第1章:NPC#23として目覚める
「ああ、空気がうまいな。」
少なくとも、クリムゾンホローのどんよりした風の中で一番ましなほうだった。和真入間は目をパチパチさせながら、よく知っているJRPGの風景を見渡した――泥だらけの道、曲がりくねった小屋、そしてプレイヤーがマップ外に迷わないようにあるだけの飾りの麦畑。彼はじめじめした土の上にあぐらをかき、額にできかけのタンコブを押さえた。
「うわ、確実に死んだな……」とつぶやき、下に目をやる。茶色の農民服、シンプルなウールのチュニック、寸法を計るのが嫌いな誰かが作ったみたいなズボン。袖には「村人#23」という小さなエンブレムが光っていた。まさに彼がずっと夢見ていたものだった。
なんとか体を起こして足を振り下ろしたが、左足が水たまりに沈み、思いっきり顔面から地面にダイブ。雨に濡れた泥がジーンズにまとわりつき、まるで喜んで彼を引き戻そうとしているかのようだった。
「よし」とうめき声をあげて体を持ち上げる。「HUDを確認しよう。」
案の定、半透明のボックスが視界に浮かんだ:
【Narrative Editor 起動】
[基本編集] • 残り∞ポイント
和真の心臓は宙返りした。ファンフォーラムで「これ本物のUI?」という噂を読んでは信じていなかったが、今は目の前に文字が浮かんでいる。文字は柔らかく光り、入力を待っていた。
「よし…第一歩だ」と彼は小声で言った。「天気を…もっとドラマチックにしよう。」
見えないカーソルでタイプする:
編集:天気 → 『小雨』を『弱いシャワー』に変更
すぐにプロンプトが点滅した:
編集成功 • −2 安定度
しばらくして、小雨は心地よい霧に変わった。豪雨に変えたわけじゃないが、明らかに違う。カラスの群れが「カァカァ」と鳴き声をあげた――たぶん喜んでいるか、迷惑がっているかはカラスだから分からない。
心臓の鼓動が早まる。「これ、本物だ。マジで本物だ。」
静かな空気を裂く叫び声が響いた。「雨じじいめ!」広場の向こうで、両手を腰に当てた幼児NPCが睨みつける。「鶏を溺れさせて、田んぼを水浸しにして!出ていけ!」
和真はその幼児をじっと見た。彼は引きこもりのニートで、大学の学費を食いつぶすゲーミングチェアから、わずか3秒で「雨じじい」になってしまった。まさに格下げだ。
「え?俺のこと?悪いけど、実は俺、村人#23で、新しい天気スペシャリストなんだ。」安心させるように微笑みかけた。「“天気スペシャリスト”って響き、なかなかいいだろ?」
幼児は目をぐるんと回した。「雨を直すって言ったのに、今はただの霧だ。本当の雲はどこにあるの?」足を踏み鳴らす。
背後には好奇心いっぱいの村人たちが集まっていた。卵を持った者、木の剣を磨く者。まるでクエストログからそのまま生成されたみたいだった。
和真は喉を鳴らした。「もっとできる。見ててくれ。」再びHUDをタップし、前のコマンドをコピーして貼り付ける。
編集:天気 → 『弱いシャワー』を『快晴』に変更
雲は一瞬で晴れ、太陽の光がまるでアマチュアマジックショーのスポットライトのように降り注いだ。幼児は口をぽかんと開け、鶏は羽ばたきながら一瞬浮かんで、不満げな「コッコッ」という声を上げて着地した。
「女王の口ひげだって!」幼児はしばし言葉を失い、次の瞬間、歓喜の声をあげた。「もっとやって!」
クリムゾンホローに笑い声が広がる。地元のパン屋の老人(その名も「パン屋のじいさん」)が指をさした。「お前だな!やったのは!」
和真はナルシストのスポンジみたいに注目を浴びてニヤリ。「村人#23、天気スペシャリスト、参上!次の任務は?」
どこからともなく、カートがギーッと止まり、老婆が厚い眼鏡の奥からじっと彼を見つめた。「雇われたのか?」とカサカサ声で聞く。「前の天気スペシャリストは…まあ、行方不明になったのよ。」
和真は瞬きした。行方不明?「つまり…亡くなったってこと?」すぐにそれが村人に聞くべきじゃない質問だったと気づいた。
老婆の目は細められた。「せめて1ヶ月はもってほしいわね。」振り返りつつ、「羊をまた水没させないでよね!」と声をかけた。
和真は手を振った。「約束はできない!」羊はどうでもよかった。彼にはもっと大きな計画がある。突発的な嵐、急な霧の発生、そして…カエルの雨。
だが次の季節異変をセットしようとした瞬間、鋭い声が割り込んだ:
「おい、そこの!」
カズキは振り返ると、ぼさぼさ頭の衛兵が剣を腰にぶらさげて近づいてきた。「明るい太陽は何だ、鳥男?作物のためには冬が必要だろ?」
カズキは眉をひそめた。「鳥男?新しいあだ名だな。」すぐに考えを切り替えた。「えっと…冬は先週終わったんです、陛下。気象交流プログラムがあって…外交的にね。」
衛兵は目をぱちぱちさせ、頭をかき、ため息をついた。「外交的か。じゃあ続けろ。」そう言って、「異常気象の記録作業が忙しい」とつぶやきながら去った。
カズキは石の噴水の縁にへたり込んだ。下で水がチャプチャプと音を立てる。HUDをもう一度タップし、その半透明のインターフェイスが持つ可能性に感嘆した。
町の名前を「カズキの遊び場」に変えようかと思ったが、ちょっと待て。練習が必要だ。小規模に、微妙に。村人を油断させない程度のさりげない「編集」だ――「安定度クラッシュ」や「物語破綻」を引き起こさない程度のな。
「編集:環境音 → かすかな笑い声を追加。」と呟き、結果を想像してニヤリ。
だがキーボードを押す前に、叫び声が割り込んだ:
「武器を取れ!前哨基地に山賊だ!」
革なめし屋の娘が短剣を振りかざして広場に駆け込んできた。「牛を奪われた!」
カズキはため息をついた。「またNPCのドラマか。」立ち上がり、泥をはらって、のんびりと門へ向かった。村人たちもやってきて、槍や松明を手にした。チュートリアルクエストじゃないけど、まあ始まりだ。
木の柵にたどり着くと、手を大げさに上げた。「ちょっと待て!命知らずに突っ込む前に…難易度をちょっといじらせてくれ。」
HUDに向かってニヤリ:
編集:山賊 → 『山賊襲撃』を『山賊スラム詩人団』に変更
すると地平線が変わった。革鎧のシルエットがクリムゾンホローへ進軍してくるが、剣の代わりに本と羽ペンを持っている。リーダーが喉を清めて言った:
「クリムゾンホローの皆さん、『ぷりぷり豚へのオード』をお届けします!」
カズキの笑みは逆さまにひっくり返った。後ろの群衆を見て言った。「えっと…予想と違うんだが。」
村人たちはじっと見つめる。革なめし屋の娘は目をぱちぱち。山賊たちはポーズを決めて詩を朗読。
カズキは劇的にため息。「まあ、安全ってことか?」こめかみをこすりながら。「次の…次の章で直すよ。」
村人たちが山賊の予想外に感動的なハムと裏切りの詩に拍手を送る中、カズキは柵にもたれてニヤリと笑った。これは面白くなりそうだ。
だって、鶏が話し、虹にバグ報告がある世界では、どんな編集も可能で、すべてにオチがつくのだから。
――第1章 完――