第104話 魔族を簡単にあしらう元魔王
徐々に闇の牢獄が狭まっていき、魔族の兄妹が震えている。だが、アリエスの表情にはまったく変化がない。
「魔王ですか。あんな奴が魔王とは、魔王軍ももう長くはないでしょうね」
アリエスは笑顔で言い放つ。
あまりにも明るい表情だったがために、ターレスはかなり激昂しているようだ。
「最年少の聖女ごときが、なにを余裕ぶっておるというのだ。さあ、とっとと潰れてしまえ!」
かなり牢獄が狭まってきているものの、アリエスは余裕を崩さない。その姿があまりにも余裕がありすぎて、ターレスは逆に余裕を失っている。
そのためか、狭まるスピードが速くなっていっている。
「はあっ!」
アリエスは気合い一発魔法を使うと、ターレスが速めた牢獄の狭まりをあっという間に防いでしまう。
「なんだと?!」
「まったく、この程度の魔法でよくそんな余裕が持っていられますね。この程度の牢獄なら、キャサリーン様でも余裕でしょうね。あの方、かなり強引ですけれど」
にこにこと笑いながら、牢獄の狭まりを完全に止めてしまっている。
「こういうのを何といいましたでしょうかね。策士、策に溺れるでしたっけかね」
笑顔で言い放つと、一気に魔力を解放するアリエス。その魔力は、ターレスの放った闇の牢獄を一瞬で打ち破ってしまっていた。
「ば、バカな! この俺の監獄が、こんな、簡単に……!」
どうやらターレスは絶対的な自信を持っていたようで、牢獄を破られたことに完全にたじろいでしまっていた。
だが、牢獄を打ち破ったとしても、このあとが続かない。アリエスには攻撃の手段がないからだ。
「さて、どうしましょうかね。私には残念ながら、攻撃の魔法がありません。すべて回復魔法に変わってしまいますからね」
アリエスが呟くと、ターレスは徐々に余裕を取り戻してくる。
「ふははっ、攻撃手段を持たぬとは、なんともお笑いだな。そんなやつが、この数の魔族を相手にできるとでも思っているのか?」
「ええ。ですが、誰も私が相手をするとは言っておりませんでしょう?」
「なんだと?!」
アリエスがほほ笑んだその瞬間、何かが頭上から飛び降りてきた。
ズドンという重い音が響いたかともうと、アリエスの前に意外な人物が現れたのだ。
「魔族の気配を感じ取ってやって来てみましたが、なるほど、これは倒しがいのある数のようですね」
「はい、キャサリーン様。やって来られるとは思っておりましたよ。ここはテレグロス王国からもかなり近いですからね」
「なっ、きゃ、キャサリーンだとぉっ?!」
そこに現れたのはテレグロス王国の最強聖女であるキャサリーンだった。
予想外の人物の出現に、ターレスは完全に怖気づいてしまっている。最大の魔法である闇の牢獄はアリエスによって破られてしまっている。攻撃手段を封じられてしまっては、ターレスたちにキャサリーンへの対抗手段はないに等しいのである。
「くそっ! 何が最強聖女だ。相手はたった二人だ。それにガキどもの足手まといもいる。総員でかかれば恐るるに足らぬ、やってしまえ!」
ターレスの声に、武功を立てたい魔族たちが一斉にアリエスとキャサリーンに襲い掛かる。
「魔族とはいえ、子ども。私はそいつらには手を出しません。あっちにいる馬のところで、私の戦いを見ておきなさい」
「はい、キャサリーン様。さあ、私と一緒にペガサスのところで見ていましょう」
「う、うん」
さすがに子どもとはいっても魔族。キャサリーンから放たれる神聖力を感じ取り、体を震わせながらも素直にアリエスの言葉を聞いていた。
アリエスはペガサスのところまでやってくると、周囲に防御魔法を展開する。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なんですか?」
「あの人、大丈夫かな?」
「ええ、キャサリーン様なら大丈夫ですよ。なにせ、前の魔王を打ち倒されたような方なのですから。ターレスなど苦にもなりません」
魔族の少女の質問に、アリエスは優しい声で答えている。
「なんだかあんたは、聖女なのに安心できる。一体何者なんだ?」
「ふふっ、私はサンカサス王国の聖女アリエスですよ。ただ、ちょっと魔族たちにも手を差し伸べたくなる、変わった聖女なだけです」
「そっか。妹がそれだけ懐いているなら、あんたは信用してもいいんだろうな」
「ええ。ですから、今は落ち着いてキャサリーン様の戦いを見守りましょう」
アリエスがこう語りかけると、魔族の兄妹はこくりと頷いていた。
その目の前では、キャサリーン無双が展開されていた。ターレス以外の魔族は、キャサリーンの一挙動が行われるたびに、無残にも吹き飛ばされていく。
さすがはスライムやスライムテイマーを一瞬で葬り去っただけのことはあるというもの。アリエスの前世である魔王を倒してからかれこれ十三年が経っているが、その力は健在などころか更なる高みにいたっていた。
(さすがはキャサリーンだな。もう年齢は三十くらいだろうに、さらに力が洗練されている。俺も見習わなければな。とはいえ、俺はどうしても攻撃魔法が使えんのだが……)
アリエスは複雑な表情でキャサリーンのことを見つめている。
あれよあれよという間にすべての魔族が吹き飛ばされ、残っているのはターレスだけとなる。
「さあ、もう残すはお前だけですね。何か、言い残すことはありませんか?」
キャサリーンがターレスに告げると、ターレスはもはやこれまでと思ったのか、笑みを浮かべてキャサリーンを睨み付ける。
「ふははははっ、俺の役目は果たした。残念だったな!」
ターレスが口走ったことに、アリエスもキャサリーンも思わず顔をしかめてしまうのだった。
一体、ターレスたちは何を企んでいるのだろうか。その一言で、場の空気が一変してしまうのだった。




