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魔王聖女  作者: 未羊


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105/175

第105話 すぐに引き返す元魔王

「俺の目的は達したのだ。絶望しろ、この神の犬どもめ!」


 ターレスはそう言い捨てると、血を吐いて果てる。肝心のところを言わずに死ぬあたりが、実に魔族っぽい最期だった。

 ところが、キャサリーンは死んだターレスを思い切り踏みつけていた。


「バカな魔族ですね。この私がそれを見抜けぬとでも?」


 息絶えたターレスに思い切り吐き捨てている。


「まったく、満足そうに果てるとは、気分が悪いですね」


 キャサリーンはそう言うと、魔法を使ってターレスを一瞬で焼き払っていた。

 始末を終えると、くるりとアリエスへと振り向く。


「さあ、さっさとサンカサスへと戻りなさい。あいつの目的は、サンカサスを滅ぼすことです。あなたのことを最年少ということで甘く見ているのでしょう」


「は、はいっ!」


 アリエスは大きな声で返事をすると、ペガサスに乗り込もうとする。

 ところが、そこでぴたりと立ち止まってしまう。


「あなたたちも来られますか?」


 くるりと振り返ったかと思うと、なんと魔族の兄妹に声をかけたのだ。


「お、俺たちは……」


 兄の方は妹にちらりと目を向けている。


「あんたについていく。妹の身を守れるのだったら、相手が聖女でも構わない」


「そうですか。それでは一緒にペガサスに乗り込みましょう」


 アリエスは二人のおしりを押してペガサスに乗せている。

 その様子を見ていたキャサリーンが呆れている。


「まったく、お人好しな聖女ですね、アリエス様は」


「はい、これが私ですからね。キャサリーン様こそ、よくこの子たちを見逃して下さいましたね」


「私もそこまで冷酷ではありませんよ。明らかな敵対意思を持った魔族はねじ伏せますが、その子たちはなんとなく違う気がしましたからね。それに」


「それに?」


「テレグロス王からは何も言われていないですからね。今回は私の意思で来ておりますから、不要な殺生は好みません」


「そうですか」


 キャサリーンの言い分に、アリエスはつい笑顔を見せてしまう。


「さあ、早くサンカサス王国に戻りなさい。聖騎士とあの魔族たちがいるとはいえ、おそらくは魔王軍の正規軍が大勢押しかけているはずです。いつまで持ちこたえられるか、分かりませんからね」


「はい、ありがとうございます」


 アリエスは素直にお礼を言う。


「私はもう少しこの辺りを探して、残党をすべて倒しておきます。二度とバカな考えを起こせないように、徹底的にですね」


 キャサリーンがものすごい笑顔で言い放つものだから、魔族の兄妹が震え上がっていた。その後ろに乗るアリエスは、つい苦笑いを浮かべてしまう。

 アリエスは兄妹をよしよしとなだめながら、キャサリーンへと顔を向ける。


「それでは、ここのことはお願いします。キャサリーン様のことですから大丈夫だとは思いますが、ご無事をお祈りしております」


「ありがとうございます。さあ、早くお行きなさい!」


「はい!」


 アリエスはペガサスにサンカサスへと向かうようにお願いをする。

 ペガサスはいななくと、翼をはためかせて空へと舞い上がる。

 地上ではキャサリーンがその姿をしっかりと見上げている。


「聖獣ペガサスを駆る聖女ですか。古い伝説をこの目で見ることになりますとはね」


 アリエスの乗ったペガサスを見送りながら、キャサリーンは呟いている。

 姿が見えなくなると、キャサリーンはひとつ深呼吸をすると、魔族の領域をしっかりと見据える。


「さあて、私は罠なんて姑息な真似をしてくれた愚かな魔族たちを懲らしめてやりますか。さすがの私でも、サンカサスまでは遠いですからね」


 キャサリーンの手がボキボキと音を立てている。かなり熱が入っているようである。

 なにせ、十三年前の魔王討伐以来の大規模な対魔族戦線なのだから。気合いの入り方が違うというものだ。


「さあ、待っていなさい、逃げた魔族たち。一人残らず、神様の鉄槌を下して差し上げましょう」


 不気味に笑うと、キャサリーンは魔族たちの領域へと逃げた魔族たちを追いかけ始めたのだった。


 ―――


 それと同時刻、アリエスを乗せたペガサスは一路サンカサス王国を目指して飛んでいる。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「このくらい平気ですよ。なんといっても私は聖女ですからね」


「無理しないでくれ。ただでさえ俺たちを乗せているんだ。この馬の状態を見ながら魔法まで使って……。もしものことがあったらどうするんだ」


 魔族の兄妹がアリエスのことを心配しているようである。

 それもそうだろう。まだ子どもで軽いとはいえ、三人も乗せて飛んでいるペガサスの回復と、自分たちが落ちないようにつなぎ止める魔法を同時に展開しているのだから。

 自分たちと年齢の近い聖女なために、いくら魔族とはいっても心配になってしまうようなのだ。


「聖女というものは、みんなの幸せのために力を使う存在なのですよ。ですから、私の心配など要りません。さあ、サンカサス王国へ急ぎますよ」


「あんまり、無茶をしないでくれよ」


「お姉ちゃん……」


 アリエスにいくら言われようとも、兄妹の不安はまったく解消しそうになかった。そのくらい、アリエスが無茶をしているということを感じ取っているのである。

 しかし、幼い魔族の兄妹にはどうすることもできない。アリエスを助けることもできないし、逆にアリエスを殺すことだってできない。アリエスの支えをなくしては、自分たちもこの高さから落ちて死ぬのが目に見えている。幼いがゆえに、そこまで覚悟ができないのだ。

 ならば、自分たちの恩人であるアリエスの無事を、ただ祈るだけとなる。

 魔族が聖女のために無事を祈るなど、なんともこっけいな話ではあるが、アリエスという存在はそうせざるを得ない何かを感じさせているのだ。


 ゼラブ国へと向かったアリエスは、とんぼ返りでサンカサス王国へと戻る。

 魔族の軍勢の本隊の襲撃に間に合うのか。アリエスは、祈る気持ちでペガサスを駆り続けた。

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