャージを終えたヴァコルは、目の前のラースを見据えて魔法を放つ!
「グラウンド・ピアッシング・ソーン!」
ヴァコルの魔法が放たれると、地面からラースたち目がけて巨大な岩のとげが出現したのだった。




