第110話 舞い戻る元魔王
ゾディアーク伯爵の軍勢と魔王軍が交戦を続けている。
数では圧倒しているはずなのだが、思った以上に人間側が持ちこたえており、巨大な魔族は少々いらつきを見せているようだ。
「おいっ、どうなっている。なぜやつらは崩れんのだ」
「はっ! どうやら神官たちの力によって、我々の力が抑えられてしまっているようなのです」
「ふんっ、神官などひ弱な連中だろう。ちょっとでも何かを投げ込んでやれば総崩れするのではないのか?」
部下の報告に、巨大な魔族は指摘を入れている。
「そ、そうではございますが、どうやら向こうに裏切り者の魔族が紛れているようでして……」
「裏切り者だぁ?」
巨大な魔族は、じっと前方の方を見つめている。
その視界に、二股の槍を振りかざして戦うサハーと、ピスケースと一対一の戦いを繰り広げるライラの姿が入る。
「くそっ。どっちも聖女をぶっ殺すべく差し向けた連中ではないか。なぜそいつらが人間側について俺様たちの邪魔をしている」
「分かりませんが、あの者たちは神官どもの力の影響を受けて、なぜか能力が高まっているようです」
「わけが分からんな。俺様たちと同じ魔族のくせに」
巨大な魔族は、手元にあった何かをぐびっと口に含むと、急に立ち上がる。
「気に食わんなぁ。人間どもが俺様たちに楯突くのも、裏切り者どもがピンピンとしていることも」
「ま、魔王様、どちらに?」
「総員、攻撃を仕掛ける。この数の魔族相手であれば、神官どもの援護などないに等しい。抗うならば、圧倒的な力でねじ伏せてやるまでだ」
「はっ、承知致しました!」
人間側の抵抗に、ついにしびれを切らしたようだ。
魔王と呼ばれる巨大な魔族は、いよいよ総力をぶつけるようにしたようである。
「さあいけっ、俺様の軍勢よ! 俺様たちに楯突く生意気な連中に、力の差というものをはっきりと見せつけてやれ!」
「おおーーっ!!」
巨大な魔族が号令を下すと、巨大な魔族と一緒に後方で待機していた魔族たちも一気に動き出す。
一千以上にも上る魔族の軍勢が動き出すと、その移動は大きな地鳴りとなって辺りに響き渡った。
―――
一方の人間サイドは、騎士と兵士と傭兵たちが一丸となって、魔族たちを食い止めている。
神官たちの魔法で自分たちにバフが、相手にデバフがかかっているとはいえ、さすがにその戦力差は埋めきれない。
カプリナたち一部の攻撃魔法が使える面々のサポートがあって、ようやく魔族を押し返せているというのが現状だった。
「なんとも厳しいな。私も打って出たいものだが、指揮官として後方で見守らなければならない。なんとももどかしい限りだな」
ゾディアーク伯爵の表情は険しいものだった。
近くで魔法を使い続ける司教たちの表情も、なんともいえないくらいに厳しそうだった。
「ぐぬぬぬ……。魔族というものの力が、これほどまでに強大とはな……」
「司教殿。我々はここでなんとしても耐えなければなりません。ここを突破されては、サンカサス王国に大きな被害が及びます」
「分かっておるとも。だが、私も年だ。いつまで耐えきれるか……」
司教はかなり苦しそうだった。そのくらい全力で魔法を使っているということだろう。
ところが、そこに思わぬ報告が入る。
「伯爵様、大変でございます!」
「どうした!」
一人の騎士が大慌てで伯爵のところへとやってきた。
「魔族たちの本体と思しき集団が、こちらに押し寄せてきております。かなりの数に上っており、中にはとんでもない巨大な魔族も含まれております」
「なんだと?!」
騎士の報告に、伯爵の表情が青ざめてしまう。
このままでは、ゾディアーク伯爵領を突破されてしまう。伯爵が絶望に染まりそうになった時、どこからともなく声が響く。
「ファイアーボール!」
火炎球がどこからともなく降り注ぐ。
「ぐぎゃああっ!!」
最前線で交戦する魔族たちが一気に燃え上がっている。
「ふん。魔力の揺れを感じたのでやって来てみれば、魔族たちがやってきていたのですか」
「ヴァコル様。どうしてこちらへ!」
「今言ったでしょう。魔力の揺れを感じたので、文字通り飛んできたまでです」
ふわっと空中から登場し、地面に家令に着陸する。
「聖女様は、不在ですか?」
「はい。ゼラブ国の方で魔族の軍勢が迫っているという情報を聞き、そちらに向かったようです」
「なるほど、情報をつかまされて移動したところに、こうやって本隊を叩き込んできたというわけですか。魔族の割に頭が働いていますね」
ヴァコルは感心したように話をしている。だが、そんな悠長なことをしている場合ではない。
魔族の大群が押し寄せてきている。このままでは守勢が崩されかねないのだ。
「フレイムランス!」
大量に押し寄せる魔族に向けて、ヴァコルが魔法を放つ。さすが王宮魔術師というか、魔法の規模はかなりでかい。
だが、突風が吹いたかと思うと、魔法がかき消されそうになっている。
「バカな。このボクの魔法が打ち消されるというのか?」
ヴァコルが驚いていると、どういうわけか消されそうになった魔法が復活し、魔族たちに襲い掛かる。
増幅された威力に、魔族は次々と焼かれて行っている。
何が起きたのかと、ヴァコルたちは唖然とその様子を見ている。
「遅くなって申し訳ありません!」
空から声が聞こえる。
「サンカサスの聖女アリエス、ただいま帰還しました」
なんと、ゼラブ国に向かっていたはずのアリエスが舞い戻ってきていたのだ。




