王都(上)
大門を潜ると人で賑わう都市の風景が広がる……村に居た頃には想像も出来ないような人の波、整列するように詰めて建てられている建築物、俺にとってはその風景の全てが新鮮に写る。
「おぉ~!!」
「勇者君は村の生まれで王都には来たこと無いんでしたっけ……すごいッスよねぇ」
御者さんはそう言いながら広く取られた街道を馬車で進んでいく。
「あの、この馬車ってどこまで行くんですか?」
「この馬車は王都のお抱えなんでそのまま王城まで直で行くッスよ」
薄々思ってはいたけれどやっぱり王城まで直通になるらしい、結構な時間馬車に揺られていたから尻が痛くて仕方がない。
「勇者君は王に召集された勇者ってだけじゃなくてちゃんとした賓客なので寝泊まりはしばらく王城ですることになると思うッスよ」
「……ちゃんと寝られるかな……」
賓客として丁重にもてなされるらしいけど今まで小さな村で暮らしてきた俺がいきなりそんな待遇を受けると思ってなかったししばらくは違和感が抜けないかもしれない……。
「まぁ最初のうちは慣れないッスよねぇ~……僕もそうでしたもん」
「御者さんも?」
「僕も勇者君みたいに小さい村の出身でして、最初にこの王都に来たときは僕って田舎者だったんだなってすぐに思ったッスねぇ」
御者さんも小さい村の出身だった、だから俺と話が合うのかなと思っているとふとどうやって王室お抱えまでなったのか気になった。
「御者さんってどうやって王室お抱えまでなったんですか?」
「んー?いやねぇ少しばかり腕に覚えがあって御者としての仕事出来たんでフリーで色んなとこ回ってたら王室お抱えの御者にまでなってたんスよねぇ」
「……???」
一切合切わからなかった、とりあえず御者さんがすごいことだけはわかったけどフリーで活動してて王室お抱えになるまでの経緯が端折られているせいで御者さんすごい以外の感想が出てこなかった。
「お、そろそろ王城に着くッスよ~」
頭の中で御者さんの話を理解するのに必死になっているとそろそろ王城に着くらしく、俺は馬車から降りるための準備を始める。
「王様への謁見は明日ッスから今日は荷物を部屋に置いて好きに王都を見てくると良いッスよ」
「わかりました、御者さんとはそろそろお別れですね」
「そうッスねぇ……短い間でしたけど楽しかったッスよ」
別れの挨拶を先に済ませておくと丁度馬車が止まる、ここからは馬車を降りて徒歩で向かうらしく出迎えのために執事やメイドの方々が馬車の近くで待機していた。
「ここからは私共がご案内いたします」
「お、お願いします」
初老でオールバックのモノクルをかけた老執事が俺に挨拶をする、雰囲気が只者じゃないせいで俺は若干怖じ気づきながら荷物を他の執事やメイドの方々に預けた。
「申し遅れました……私、王城にて執事長を務めております、ゼラス・バトゥラと申します……以後お見知り置きを」
そう言うと片手を胸に当てて腰から深くお辞儀をするゼラスさん……流石執事の長を務めるだけあって礼儀作法に疎い俺でもわかるくらい綺麗で隙のない動作をしている。
「俺はアリウスです……あんまりこう言う礼儀作法には詳しく無いんですけど大丈夫なんですか?」
「通常であれば論外なのですが今回はアリウス様が勇者であること、現在の国王がそう言った礼儀作法にあまり執着がないこと等を考えるとそこまでお気になさることは無いかと……」
淡々とそう告げるゼラスさん、「城の内部をご案内します」と言うとゆっくりと城の中へと歩き出す。
滅茶苦茶作法に厳しそうで怖い……あの人は絶対怒らせたらヤバイと俺の直感がそうささやいているので絶対怒らせないことを密かに心の中で誓った。
「ヨークから聞いたかと思いますが国王陛下が召集なされた勇者はアリウス様を含めると四人です、理由は予言の災禍に対抗しうると思われる力を有するからとなりますね」
道すがらゼラスさんの説明を聞く、この人見た目と雰囲気の割によく喋る……人と関わりたい年頃なのかもしれない。
「さて、こちらがアリウス様のお部屋となります」
そんなことを考えていると部屋に着いた、あれ?もしかしてこの人丁度話が途切れるタイミングで部屋に着くように話してた……?
「それではごゆっくり……」
れだけ言うとゼラスさんは別の仕事があるのかそのまま何処かへと歩いて行った、最近驚くことが多いな。
◇聖具
勇者を象徴する武具や道具の総称を聖具って言うらしいよ、前にも説明した通り聖具は人々の願いから形作られるから思わぬ場所で発見されることが多いらしい。
けど必ずその聖具の持つ力を示唆するような場所で発見されるらしいから見たことのない聖具でもある程度はその聖具が持つ力を推測できるらしいよ。