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幻想図書~orphic archive~  作者: No-Text
第一冊:白金の装飾が施された聖剣の表紙を持つ本
6/13

勇者の聖剣(下)

今回ちょっとだけ長めです

 気付けば俺は今森を抜けるために走り出していた。息を切らしても木の根に躓いても顔に枝葉が当たって頬に傷が出来ても構わず走り続けた。

 あの剣の言葉、そして図ったかのように村の方から大きく響いた獣の咆哮。嫌な予感は見事に的中してしまったらしい……。

 やっとのことでたどり着いた頃には村はもうほぼ壊滅状態と言っても差し支えないような惨状だった。周辺の建物は崩壊し逃げ遅れたであろう人の死体が転がっている……そのすべてが顔も名前も見知った人物で腹の底から込み上げるものを抑えるのに必死だった。

 多少よろけながらも特に被害が大きい場所を辿っていく……家族や他の人達も心配だけれど今は状況確認が先だろう。

 焦燥感と不快感に苛まれながらもなんとかパニックにならないよう必死に頭を回す。肉が焼けるような香ばしい臭いと血生臭さ、そして何より炎の熱気と煙が俺の精神をガリガリと削っていく。

「っ……ぅおぇ…ぐすっ……」

 目が痛い、吐き気と涙が止まらない……それでも俺は何かが暴れまわる音を頼りに火の手を避けながらその場所へと向かうと真っ先に目に飛び込んで来たのはおおよそ通常では考えられないほど大きな熊。

 その熊は涎を口の端から滴らせ見るもの全てを喰い尽くすと言わんばかりに双眸を赤黒く輝かせている。そしてなにより、これは物理的な特徴とは違うが視界に入れた瞬間背筋に悪寒が走り近付くなと本能と理性が警告を鳴らし続けている。

 動けば死ぬ、直感的にそう感じたのだ……よく目を凝らして見ればあの熊の周囲には赤黒いもやのようなものが漂っており異様な雰囲気をより一層引き立たせている。

 そしてその熊は何かと戦っているようだった……熊の体格のせいで気付かなかったが熊が少し距離を取ったことでその戦っている人物が見えた。

「っ!!」

 気付いた瞬間俺はその方向に駆け出していた。未だに動けば死ぬぞと警告を鳴らされているが、そんなことお構い無しだった。だって……



 戦っていたのはヴィオさんだったから



 剣は何度もあの熊と打ち合ったせいかボロボロ、鎧は所々凹んでおり鎧の隙間から血が滲んでいるのが遠目からでもわかる。なにより、肩で息をしているし左腕もまともに動かないのか脱力し切っていた。

「っ!!おいボウズ」

「……母は?」

「……無事他の奴らと一緒に近くの村に避難したよ」

 それを聞いて少し安心した後俺は森で拾った剣を抜いて構える。クリスタルのような刀身が光を反射して輝いているように見えた。

「……お前それ……」

「話は後、まずはあれをどうにかしよう」

 ヴィオさんは何か言いたげだったがすぐに息を整えて剣を構え直したようだ。

「足引っ張んなよ」

「……そっちこそ」

 そのタイミングで熊は痺れを切らしたのかこちらに突っ込んできた。俺とヴィオさんは突進をそれぞれ別方向に避けていく。俺はそのまま熊を斬りつけるが毛皮が厚すぎて攻撃が殆ど効いていなかった。

 それに気を取られて隙を見せてしまった俺は熊の攻撃で身体が吹き飛ぶ。世界が何度も回転し背中に衝撃が走ると同時に視界が点滅するような錯覚を覚える。全身に激痛が走る、息ができない。

「無事か!?」

 ヴィオさんの方からそう声が聞こえる。返答ができずに視線だけを動かすと熊がヴィオさんを叩き潰す寸前だった。

 こんなところで、こんな理不尽にこの人を失ってはいけない。俺の夢を笑わずに剣の稽古を付けてくれた、そんなやさしい人がこんなことで死んでいいはずがない。

 しかし身体が思うように動かせず剣を握りしめるしかない自分を不甲斐なく思った。そんな時、視界の端に光が見えた。

 熊がヴィオさんを叩き潰そうとするがヴィオさんを微かな光の膜が覆い攻撃を弾いた。それにより、熊は大きくよろけて倒れた。

「っ……!!」

 ヴィオさんも俺も何が起こったか分からなかったが視界の端に見えた光が俺の視界を覆うと俺はなんとか動ける程度まで痛みが和らいでいた。

 まだ理解は追い付かないが相手はそんなことを待ってはくれない。ターゲットが俺に移り変わり咆哮を上げながら突進してくるが、俺は何故か逃げずに剣を構えた。

 身体は痛くてしょうがない、炎の熱気と煙で視界もわるい、けれど俺は不思議と冷静だった。不思議とこの突進を受けても問題ないと判断し迎え打つ体勢になった。

 視界に映るものの時間がゆっくりと流れる。大口を開けながらこちらに向かって走ってくる熊、避けようとしない俺を見て俺のことを呼ぶヴィオさん、そして私に任せろと言わんばかりの強い輝きを放つこの手に携えた剣。

「うぉおおおおお!!!」

 俺は大きく声を上げながら熊の口内目掛けて剣を突き出す。瞬間より一層輝きを増した刀身が俺の全身を包んだかと思うと次の瞬間には元居た位置から大分後ろの方まで押し出されながらも口内に剣を突き立てられて力尽きている熊の大きな顔が視界いっぱいに広がっていた。

「……やっ……」

 やった、そう言おうとして俺は糸が切れたかのように視界が暗転し意識を暗闇の中に手放してしまった。

◇魔性物

 そっちでよく見られる作品で言うところの所謂"魔物"と呼ばれる存在を表すものらしいよ、ませいぶつ……と読むらしいね。

 基本的には凶暴で野生動物と呼ぶにはかなりの被害が出てしまう恐ろしい存在だそうな、兎の魔性物が一つの村の半数を殺したなんて事例もあるくらいだよ。

 こわいね~

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