第109話 苦戦を強いられる元魔王の仲間
「やはり、出てきましたか、ピスケース!」
「裏切り者は、死ぬのですよ!」
ピスケースが降りてくるライラ目がけて攻撃を仕掛ける。
ひゅるんと何かが飛び出し、うねるようにライラへと襲い掛かってくる。
「あなたの武器は鞭でしたか。初めて見るので分かりませんでしたね!」
だが、ライラはまったく動じることはない。
鞭のいなし方もライラは心得ているからだ。諜報に携わる者として、様々な場面を想定した訓練を積んできているのだ。その中にはもちろん、鞭のような変則的な攻撃をする武器だって入っている。
こちらが空中なので、下手につかまるわけにはいかない。ライラは槍を氷で覆う。
「何を小細工をしているのですか!」
ピスケースはライラの槍をつかまえる。そして、地上に引き落とそうと一気に引っ張る。
「今だわ!」
ライラは槍にまとわせた氷を一気に蒸発させる。
「なに!?」
氷が消えたことで、槍は一時的に鞭から解き放たれる。その一瞬で槍を引き抜く。
槍を引っ張ろうと一気に動いたピスケースは、体勢を崩してしまう。
その間にライラが着地をしてピスケースに迫る。
「はあああっ!」
ところが、ピスケースだって簡単にやられはしない。
ピスケースに放たれたライラの槍は、ピスケースの体の前で止まってしまっていた。
「魔力障壁ですか。さすがはパイシズ様のご子息ですね」
完全に防がれてしまい、ライラは一度距離を取る。
ピスケースが追撃をかけてくるかと思ったが、どういうわけか動かなかった。
「くくくっ、実に面白いことをしてくれる。こうでなくては楽しめませんね」
ピスケースの様子がどうもおかしい。首を右に傾けたまま不気味に笑っている。
「父上譲りの力、とくと見せてあげましょう。あなたたちを殺せば、私は父上に代わり、魔法軍の参謀となるのです」
「何を言っているのですか、ピスケース!」
「ふふふっ。あなたは父上と同じように惨めに死ねばいいのですよ!」
「なんですって?!」
ピスケースの言い放った言葉に、ライラは槍を力強く握りしめている。
「パイシズ様が、お前たちなどに殺されるわけがありません。何か卑怯なことをされましたね?」
「ふん、なんとでも言うといいでしょう。その時の状況など、死んでからでも聞けるでしょうからね!」
「ピスケース……ッ!」
歯をギリッと食いしばるライラは、ピスケースに対して怒りを爆発させていた。
魔王軍の諜報部の二人による激しい戦いが始まろうとしていた。
その頃、他の場所では魔族とゾディアーク伯爵の軍勢が戦いを繰り広げている。
教会の司教や神官たち、それとカプリナの手によって状況は有利になってはいるものの、なにぶん魔族は数が多い。純粋な力と数の差の前に、補助魔法をかけてもその差は埋めきれずにいた。
「うわぁっ!」
「ぐはっ!」
兵士や傭兵たちが、魔族たちの攻撃で派手に吹き飛んでいく。
神官たちの魔法のおかげで死ぬのは避けられているが、全身を強く打ちつけられて一時的に行動ができなくなっている。
すぐにケガ人に対して回復魔法がかけられるが、そんなに人員を割けない。このままではじり貧となるのは間違いなかった。
「くっそう……、魔族の数が多すぎる」
「それだけじゃねえ。いつもなら楽勝な魔族どもも、軒並み強化されてやがる。一体どうしてこんなことになってるんだ」
傭兵たちの間にも動揺は広がっている。
「スラリー、これってどういうことなの?」
「すらりー、わからない。でも、にごったまりょく、かんじる。へんなまぞく、いちばんおく。きっと、そいつ、げんいん」
「一番奥にいる魔族?」
スラリーの返答を聞いて、カプリナは奥の方を見る。だが、遠すぎてよく見えないようだ。
「すらりー、しってる。ありえすさま、まおうじだいの、てした。ありえすさま、なやんでいた」
「えっと、アリエス様? 魔王? 一体どういうことなんです?」
カプリナは、スラリーの言葉が引っかかってしまう。
「かぷりな、あぶない!」
その時だった。魔族との交戦で弾かれた武器が、カプリナ目がけて飛んできたのだ。
「きゃっ!」
カプリナは思わず身構えてしまう。
だが、マントに化けていたスラリーが、身を挺してカプリナを守っている。
「すらりー、いる。かぷりな、まほう、しゅうちゅう」
「う、うん。そうよね、アリエス様がいない今、聖騎士である私が頑張らなきゃ……!」
スラリーの言葉で、カプリナは奮い立つ。
しかし、まだまだ未熟な腕であるカプリナは、自分の力でどこまで耐えられるのか正直不安で仕方がない。それでも、アリエスが戻ってくるまでは、自分が頑張るしかないと魔法に集中する。
(お願いです。神様、アリエス様、私たちに力を!)
カプリナが祈りを捧げると、ぱあっと光が辺りに広がっていく。
「力がみなぎってくるぞ」
「よし、このまま魔族たちを押し返すのだ」
数を前に押し込められていたゾディアーク伯爵の軍勢が、息を吹き返したように魔族を少しずつ押し返し始める。
だが、まだまだ勢力差は明らかだ。しかも、巨大な魔族の周囲の魔族がまだ動いていない。
(早く……、早く戻ってきて下さい、アリエス様!)
魔族を相手にどこまで持ちこたえられるのか。先の見えない戦いはまだまだ始まったばかりなのだ。




