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魔王聖女  作者: 未羊


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第106話 緊張高まる元魔王の住む街

 キャサリーンは逃げた魔族たちを追いかけている。

 ところが、思った以上に足が速いのか見失ってしまっていた。


「ちっ、仕方ありませんね。これ以上の深追いは、単独行動では避けた方が賢明でしょう」


 予想していた以上に奥に入り込んでしまったがために、キャサリーンは引き返すことにしたようだ。

 いくら最強の名をいただく聖女とはいえど、無理は禁物なのである。

 それにしても、舌打ちとは聖女とは思えない行動を見せてくれたものである。

 やれやれといった表情でキャサリーンは来た道を引き返していく。


(どうせ逃げた魔族たちは大したことはありません。放っておいても問題はないでしょう。ですが、今の問題は……)


 キャサリーンはテレグロス王国へと引き返しながら、とある方向へと視線を向けている。

 それは、アリエスが戻っていったサンカサス王国の方角だった。


(あの魔族が言っていたことは気になりますが、あの子ならなんとか大丈夫な気がします。頑張って下さいね、アリエス様)


 同じ聖女として、キャサリーンはアリエスの身を案じているようだった。

 あっという間に、キャサリーンは魔族の領域を脱出して、テレグロス王国へと戻っていったのだった。


 ―――


 一方のアリエスは、ペガサスにかなり無理を強いているようだった。

 それというのも、魔族がサンカサス王国に向けて進軍をしているという話を聞いたからだ。

 もちろん、無茶をさせている分、しっかりと回復をしながらの移動である。

 一緒に乗っている魔族の兄妹はかなり怖く感じているらしく、ペガサスにがっちりと捕まっていた。


「こ、怖いよぅ……」


「無茶苦茶だよ、あんた」


「もうちょっと我慢していて下さい。あと少しでサンカサス王国のゾディアーク伯爵領に到着しますから」


 がっちりとガードをしながら、アリエスはとにかく伯爵領を目指して飛んでいく。

 狙いが自分の絶望であるのなら、奴らの侵攻先は間違いなくゾディアーク伯爵領。確信を持って、アリエスはペガサスを駆り続けていた。


 ―――


 その頃のゾディアーク伯爵領の領都では大騒ぎだった。

 アリエスが出かけていった翌日の夕方に入った一報が原因だ。

 依頼をこなしに出かけていた傭兵たちからもたらされた、魔族の軍勢が近付きつつあるという報告のせいである。

 聖騎士であるカプリナもこの戦いには駆り出されることになっており、かなり不安を抱えているようだ。


「わ、私、戦えるでしょうか」


「かぷりな、だいじょうぶ。すらりー、いる。たたかえない、なら、まほうで、えんご」


 怯えた様子を見せるカプリナに、スラリーが声をかけている。

 スラリーも後方支援型の魔物なので、戦えない時の心得は持っているようなのだ。


「そうですよ、カプリナ様。無理に戦う必要はないんです。それこそ、私やライラに任せておけばいいんです」


「ら、ライラ? どなたですか、それは」


 聞いたことのない名前に、カプリナが思わず尋ねてしまう。


「いい加減にして下さい、サハー。私はこの街ではララの名で通ってるんです。本名を呼ばないで下さい」


「おや、そうでしたか。悪かったですね」


 ライラがサハーを叱っている。


「カプリナ様、細かいことは後で説明しますが、戦いでは私たちの後ろで補助魔法をお願いします。私も本来は後方支援ですが、傭兵として振る舞っている以上は、前線で戦いますので」


「ララさん、大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ。それに、あいつらに負けるわけにはいかないんです」


「あいつら……?」


 ライラの語った言葉に、カプリナは首を傾げている。

 だが、そう悠長に語っていられる状況ではなくなったようだった。


「来たな、魔族どもが」


 目の前には、魔族の軍勢が迫ってきていた。

 ゴブリンにオーク、オーガといった人型の魔物から、獣型、鳥型などなど、それは様々な魔物の姿が見える。

 ゾディアーク伯爵は王都へと支援の要請を出したが、辺境にあるゾディアーク伯爵領に増援がたどり着くことはとてもではないが期待できない。最悪の場合の、魔族の侵攻を食い止めることが精一杯だろう。

 それでも、ゾディアーク伯爵には意地というものがある。

 聖女の住む街の領主として、聖女不在ではあっても、魔族たちに蹂躙されるわけにはいかないのだ。ましてや、自分の娘も聖騎士という立場にある。そう、負けられない理由があるのだ。


「サンカサス王国の一員として、この戦いには負けられぬ。必ずや、ここで奴らの侵攻を食い止めてみせようぞ!」


「おおーっ!」


 ゾディアーク伯爵が呼び掛けると、伯爵の私兵たちが気合いの入った返事をしている。

 そこに混じるようにして、教会の司祭や牧師たちの姿もある。


「ゾディアーク卿、我らが支援しますゆえ、どうかご安心下さい」


「ありがたい」


 司祭の言葉に、伯爵は小さく頷いてお礼を言う。


「我らには神の加護がある。悪しき力におぼれた奴らになど後れは取らぬ。我らの力を見せつけてやろうぞ!」


「おおーっ!!」


 ゾディアーク伯爵の私兵たちの士気は高い。

 そこに、この伯爵領を拠点とする傭兵たちも加わる。それでも、魔族たちに比べれば数は明らかに劣っている。

 それでも、聖女の住む土地を拠点としているだけあってか、やる気は十分である。逃げ出すような弱腰の者は一人もいなかった。

 じわじわと迫りくる魔族たちとの間の緊張は高まりつつある。


 ……戦いの時は、着実に近付いていた。

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