第111話 敵陣に切り込む元魔王
魔族の兄妹を乗せたまま、アリエスの乗るペガサスが地上に降りてくる。
「ただいま戻りました。戦況はいかがでしょうか」
アリエスは地上に降りるなり、ゾディアーク伯爵に状況を尋ねている。
「ああ、一応持ちこたえてはいるが、いかんせん魔族の数が多すぎる。先程のヴァコル様の魔法で少し数は減ったものの、まるで関係ないと言わんばかりに攻めてきていますね」
「そうですか。まったく、ラースのやつときましたら……」
「アリエス様?」
ギリッと歯を食いしばってつぶやくアリエスに、伯爵はつい驚かされてしまう。
その反応に気が付いたのか、アリエスはいつものように笑顔に戻る。
「なんでもありませんよ」
ごまかそうとするアリエスだったが、ここでヴァコルが口を挟んできた。
「アリエス様、こいつらは何ですか。なぜ魔族をここに連れてきたんです」
「ああ、彼らもあの魔族たちの被害者ですよ。ゼラブ国へと攻めてきた魔族たちによって追い立てられていた力の弱い魔族です。大丈夫ですよ、このままにしておいても。私には分かりますから」
「お姉ちゃん……」
自分たちを気遣ってくれるアリエスに、魔族の少女はほっとした笑顔を見せている。
「大丈夫ですよ。二人はペガサスと一緒にカプリナ様のところにいて下さい。そこなら安全のはずですからね」
「わ、分かった。一応言っておくが、俺たちはあいつらの仲間じゃないからな」
「分かっていますよ」
アリエスは兄妹に笑顔を向けると、立ち上がって戦場へと目を向ける。
そこにはこちらに迫りくる魔族たちの姿が見えている。このままではみんなが危ないのは目に見えている。
「一か八か、突っ込んでいきますか」
「アリエス様、本気ですか?!」
アリエスの放ったひと言に、ゾディアーク伯爵の目は大きく開いてしまう。
「危険ですよ、アリエス様。相手は暴力的な魔族たちです。護衛もなしに突っ込んでいかれるなんて、自殺行為もいいところですよ」
「ですが、私は聖女としてやらねばならないのです。みなさまを守ること、それが聖女としての務めなのですから」
アリエスの表情は本気のようだった。これにはさすがのゾディアーク伯爵も気圧されてしまう。
(これが、まだ十一歳の少女だというのか? 聖女とは一体……)
とはいえ、これ以上も悩んではいられなかった。
だが、ゾディアーク伯爵が答えを出すよりも、ヴァコルの方が先に動いていた。
「ならばボクが一緒に行けばいいでしょう。聖女様の魔法があれば攻撃はほぼ受けないでしょうし、攻撃はボクが担当すれば大体の魔族は蹴散らせるでしょう」
「分かった。ヴァコル様、アリエス様をお守りください」
「言われなくても」
こうして、魔族たちの侵攻に反撃するために、アリエスとヴァコルの二人で敵陣に突っ込んでいくことになった。
二人はお互いの顔を見てこくりと頷くと、そろって走り始めていた。
「シールド!」
「雑魚を蹴散らせ! レインスピア!」
防御をアリエスが担当し、そのまま体当たりしながら雑魚を蹴散らし、そこにヴァコルの魔法が降り注いで追撃を食らわせていた。
「悪しき力の導きを、今無に帰さん。ディスペル!」
「燃え尽きろ、ファイアーボール!」
サンカサスの聖女と王宮魔術師の二人だけで、並み居る魔族たちを次々と蹴散らしていく。
アリエスの魔法で洗脳と強化の魔法が解除され、戸惑っているところにヴァコルの魔法が落ちてくる。これではほとんどの魔族が対処できずに次々と倒れていっている。
伯爵の私兵と傭兵たちが苦戦している魔族たちが、次々とあっさりと倒されていく様子を眺めていて、ゾディアーク伯爵はなんとも笑えない表情で立ち尽くしていた。
「まったく、とんでもない若者たちだよ……」
ゾディアーク伯爵は、アリエスとヴァコルの戦いを見ながら、改めて兵士たちに号令を出す。
「聖女様たちにばかり負担はかけられぬぞ。我らも魔族を倒して、少しでも負担を軽くするのだ!」
「おおーーっ!」
伯爵の号令に、兵士たちは声を上げて答えると、最前線の魔族たちへと全力で反撃に出たのだった。
その頃、アリエスとヴァコルはどんどん遠くへと進んでいっている。
「おかしいですね」
「何がですかね、聖女様」
「先程から、敵が減ってきています。いえ、むしろ誘い込まれているように思われますね」
「確かに、そんな感じがしますね」
ヴァコルはアリエスの言葉にふと思い返していた。
そう、確かにとちゅから敵の数が一気に減ったのだ。まるで誘導されるような不思議な感覚である。
「うけけけっ、今頃気が付いたか!」
二人の上に、突如として大きな影が落ちる。
「危ない!」
アリエスが声の前に気が付いただけあって、不意打ちはどうやら避けることができたようだ。
だが、不意の攻撃は地面をたたき割り、その破片が二人に襲い掛かる。それでも、アリエスの防御魔法のおかげで二人はまったくの無傷で済んだ。
「ふん、こざかしい人間ごときが、俺様の攻撃を避けるとはな。だが、そのくらいでないと楽しめねえってもんだ。なあ?」
「ラース……。やはりお前でしたか、魔王軍を率いて魔王を名乗るふざけた方は……」
「うん? なぜ俺様を知っている」
アリエスの言葉に、ラースは少し表情を歪めている。だが、首筋をかいたかと思うとギロリとアリエスたちを睨み付ける。
「まあいいか。どうせ死にゆく連中だ。俺様の力の前に恐怖しろ、泣きわめけ、命乞いをしろ! ここがお前らの墓場となるのだ!」
ラースの大きな咆哮がその場に響き渡る。
魔王対元魔王の戦いが、幕を開けたのである。




