転生特典のユニークスキル【冒険者ギルドの最強守護者EX】で充実した異世界生活を送る〜第二の人生は皆さんと助け合いながら楽しくやっています〜
俺の名前は笠井キョウスケ。
この世界に転生してきたばかりの日本生まれ日本育ち、ごく普通の高校1年生だ。
俺は元の世界、つまり地球に落ちてきた小型隕石に当たって死んでしまった。
しかし隕石は神の部下が誤って落としてしまったものらしく、お詫びとして俺に異世界で第二の人生を送る権利が与えられたというわけだ。
俺が降り立った場所は、大きな街の近くに広がる草原だった。
空気が透き通っていてとても美味しい。
青空もいつもより輝いて見える。
「よし!まずは冒険者ギルドに行くぞ!」
異世界に転生したら冒険者ギルドを訪れて冒険者になるのは当然の行動だ。
中世ヨーロッパのような街を歩き、やがて冒険者ギルドへ到着した。
「こんにちは。ようこそ冒険者ギルドへ」
「冒険者になりたいんですけど」
「新規冒険者登録ですね。それではギルドカードを作成いたします」
すぐに冒険者登録の手続きが始まった。
冒険者になろうと思った理由はもう一つある。
それは転生特典ガチャを回して手に入れたユニークスキルだ。
スキル名:【冒険者ギルドの最強守護者EX】
効果:冒険者ギルドで最強になる。このスキルはあらゆる外的要因の影響を受けず無効化されない。
最強の冒険者になれるスキル。
まさに転生特典に相応しいチートスキルといえるだろう。
「こちらのギルドカードの受け渡しをもちまして冒険者登録は終了です。ギルドを通してクエストを受注される際は、ロビーにあるクエスト掲示板と受注専用窓口をご利用ください」
ギルドカードに記載された俺の冒険者ランクは一番下のE級だった。
別組織からの推薦状や特別な事情がある場合を除きE級から始まる規則らしい。
異世界転生者は特別な事情と言えるかもしれないが、目立つのはあまり好きではないのであえて黙っておくことにした。
きちんと定められた規則があるなら素直に受け入れるまでだ。
今の俺ならあっという間に一番上のS級冒険者になれるだろう。
さて、早速掲示板へ行って記念すべき初クエストを受けてみよう。
武器と防具も買わないといけないし、異世界初日からやることが山積みだ。
神様から貰った軍資金も無限じゃないからな。
計画的に使わなければ……。
ドンッ。
考え事をしながら歩いていたら、人とすれ違う際に肩をぶつけてしまった。
「ってえな……」
「おっと。わりぃな、おっさん」
「おい待て」
後ろから肩を掴まれる。
「なに?」
「人にぶつかって謝罪もなしか?」
「すぐに謝っただろ。それにぶつかったのはお互い様だ」
「なめた口ききやがって!俺を誰だと思ってやがる!?」
「知らない。おっさんも冒険者なのか?体がでかいだけでそこまで強そうには見えないな」
「このクソガキが……っ!」
おっさんの機嫌がさらに悪くなっていく。
残念なことに異世界でも自分の非を絶対に認めない奴はいるようだ。
俺はため息をついて肩の手を振り払う。
「まあ一旦落ち着けよおっさん。イライラすると将来禿げやすくなるらしいぞ」
「うるせえ!俺はB級冒険者のマヌケス様だ!痛みで二度と忘れなくしてやる!」
おっさんがパンチを繰り出す。
俺は片手でひょいと受け止める。
「……は?」
「ふーん、まあチンピラB級ならこの程度か」
「くそっ!?このっ!離しやがれ!」
おっさんは慌てて拳を引き抜こうともがくが、がっしりと掴んでいるのでびくともしない。
「痛みで二度と忘れなくしてやる、だっけ?痛みって例えばこういう感じ?」
俺はおっさんの拳を掴む力を強める。
「あいたたたたたたたたたた!?」
おっさんは愉快な声を出しながらも必死にもがき続けている。
「まだ余裕ありそうだね。もう少し強くしてもいいかな」
「あぎゃあああああああああああああああ!!!!!」
「うるさ。ところで、俺に何か言うことがあるんじゃない?」
「ガキがっ!離せっ!このっ!くそっ!」
「ほらほら、早く言わないともっと痛くしちゃうぞ☆」
俺は笑顔でさらに力を強める。
「うわああああああああ!?ご、ごめんなさいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「よくできました」
パッと手を離すと、おっさんはふにゃふにゃになりながら床に崩れ落ちた。
「あーあ、折れないように加減してあげたのに情けないなあ。これに懲りたら今度から変な因縁をつけるのはやめておくんだな」
「くそっ!お、覚えておけ!」
おっさんは涙目でテンプレ捨て台詞を吐き、冒険者ギルドから逃げるように走り去った。
やれやれ、最初から素直に謝れば痛い思いをしなくて済んだのに。
それにしても最強になるチートスキルの効果は絶大だったな……と言いたいところだが、雑魚チンピラ相手では全く手応えがなかった。
今後の異世界冒険者生活を満喫するためにも、生まれ変わった俺に何ができて何ができないのかを色々と検証する必要がありそうだ。
「よし、これにしてみるか」
E級が受けることのできるクエストの中で最も難易度が高く設定されていた『イエローコボルトの討伐』を受注してみる。
続いて買い物も兼ねて街の探索へ繰り出す。
当たり前だが街の雰囲気が日本とは全然違う。
ぶらぶらと散歩をするだけでも海外旅行に来たみたいでとても楽しい。
いやまあ海外どころか異世界なのだが、気分的には似たようなものだ。
「そういえば腹減ったな」
というわけで、店頭販売をしていた店で焼き鳥を2本購入する。
串に刺さった大きな肉の表面でタレがキラキラ輝いている。
店員はトリ肉と言っていたが、果たしてそれがニワトリなのかはわからない。
「おお、海外の味がする」
いやまあ海外どころか異世界なのだが。
特にタレの風味が初体験でさっぱりしている。
肉は地球の鶏肉とほぼ変わらない。
強いていうならやや固いくらいか。
あっという間に食べ切り、街の探索を再開する。
「おっ!いい感じの裏路地発見!」
良さげな裏路地を見つけたら入るしかない。
建物と建物の間にひっそりと存在する薄暗い道、どこへ繋がっているのかわからないワクワク感。
日本では満たされなかった冒険心を存分に満たしながら道なりに進む。
「もう終わりか……」
3分ほどで小さな広場へ出たが、同時に袋小路でもあった。
途中に分かれ道はなく、広場を調べてみても隠し通路のようなものは見当たらない。
まあ知らない土地だからこういうこともある。
仕方ない、引き換えそう。
「ようクソガキ。さっきは世話になったな」
振り返るとギルドで俺が撃退したチンピラおっさんが立っていた。
名前は確かマヌケスとかいったか。
隣には仲間と思われる2人のおっさんもいる。
「こいつがお前をボコボコにした奴か。ただのガキじゃねーか」
「見た目に惑わされるなよバカーホ、ドッジ。こんななりしてるが半端ない馬鹿力だ」
なるほど、1人で勝てなかったから3人で復讐にしにきたというわけだ。
いかにもチンピラが考えそうなことだ。
食後の運動がてら、軽く捻り潰してやろう。
「かかってこい雑魚ども。まとめて相手してやる」
「上等だゴラァ!」
マヌケスの雄叫びを合図に3人が向かってくる。
「やれやれ、本当に懲りないな」
ミジンコが1匹から3匹に増えたところで恐竜に勝つことはできない。
そんなことも理解できないとは、名前通りの大間抜け野郎だな。
「おらぁ!」
マヌケスが蹴りを繰り出す。
拳がダメなら足で、ということだろうか。
だが、やることは対して変わらない。
まずはさっきと同じように軽く受け止める。
今回は容赦なく土手っ腹に一撃をお見舞いすればすぐに決着がつく。
実力の差をもう一度理解らせてやれば、すぐに大人し
「くぅっ!?」
なる……は……ず……。
は?
「ゔあっ……」
横腹に激しい痛みが走る。
何が起きた……?
「そら!もう一発!」
「がはっ!?」
追撃の蹴りもまともにくらってしまい、俺は地面に倒れ込む。
なんだこれ……どうなってるんだ……。
「あ?なんだこいつ。聞いてた話と違うぞ。ただのクソザコじゃねーか」
「まさか俺の秘めたる能力が覚醒した!?」
「んなわけねーだろ脳筋。このガキ自身に何かカラクリがあるとみた」
おっさんの1人が俺の頭をつま先で小突く。
「どう思う、ドッジ」
「強力な支援魔法の効果がきれた。ギルドでマヌケスが弱体化魔法をかけられていた。スキルの発動条件を満たしていない。考えられるのはこの辺りだろう」
「つまり今がやり得というわけか。おいガキンチョ。お前に個人的な恨みはないが、仲間の敵討ちだと思って素直に受け入れてくれ」
「マヌケスは死んでいない。よって敵討ちという表現は適切ではない」
「細かいことはいいんだよ。ま、そういうわけだから悪く思うな……よっ!」
バカーホの蹴りが腹に直撃する。
「ぐふっ!?」
痛みと共に口の中に血とタレの味が広がる。
俺は最強になったはず……。
なのに……どうして……こんな目に……っ!
「ドッジ、お前もやるか?」
「僕は遠慮しておく。怪力自慢のマヌケスを素手で圧倒するほどの強者に興味があっただけだ。居場所の特定には協力したが弱者を嬲る趣味はない」
「ま、お前はそう言うと思ったよ。俺も骨のある奴を期待していたのに一方的すぎてつまんねえわ。マヌケス、気は済んだか?」
するとマヌケスが俺の胸ぐらを掴んで無理やり起き上がらせた。
「いやだ……ゆるして……」
「許してだと?それなら俺に何か言うことがあるんじゃないか?」
「えっ?えっ?」
「それが答えか?」
「ちがっ……!あっ、あっ……ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
「なんだ、やればできるじゃないか」
「え、へへ……」
「俺は優しいからな。きちんと謝罪できた褒美に、この一発で最後にしてやるよ!」
「!?い、いやだ!ゆるしてください!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさ」
ゴギュッ。
肉と骨がぶつかる鈍い音。
顔に穴が空いたと錯覚するほどの衝撃。
少し遅れて激痛がやってくる。
「あ……う……」
呼吸をするたびに全身が痛む。
どうして負けた。
どうしてスキルが発動しない。
霞む視界と朦朧とする意識の中で必死に考えた。
考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、やがて答えに辿り着いた。
スキル名:【冒険者ギルドの最強守護者EX】
効果:冒険者ギルドで最強になる。このスキルはあらゆる外的要因の影響を受けず無効化されない。
俺はこのスキルの効果を「冒険者ギルドに所属している冒険者の中で最も強くなる」と思っていた。
本当の効果は違う。
これは冒険者ギルドという場所にいる時限定で最強になるスキルだ。
冒険者ギルド以外の場所では何の効果も発揮しない。
故に、守護者。
「は、ははっ……」
あまりのくだらなさに笑いが漏れる。
とっくに痛みなんてどうでもよくなっていた。
「くそ……くそっくそっくそっ!!!!!」
すぐに悔しさで頭がいっぱいになる。
何が転生特典に相応しいチートスキルだ。
こんなの、ハズレスキル中のハズレスキルじゃないか……。
「当時の私は自分を酷い目に遭わせた3人が憎くてたまりませんでした。冒険者ギルド以外でも戦えるように体を鍛えて魔法を覚えながら、必ず復讐してやると憤っていました。ですがあの日以降彼らと顔を合わせることはなく、いつの間にか他の土地へ移っていたようでした」
「今でも復讐したい気持ちはありますか?」
男性記者の質問に、俺は首を横に振る。
「断言します。一切ありません」
この言葉に嘘偽りはない。
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「感謝しているからです。彼らには非常に恥ずべき言動をしてしまいました。与えられた力を振りかざしてイキり散らかし、上から目線で横暴な態度を取り、人間をゴミのように扱う。まるで世間知らずの拗らせた中学生でした」
「チュウガクセイとは?」
「えっと、そうですね……つまり、調子に乗っていた子供だったということです。彼らは世間をなめ腐っていた10年前の私の道を正すためにやってきた神の使いだったのではないか、そう考えたこともあります」
「神の使い、ですか。それはなんといいますか、その、独特な考え方ですね」
記者を少し困らせてしまっただろうか。
だが実際に俺は神の力によってこの世界に転生した。
神関連の何者かが接触してきたとしてもあり得ない話ではない。
「仲間達とB級に昇格してしばらく経ち、私は自分の強さに限界を感じていました。しかしある日、アイデアが閃きました。冒険者ギルドの敷地内でしか最強になれないなら、冒険者ギルドで他の冒険者たちのサポートをすれば良いのではないかと」
「それがキョウスケさんが現在力を入れている『冒険者支援サービス』というわけですね」
「はい。基本的には通常業務をこなしつつ、ダンジョンなどで発見された詳細不明の術式の解析や、聖遺物の呪い解除といった特に危険度の高い依頼を中心に扱っています。私のスキルの性質上ギルド内でしかサービスを提供できずお代も頂きますが、あくまで冒険者ギルド運営としてのサービスの一環になりますので、巡り巡って皆様に還元されます」
俺が転生特典で手に入れたスキル。
それは冒険者ギルドという限られた場所でしか最強になれないハズレスキルだった。
だが、ハズレスキルは解釈と使い方次第でチートスキルに匹敵する力を発揮できる。
おかげで俺は充実した楽しい毎日を送ることができている。
借り物の強大な力だからこそ、誰かを助けるために使いたい。
「私はこれからもギルド職員の一員として、そして冒険者ギルドの最強守護者であり続けたいと考えています」