第108話 戦う元魔王の部下
ずらりとゾディアーク伯爵領の領都の外に、魔族たちの軍勢が並んでいる。
「ふむ、どうやら俺様たちに歯向かう気のようだな。まあいい。すべてを蹂躙すればいいだけのことよ」
一番奥で座る魔族は、にやりと汚い笑顔を見せている。
魔族たちをひと通り見渡した後、右手に持つ斧を振り下ろし地面に叩きつける。
「よし、お前ら! 人間どもを血祭りにあげろ! 手始めにこのサンカサスというちんけな国を蹂躙してしまえ!」
「おおーーっ!」
巨大な魔族の号令がかかると、魔族たちが一斉に進軍を始める。
その数は数百どころか数千という規模だ。まともに相手をして勝てるような相手ではない。なにせゾディアーク伯爵領側は百人いるかどうかという少数規模なのだから。
「来たぞ! 聖女様がお戻りになられるまでなんとしても耐えるのだ」
「はっ、この命に代えましても!」
ゾディアーク伯爵の私兵や街に滞在している傭兵たちが、伯爵の声に魔族を迎え撃つ。
「さあ、司教様たちもよろしくお願いします」
「任せておけ!」
儀式などでしか持ち出さない珍しい錫杖を持って、司祭は神聖力を行使する。
「我らが神よ。悪しきものに立ち向かう者たちにその加護を宿らせたまえ!」
教会に住む神官たちが総出で祈りを捧げる。
辺りには光が満ち溢れ、私兵や傭兵たちに力を与えていく。
「不思議ですね。魔族である私たちにも力があふれてくる」
「アリエス様に認められてますからな、私たちは。ライラ様、奴らに一泡吹かせてやりましょうよ」
「ええ、そうですね。この私をいいように扱った罪、命で償ってもらいましょう」
ライラはそう言うと、カプリナの方へと振り返る。
「カプリナ様はまだ幼い。後ろに控えて皆の援護を頼みます」
「はい、分かりました」
「スラリー、頼みますよ」
「まかせて」
話をし終えると、ライラとサハーは魔族たちに向けて飛びこんでいく。
「おらおら、元同僚とはいいましても、手加減はしませんぞ!」
サハーの右手には、フィシェギル特有の武器である二股の槍が握られている。
ある程度魔王軍に近付いたかと思うと、力を込めて槍を引いている。
「さあ、ぶっ飛ぶといいですよ! アクアスパイラル!」
力強く突き出すと、二股に分かれた槍の先端から二本の水流が噴き出し、それがらせんを描いて魔族たちに飛び込んでいく。
そう、二股に分かれている理由は、このフィシェギルの特技を使うためなのだ。
「ギエエエッ!!」
「グオオオンッ!」
手前の方にいた弱い魔族は、水流に巻き込まれて吹き飛ばされていく。
地面に落ちたかと思えば、後続の魔族たちに遠慮なく踏み潰されていた。
「げっ、あいつら仲間意識とかなんにもないんですかね」
「よく見なさい、サハー。あの者たちの目を」
「目?」
ライラの指摘で魔族の一部の目を見ると、その範囲にいる全員が不気味なほど真っ白になっているのである。普通ならあるはずの瞳が、消え失せているのだ。
「洗脳状態にあるということですね。となれば、操られているだけの可能性があります」
「まったく、面倒ですね、これは……!」
操られているだけならば、殺すわけにはいかないだろう。魔族が死ねば、それだけアリエスが悲しむことになる。サハーはそんなことを思った。
だが、ライラは違っていたようだ。
「遠慮はいりませんよ、サハー。これは戦いなのです。アリエス様には申し訳ないですが、ある程度の犠牲は我慢して頂くほかないです。やらなければ、こちらがやられますからね」
「……確かにそうだな。でも、つらいもんですよ」
「私もですよ」
サハーとライラは、目を伏せてこくりと頷き合う。
「お二人とも危ない。ホーリースピアーッ!」
その一瞬の隙を突いて、別の魔族が襲い掛かってきた。ところが、後方で構えていたカプリナが魔法を放ち、どうにか危機を回避できたようである。
「よそ見はダメですよーっ!」
「ああ、悪いですね。助かりましたよ!」
目の前には光の槍に貫かれた魔物がじたばたとしている。
「お前は自分の意思で来たやつですな。ならば、死んでくれ」
サハーの槍が、地面に倒れた魔物を確実に仕留めていた。
無表情で槍を引き抜くと、サハーは遅いくる魔族たちを次々と撃退していっている。
「悪いね。お前たちみたいな安っぽい気持ちで私はこちら側にいないんですよ。あの方に命を捧げる覚悟ができているんです。さあ、本気でかかってきなさい!」
サハーが叫ぶと、全身に水をまとい始める。
「ふっ、それはあなたの本気というわけですね、サハー。ならば!」
サハーの姿を見たライラも、持っている槍をくるくる回し、魔力を込め始める。
「私も久しぶりに本気で暴れさせてもらうことにしましょう。あの方にあだなす魔族は、意思があろうとなかろうと斬り捨てるまでです!」
次の瞬間、ライラの姿が消える。そうかと思えば上空から無数の黒い筋が地面に降り注いだ。
「ブラッディアイシクルレイン!」
上空から繰り出された無数の突きにより、攻撃を食らった魔族たちは血を吹き出しながら地面へと倒れていく。
着地を決めようとするライラだったが、そこに誰かが飛び込んできた。
「ふっ、やはり出てきましたか」
その姿を見たライラは不敵に笑みを浮かべる。
「さあ、その目を覚ますのです、ピスケース!」
そう。自分の上司であるパイシズの息子、ピスケースが待ち受けていたのだ。




