第2章:チュートリアルフラグと殺意のニワトリ
カズキは翌朝、耳元でニワトリが絶叫する音で目を覚ました。
「ブワァアアアアアッ!!」
飛び起きてジタバタした彼は、羽毛まみれの侵入者を反射的に手で叩いた。ニワトリは胸の上から転げ落ち、プンプンしながらつかつかと歩き去る。その頭上には、空中に浮かぶネームプレートがあった。
> 【ボス:羽の暴君クラックジラ(チュートリアル変異体)】
カズキは瞬きをした。「えっ、ボスって何?!」
直後、まるで煽ってくるスタンプのように通知が表示された。
> チュートリアル開始
【初戦闘イベント:クラックジラの怒りを生き延びろ】
ヒント:死なないように頑張れ。
カズキは後ずさりしながら、クラックジラが羽ばたき、ミサイルのように飛び上がるのを見た。彼は干し草の山の裏に飛び込む――その瞬間、巨大なニワトリが地面に激突し、地割れを起こす。
「うそだろ……家禽系戦争犯罪に追われてる……」
そっと干し草の山から顔を出す。クラックジラの視線はラスボスのカットシーン並みに殺意に満ちていた。ひと突き――干し草の山が爆発した。
「こんなのチュートリアルじゃねぇ!俺、モブキャラだぞ!」
すると、HUDが親切にも光る。
> 【編集提案:ボスパラメータを変更しますか?】
「するする!編集:ボス → 『クラックジラ』を『ちょっと混乱してる雌鶏』に変更!」
> 編集成功
−10 スタビリティ
瞬間、戦闘機の如き鳥が、ふっくらした無害な雌鶏に変わった。コッと鳴いて、のんびりくるくる回り始める。
カズキは泥に倒れ込み、肩で息をする。「これは……テロだ。チュートリアル装った鶏テロ。」
気づけば村人たちが集まっていた。パン屋の爺さんはフライ返しを構え、昨日の幼児がニワトリを指差す。
「アレがボスだったのかよ?!」
カズキはよろよろと立ち上がり、干し草を払った。「えーと、状況をね、平和的に解決しました!」
「おじさん、あの鶏、僕の叔父さんを宇宙まで吹っ飛ばしたよ。」
空には確かに、叫び声と共に飛んでいく人影のようなものが……キラリと輝いていた。
カズキは咳払い。「このバージョン、チュートリアルがちょっとバグってるだけです。ベータではよくある。」
その時、再びHUDが点滅した。
> 【スタビリティ警告:世界整合性 92%】
「チュートリアルと矛盾する編集はお控えください。」
「マジで……デメリットあるのか。了解。」
直後に実績通知が飛び出した。
> 実績解除:【トリックプレイ】
「ボス戦を朝食に変えろ」
カズキは勝ち誇った笑みを浮かべた。「うん、これは価値ある。」
その時、広場から声が響いた。
「村人#23! 村長が呼んでおられる!」
「え、村長!? 俺って二十章までは完全スルー枠じゃなかったの!?」
カズキは村人の視線をかいくぐり、果物屋の横を抜けて広場へ向かう。そこには、二重マントで“スイッシュ音”に命をかけてるような村長が仁王立ちしていた。
「村人#23、君は……重大な異常を引き起こした。」
「楽しい異常だけです!」
「この24時間で、雨16回、霧5回、ニワトリ魔王、そして宿屋には詩人山賊団が滞在している。」
「文化レベル上がってると思いません?」
村長は無視して続けた。「我々は……何らかの“改ざん”の兆候を感じている。」
カズキ、冷や汗。
> ⚠ 選択肢出現:
【堂々と嘘をつく】
【とぼける】
【爆発でごまかす】←New!
彼は即座に三番を選んだ。
> 編集:背景 → 『アイドル村人』→『突如始まる花火大会』
ドカン! 花火が空を彩り、全NPCが会話を忘れる。子供は歓声を上げ、村長はくるくる回った。
「女王陛下の眉毛よ!今日は祭りの日か!?」
カズキはその隙に逃げ出し、果物スタンドの裏に隠れる。息を整えると、また通知。
> スキル習得:【ナラティブ直感】
「強制イベントやカットシーンを事前に察知できるようになる。」
「いいね……来るぞってわかれば、多少マシになる……」
その時、世界がカクついた。映像のバッファみたいに。村人たちが静止し、空がバグった。そして――
> パッチノート適用:軽微な整合性修正を実施
― 不正な編集を巻き戻し
― チュートリアルボスを再適用
― 村人#23への監視レベルを上昇
「ちょ、待て待て待てぇぇぇ!!」
さっきの雌鶏が光に包まれた。
> 【ボス:羽の暴君クラックジラ(ハードコアリミックス)】
10メートル。火の翼。レーザーアイ。
カズキ「やめろおおおおおお!!」
クラックジラが突進してくる。彼は樽に飛び込んだ。
> 【編集?】
「するするする!編集:ボス → 『レーザーアイ』→『レーザーポインター』!」
> −15 スタビリティ
編集成功
クラックジラの目から出たのは……赤い点。猫のオモチャ的なやつ。巨大ボスは混乱したように点を追いかけ、村中をドタバタ走り回る。
村人たち、呆然。
幼児「このニワトリ、好きかもしれない……」
カズキ、樽から這い出る。再び勝利。
「俺は……混沌の神だな。」
その瞬間、最後の通知が表示された。
> 警告:あなたは管理者ゼロにより監視対象となりました。
すべての編集は記録されます。
現在のステータス:「仮免許付き厄介者」
カズキ、硬直。
「管理者……ゼロ?」
HUDがバグり、赤いコードが一瞬流れる。目のようなものが一瞬だけ開いた――そして消えた。
村人たちは通常運転に戻り、クラックジラは赤い点を追いかけながら眠り、花火が詩を読み始めた。
カズキは樽にもたれて呟く。
「……モデレーターにマークされたか。まあ、いいや。」
彼はインターフェースを開いた。
> 【ナラティブエディター – v0.3】
基本編集:✓
仮免許ステータス:⚠
新しいタブ:???(ロック中)
カズキはそのロックされたタブを見つめる。
この世界の奥で、何かが目覚め始めていた。
だが、今は――
ニワトリを手なずけ、クエストを荒らし、詩人山賊をスカウトする時間だ。
「致命的なチュートリアルでも、退屈な運命よりマシだよな。」
どこかで、管理者ゼロが眉をひそめた。
でもカズキは、自分のバカ騒ぎに酔いしれていた。
――第2章 完――