第1話: 暗闇の中の出会い
風が窓を叩く中、モニターの明かりだけが28歳のミアの顔を照らしていた。彼女は夜更かしを続けながら、クライアントからの依頼に応える動画編集に没頭していた。破局してからの日々は孤独と仕事の忙しさで埋め尽くされていた。気がつけば深夜の2時を回っていた。
ミアは作業を一時中断し、休憩がてらに窓辺に立った。外の暗闇が彼女の心境と重なって見えるようだった。突然の停電が部屋を真っ暗に覆い、モニターの光も消えた。焦るミアは懐中電灯を手に取り、すぐさま配電盤に向かった。しかし、それでも電気は戻らない。
部屋を照らす懐中電灯の光で彼女は暗闇の中を探検することになった。廊下に出ると、階下から何かが聞こえた。足音とも声ともつかない何かが、そっと近づいてくるような気配があった。ミアは不安を覚えながらも、好奇心から声のする方へと進んでいった。
廊下の暗闇から、ぼんやりとした影が現れた。それは人の形をしているようだったが、不気味なほどに不透明で、明確な輪郭が見えなかった。ミアは息を呑んで立ち尽くす。その不気味な姿勢を保ったまま、影は彼女に近づいてきた。
恐怖に心臓が止まりそうになる中、影が次第に姿を現し始めた。それはミアの昔の恋人、突然に去ってしまった彼だった。しかも彼は無言のまま、ただミアを見つめていた。
「な、何してるの…?なんでここに…?」ミアは声を絞り出すように問いかけたが、彼は静かに手を差し伸べる。その手は薄く、透明な感触があった。
まるで亡霊のような彼の姿に戸惑いながらも、ミアは手を取った。手に触れる瞬間、彼の姿は一瞬で消え去り、部屋に再び明かりが戻った。
呆然としたミアは一瞬、現実なのか夢なのか見当がつかなかった。しかし、彼女の手のぬくもりは夢とは異なる現実感を与えた。彼女は動揺しながらも、心臓の高鳴りを感じながらも、彼の手を離すことができなかった。