そして街へ①
「おぉー!思ってたより全然デカいなぁ! まぁそりゃ貿易都市だもんな〜 あー!やっと異世界って感じになってきた!!!」
『あんまり並んでないね? この都市は人の出入りが激しいから毎日行列が出来て酷い時なんて3時間待ちらしいけど、時間帯かな?』
『わぁー!大っきい崖なの! 後ツルツルなの!カッコイイの!!!』
一行は遂に到着した貿易都市シューガルの壁面を遠目に見すえて三者三様の感想を述べていた。
徒歩30分の所で小休止したときは微かに曇り空のかかる今日みたいな日はハッキリと都市を一望する、とゆうわけにも行かなかったのだ。
その壁はおおよその高さ50m、街の外周を囲うようにそびえている。
流石に都市の中が遠目に見えるような急勾配じゃないのでそのサイズまでははっきり分からないが、それでも軽く半径10キロ近い広さがあるのは、まず間違いなさそうであった。
もちろん、天使様に貰った知識に検索をかければ1発で分かることではあるのだが、そう言うことをすると異世界感がなんか微妙になりそうなのでやらない隼だった。
「ふぅむ、街に入ったらまずは探索者ギルドに登録、かな、?」
『冒険者ギルドじゃなくて?』
「うん、探索者ギルドなら基本的な技能講習みたいなのがあるらしいし、何より冒険者ギルドより新参のギルドだから治安がいいらしいしな」
『そっか、ボクは隼の事だから冒険者ギルドに登録してその日のうちにダンジョンに突撃でもするのかと思ってたよ』
「ベルさん?僕のことなんだと思ってらっしゃる???」
『? うーん、? キュイはね? よく分からないんんだよ! 仲間はずれなんだよ!』
「え、あ!すまんまだ説明してなかったな!!」
『あ、ごめんよキュイ、今から説明するね?』
仲間はずれみたいで勢い込んで抗議するキュイと揃いも揃って「忘れてた!」と焦り散らかす隼とベル。
結局は家族なのだ、そう思わせる1面である。
『えっとね、まず僕達が今から行くのは貿易都市シューガルってゆう所、都市ってゆうのは人がいっぱい住んでる場所の事ね?』
『うんうん!なの!』
「そのシューガルってゆう都市が、あの壁の向こうに広がってるわけだな」
『あれは崖じゃ無かったの!?なの!』
都市を囲む壁のことを崖だと思って見ていたらしいキュイが驚きの声を上げる。
全く可愛い。
「そうだ!あれは人間が何十年もかけて作った、そうだな、言うなれば人口の崖なのかもしれないな」
『そうなの!? なるほどなの〜』
『それでね? ボク達は今からあの崖?の中に入るんだけど、その中に冒険者ギルドってゆう場所と、探索者ギルドってゆう場所があるのね?』
『ふむふむなの、』
「冒険者ギルドってゆうのは、そうだな、ライオンさんみたいな育て方をする場所なんだ」
『うーん、?ライオンさん、?』
『クマさんわ分かるでしょう?キュイ、クマさん達は生まれたら直ぐに1人で狩とかをするよね?』
『うん!すごいと思うの、』
『人間たちをクマさんみたいに育てるのが冒険者ギルドってゆう場所なの』
『なるぼどなの!!!オオカミさんみたいにみんなが教えてくれたらすぐに強くなれるんじゃないかな?って思うの、キュイはよわよわだから分かんないけど、』
「そうそう!そんな感じだ! そのオオカミさんみたいに直ぐに狩りをするんじゃなくて少しずつ教えてもらって強くなるのが探索者ギルドってゆう場所だ!」
『ふむふむなの、』
動物に例える作戦が上手くいったらしい、キュイは物知り顔で隼に抱っこされながら器用に頷いている。
スライムに首とかあるの?とゆうのは置いておくものとする。
だいたいそんなにニュアンスの行動をキュイがしたとゆうことなのだ。
『今から行くのが探索者ギルドなの、かな、?あってる、?』
『うん!キュイ正解!よく話を聞いてたね!偉い!!』
『えへへ、これくらい当たり前なの、でも嬉しいの!』
「でだ!ここからが重要なんだが、」
『うんうん!なの!』
「こないだダンジョンの話はしたよな?」
『うん! モンスターがいっぱいいる所なの!洞窟?みたいな感じだと思うの!』
「うん!だいたいそんな感じ! で、そのダンジョンに入るのには許可が必要なんだ」
『うーん、入っていいですよ!って言われないと入っちゃダメなの、?』
『正解!キュイはあたまがいいなぁ、その入っていいですよってゆうのが冒険者ギルドだと直ぐに貰えて自由に入れるんだけど、その分罠とか奇襲で死んでしまう人もかなり多いの、』
「その点、探索者ギルドでは許可されるまでに最低Eランクを持ってないとダメなんだ、その分かなり専門的な罠の知識なんかも勉強できて死者数で言えば毎年冒険者ギルドの1/13って所らしい。つまり、探索者ギルドは冒険者ギルドに登録するより安全ってことだな」
『安全は大事なの、 イーってゆうのはなんなの、???』
「いい質問だ!Eランクってゆうのは、、、」
『冒険者ギルドと探索者ギルド、他にもギルドって呼ばれてる集団はあるんだけど、そうゆう場所で使われてる、そうだな、強さの目安、みたいなものかな。 Aランクが1番強いクマさんならGランクは兎さん、みたいな感じだね』
「ちょっ!ベル〜! コホンッ、A、B、C、D、E、F、Gってゆう7種類のランクがあって、」
『なるほど!どんどん弱くなるの! ってことであってるの、?』
『正解! このEランクってゆうのは下から何番目?』
『えっと、えっと、3番目なの!』
「お!正解だ!そのEランクになるまで勉強しながらランクを上げて、それで安全にダンジョンに挑めるのが僕達が登録することになる探索者ギルドなんだ。」
『分かったの!!!』
おしくらまんじゅうみたいに我先にと喋る隼とベルの様子にいつもより嬉しそうなキュイが可愛い。
ベルはベルでかなりキュイが好きになってきているらしく話している顔が楽しそうだ。
そんな1人と2匹が喋り終わった頃、既に行列がなくなってすぐにでも対応出来る状態になっていた警備兵が小走りで近づいてくる。
その姿は歩きやすいようにだろう、関節に触れないよう部位ごとにつける作りになっている軽そうな鎧をつけてをり、上からローブのようなものを羽織っている。
その胸元には麦と剣が交差してその周りを炎が丸く囲んでいるような特徴的な刺繍がされていた。
帯剣している腰を見るとロングソードの柄の先にも同じ紋章が、隼は素早く検索をかけこれが貿易都市シューガルを統べるノードル公爵家の家紋であることが分かった。
同時にシューガルのエンブレムとしても使われているようだ。
「君はモンスターを連れているがテイマーの方かな?困るよ、テイムしているモンスターには従魔の首飾りをかけておいて貰わないと〜」
「え!?あ、えと、従魔の首飾りですか、すみません。あの、それはあれ、えっと、どうゆうものなのか聞いてもいい、ですか、? すみません僕ちょっと、その。世情にうとくて、、」
「え!?持ってないんですか!? 困ったなぁ、どの辺から来られたかとか分かります?」
「はい、あのあの、えっと、一応サワラべ村から出てきたばかりでして、」
「あー、サワラべ村、あんな遠いところから、大変だったでしょう。 あそこから来たのなら持っていないのも頷けます! 身分証も持ってませんよね?発行しますのでこちらに来てください。」
そう言って隼達を案内する警備兵。
やはり初めての人間とドモらずに話すとゆうのは隼には難易度が高すぎたらしい。
かなり怪しい感じに仕上がってしまっている。
、、、さて、サワラべ村とゆうのは貿易都市シューガルから街道を10キロほど登った先にある山岳地帯を5山ほど超えたところにある村だ。
この村の特徴として、この村には税が無い。
また同時に身分証がなくても住める稀有な地域となっている。
この理由として6年続いた魔道教と天言教の戦争の余波が影響していると言える。
この戦争が起きたのは地続きの大陸ではなくアシュー王国があるヒルデマリン大陸を少し南西に行った所にあるヒルデマリン大陸の半分ほどの面積の大陸で起こったことだった。
戦争の被害で母国が灰燼になってしまったその大陸、ゼネード大陸からの難民を受け入れるために新規に作られた村なのだ。
正確には開拓村と呼ばれていて、主に近郊の鉱脈から鉱物を山を超えた先にある街まで持っていき、物々交換で大量の食料を受け取り生活している村だ。
サイズ的には町と言っていいサイズがありもちろん自給自足で麦や少量の野菜なども育てているらしい。
、、、ともかく、天使様も正確に何年、とゆうのは記憶していなかったようだが、この戦争が起きたのは実は100年近く前のことになる。
その100年前に起きた爆発の余波が地球に届くまで約50年近く、そこから更にアイシュタルに被害にあった魂が送られるまで50年、その年月でこの国に移住した者たちの受け入れ体制を整え場所を用意し生活を安定させる位のことは造作もなかった。
天使様もこの村のことは知っていたらしく、身分証も何も無くても怪しまれない隠れ蓑としてこの村を選んだのだ。
村の名は難民村と呼ばれている。
軽い差別対象にはなっているが、全体的に見れば極々平和な村である。
そしてそこから出稼ぎに出てくるものとゆうのもここ80年ほどで良くあること、になってきていた。
、、、ところで、隼たちが通された警備隊の詰所はかなりしっかりとした作りの建物であった。
まぁ門前で警備している警備兵は基本交代制なので待ち時間寝るなり読書をするなりするのだ、当然詰所も立派なものが必要になってくるだろう。
「では、この紙に出身国と名前、年齢、それとこの部分に血を一滴垂らして貰えますか?」
「あ、はい!えと、わ、わかりました!」
隼はドモりながらも何とか返事を返す。
警備兵としても「あれだけの辺境だ、大きな都市に緊張しているんだろうな、」とゆうくらいに考えているようで特に気にした風でもない。
警備兵から差し出された紙を広げて出身国の所にアシュー王国、その下にハヤト・ジンバと書き込み、その下に23歳と書き込んだ。
置かれていた針を軽く左手の人差し指に刺して出てきた血を丸の書かれた部分に塗る隼。
すると、年齢の下の空欄だった部分にレベルや犯罪歴、種族などの大まかな個人情報が現れた。
「はい!犯罪歴も無いようですね!問題な、、」
「え、あの、どうしました? もしかして何か問題でも、??」
「23歳!?」
「あ、はい。僕、若く見られること、まぁまぁ多くて、でもあの、一応23歳です、えと、えと、証拠は、えと、、」
「いえ大丈夫ですよ!驚いてしまっただけなので手続き上は問題ありませんから! ただ、あまりにも若く見えたもので、」
「あはは、よく言われます、、若く見られること多いんですけど、やっぱりちょっと嬉しいもの、ですね、?」
はにかむように微笑む隼と何度も年齢のところと隼を見比べる警備兵。
歳の頃は25と言ったところか、がっしりとした体つきをしている。
自分と2つしか違わないとゆうのが相当驚きだったのだろう、それから10分、警備兵は驚き続けていた。
その後隼は従魔の首飾り。とゆう赤い水晶のようなものが着いているペンダントをふたつ受け取ると詰所を出て、いよいよ街に入るのだった。
その際、仮身分所の更新方法や仮身分証の使用期限、また本身分証と交換する方法を聞いた隼だったが既に知っている情報ばかりだったので街の中を想像することに一生懸命で全く聞いてい無かったのだが、特に問題ないだろう。
ちなみに従魔とゆうことになっているベルとキュイは詰所に入ることが出来ないらしく隣の宿舎に通されて隼を待ちながら仲良くおしゃべりしていたりする。
ベルは隼と膝下ほどの身長に縮んでるのでフェンリルだとバレることも無く、珍しい純白のさらさら毛並みのオオカミ魔獣として受け入れられています。
シューガルの周りにそのようなモンスターは居ないのだが、なにせ5山も超えた先の村なのだ、そんな辺境はまだまだ解明されていないモンスターも沢山いるし、それほど不思議がられることもなかったみたいです。
まぁそれよりも、そもそもフェンリルなんて伝説みたいなモンスター、誰も見た事ないのだから分からないとゆうのが正直なところなのですが。