至福の時①
隼達は既に何度もやり、慣れた手つきでギルドカードと従魔証のペンダントを提出し門をくぐって中へと入っていた。
そんな隼の目に、この世界に来てからは初めての景色が広がっていた。
「行列だ。 あっちに何かあるのかな? 祭りがあるって感じじゃないし、」
『人気のお店でもあるのかな??』
『お店なのです? ご飯なのです!?』
「いや分かんない!分かんないからね! とりあえずギルドに行ってルーラに聞いてみるから落ち着いてキュイ!」
『はいなの! ご飯だと期待して待ってるの!!』
『ご飯かどうかはともかく、気になるね? なんか探索者っぽい人も結構多いみたいだし、、』
「そうなんだよなぁ、なんかみんな汚れてるとゆうか、、ん、? まさか、、」
『、? 何か分かったの?』
『分かったのです?』
「いや、なんでもない。 とりあえずギルド行こう!」
なにか浮かんだようだが、流石に無いだろうと自己完結したようで特に何か言うでもなくパッパとギルドへ向かってしまった。
そのまま10分ほど歩きギルドの門前に到着した隼達。
「それじゃ、キュイ、ベル、気をつけるんだよ、?」
『うんなの! ベルくん行こなの!』
『うん! それじゃね隼』
「あ、うん、、」
なんとも寂しそうな顔で返事を返した隼を振り返りもせずキュイと一緒に従魔舎へ入っていくベル。
その背中に乗せられたキュイも満更ではなさそうで、それがなおさら隼を寂しくさせている。
が、そうもしていられないとすぐ立ち直ってギルドに入っていったあたり、隼も少しずつ成長しているようだった。
ギルドに入ると受付のカウンターに見知った顔を見つけた隼は勢い込んでその列に並んだ。
ルーラはギルド受付嬢の中でもかなり人気が高く、そのせいでこの4時頃とゆう時間帯は大忙しだった。
この時間はちょうど隼のような低ランクの遠出できない探索者が帰還するのにちょうどいい時間なのだ。
「こんな混んでるの初めてだなぁ、、」
分かりやすく手持ち無沙汰にキョロキョロしている隼は完全に不審者だった。
列に並んでいる探索者は優に20人を超えている。
とは言えほかの受付嬢は知ってる顔がちらほら居るものの、まともに喋れる自身もないので移る勇気も無い隼は大人しいものだった。
そのまま40分ほど、テキパキと仕事するルーラを遠目に見たりクエストボードや右手の酒場を見たりと落ち着きなく待っていた隼の番が回ってくる。
「あ! ハヤトさんおかえりなさい! クエスト上手く行きました??」
「うん! 自慢じゃないけど15匹見つけたよ」
「凄いじゃないですか! ゴブリンは人間などの大きい生き物を警戒するので探すのがすごく大変なんですよ? 凄いです!」
「そ、そんなことないよ! 僕の従魔に魔物の場所がわかる子がいてね? その子が案内してくれなかったらさすがに無理だったと思う」
「そうなんですね! それで討伐照明の魔石なんですが、」
「うん、これとこれと、あ、そうだった5匹は胸の辺りから黒焦げにしちゃって魔石が壊れちゃったんだよね、10体分でお願い」
「分かりました! ギルドカードと依頼書の控えの提出もお願いしますね!」
「あ、うん! はい」
「お預かりしますね!」
ルーラが元気な声と共にギルドカードと依頼書の控えを受け取るのを確認したあと、隼はしっかり無事だった10匹を解体して取り出した魔石をアイテムボックスから出してカウンターに乗せていく。
シューガルへの帰路で1度休憩を挟んだ時に解体も済ませていた隼、なかなか用意周到である。
ちなみに、キュイが倒した5匹の魔石が壊れていたことはキュイには内緒である。
ガッカリして欲しくないからである。
あと魔石以外の売れる部位に関して隼はすっかり忘れていたりする。
「はい、しっかり10匹分ありますね。次のランクまでは10個のクエストクリアと試験合格が条件です! まだ先は長いですが頑張ってくださいね! 」
「うん!ありがとルーラ!」
「いえいえ、これ確認できたのでギルドカード返します。 あとゴブリンの魔石10個と10匹のゴブリン討伐の報酬で計銀貨8枚です! お疲れ様でした。 明日も依頼受けられるんです?」
「うん!そのつもり! ルーラもお疲れ様。 それじゃ、、」
ギルドカードと報酬をアイテムボックスにしまいつつ後ろにかなり人が並んでいるのを知ってるためそそくさと列を抜けようとした隼、
が、何かを思い出したように立ち止まるとルーラの方を振り返り、、
「そうだった! ルーラ? なんか来る途中もんの近くで行列出来てたんだけど何か知らない?」
「、? 行列ですか? うーん、、」
「やっぱり分かんない?ならいいんだけ、、」
「あっ! たぶんこの時間帯なら温泉じゃないですかね? ほら、この時間は汚れを落としたい探索者ギルドの人も多いですから」
「、、? ん、?温泉、? え、温泉!?」
「はい!公衆浴場って言うらしいですよ? アンナさんのお師匠様が流行らせたもので、骨身に染みて疲れが取れるんですよォ、、」
温泉と聞いて分かりやすく目が輝く隼があんまり屈託なく笑うものだからルーラの頬が少しだけ紅潮したように見える。
隼もこの世界に来てから全く体を洗っていなかった訳では無い。
羽衣亭では好きな時間にクラナなどの従業員に湯浴み用の桶を をお願いすれば持ってきてくれて、それを持って専用の個室に入り湯浴みしていたのでそこまで不自由してはいなかった。
もちろん石鹸も支給されるし湯浴み用のスペースには上質という程ではないにしても、しっかりした作りのタオルも沢山置いてあって体もしっかり拭けたので特に不満らしい不満はなかったのだ。
が、とは言っても現代日本人だ。
家からなかなか出れなかったと言っても隼は風呂が好きだった。
おゆうことで、この話を聞いて言葉以上にかなりテンションが上がっていた。
「うわぁ、!いいなぁもっと早く教えて欲しかった!! 後で行ってみる、ありがとルーラ!」
「いえいえ! 気にしないでくださ、、」
「あ、それと、、」
ふたたび何かを言おうとした隼は、急に押しのけられ仰け反ったままカウンターから追い出されてしまった。
とわ言ってもそこは隼だ、自慢の身体操作でたたらをふむことも無く少し離れたところで持ち直したのだが。
隼がルーラの方を見ると、見慣れない男が隼を軽く睨むとルーラに向き直るところだった。
さすがに長話が過ぎたか、?と思いながらその視線を門の方へと向ける隼。
その後ろで男はルーラにひとつウインクをすると話し始めていた。
「来たよルーラちゃん。 ほら、あんな奴じゃなくて俺とお話しよ?」
「あっ、 えっと、、隼さんごめんなさい!仕事に戻りますね! 温泉楽しんで下さーい!! えっと、ウーガさん、それではギルドカードと、、」
「うんっ! またねルーラ! 、、温泉かぁ、」
ルーラの声に振り返りぎこち無く笑って返すと、隼は再びもんの方を向き歩き始めた。
少し残念そうではあるが、まぁ邪魔したのは自分なのでしょんぼりしているものの、とくに突き飛ばされたところに思うところもないあたり隼人も成長しているのだ。
有意義な情報も聞けてルーラとも話せたことで、少なからず隼の顔色も明るくなっている。
「はい、トロールの魔石と睾丸確認できました。 早かったですね? 今日もダンジョンだったんじゃ、」
「うん。 ルーラちゃんに会いたくて頑張ったんだ! もっと褒めてくれてもいいんだぜ? それよりさ? あの男だれ? なんか仲良さそうだったけど?」
「え? あー、個人情報はちょっと、」
「そっか、ルーラちゃんは真面目さんだね。 そうゆうところも可愛いけど」
「ありがとうございます、それよりコレ、ギルドカードと報酬金の銀貨9枚です。しっかり確認してください」
「うん。 ありがとうルーラちゃん」
仲良さそうに話してるなぁ〜などと考えながら扉にトコトコ歩いていく隼。
コイツこの感じでわかる通りドが着くほど鈍いので何も分かっていないままギルドを出てしまうのだった。
ーーーーー
「と、ゆうことで! 羽衣亭でご飯食べてちょっと休憩したら温泉行きます!!」
『なにが、とゆうことでなのか分からないんだけど?』
『温泉ってなんなのです??』
「説明したのに!イチャイチャしてて聞いてなかったんでしょうが!!! 」
『イチャイチャなんかしてないやい! キュイで遊んでただけだい!』
『そうそう!遊んでただけなのです!! あれ、キュイで、?』
ところ変わって従魔舎を出てすぐの道のり。
もう5分するかしないかくらい歩けば羽衣亭に着くとゆうことでさっき聞いた温泉の話をしようとした隼だったのだが、、
なんでも従魔舎でキュイをコチョコチョしてたらヤメ時が分からなくなったらしく道すがら背中にキュイを乗せてベルが気が向いてはペロペロ舐めてイチャつくもんだから隼の話など本当に1ミリも聞いていなかった。
ベルの言い分に疑問符を浮かべるキュイ、だが1歩遅かった。
その疑問の答えが出る前に隼が本題を聞く気になったベルに話し始めてしまい真偽を問い質す時間が終わってしまったからだ。
「探索者ギルドでさ? さっきの行列のこと聞いてみたんだよ」
『あぁ、結局なんだったの?』
「それを今から話すの!」
『なるほどなのです、?』
「とりあえず羽衣亭で夜ご飯食べるだろ? そしたらちょうどあんまり人がいない6時くらいに食べ終わって迎えると思うんだよね。 ほら、どうせなら人が居ない時に行った方が気持ちいいだろ?」
『ほんほん?』
『ふむふむ、なのです、』
「で、その場所こそが公衆浴場ってゆう施設なのだよ! 公衆浴場ってのは、まぁ簡単に言うといつもタライでお湯被ってるだろ? アレの大きいバージョンだな。 お湯に入って温まったりシャワーってゆうので体を綺麗にする場所って感じ」
『なるほどー? まぁ別に行ってもいいけど、どんな感じなのかな?』
「そこはほら、ベル前よく家の風呂はいってたろ?途中から逃げるようになって一緒に入れなかったけど、あれだ!」
『、、、あ、なるほどね?、、、ごめん隼、ボクぱすだわ』
『、、え? もしかして怖いとこです?』
「いやいや違うから! ベルさんややこしい反応するんじゃないよ!!」
『仕方ないでしょ!あれきいなんだもん!』
『ベルくんが嫌がるなんて相当なのです!! キュイも嫌なのです!!』
「そう言わずに! ね? 入ったら帰りに甘いもの買ってあげる!ね?」
『、、甘いものによる、』
『甘いもの?? どんなのなのです?? 赤いやつなのです?』
「そうだなぁ〜、、お!アレなんか良いんじゃないか? ほら! クッキー売ってる! ベルあれなら文句ないだろ?」
『、、クッキー、、、いや!やだ!!』
『え、美味しそうなのですよ、?』
「そう!美味しそうだろ? さらにあのクッキーは中にフルーツが入ってるみたいだなぁ?」
『ふるっ、、いーや!やだね!』
「くっ、強情だな、、」
『ベルくんがワガママ言ってるの珍しいのです!可愛いのです!!』
「、、たしかに可愛いな、一生見てられる気がする。 もはやワガママ聞くために温泉に連れて行くのかも知れない」
『え、それなんて嫌がらせ??』
『ご主人様、何となくわかるのです、、』
『キュイまで何言ってるのさ!! 絶っっったい嫌だから!!』
ベルのそんな絶叫と同時に羽衣亭に到着した一行はしばしの沈黙の後、何がおかしいのか「クスクス」と互いに笑いながら羽衣亭に入っていった。
「あ!おかえりなさーい! ハヤトさんいい事でもありました?」
「ただいまクラナ。 いいこと?なんで?」
「うーん、なんか楽しそうな顔だったからかな、?」
「そう、かなぁ?? あ、とりあえず今からすぐご飯食べれる?」
「はい! すぐ用意できますよ! 好きな席で待っててください!」
「うん!ありがとう!」
『ありがとぉなのです!』
『おつかれさまです』
「、、、クスッ、変な顔〜」
クラナのそんな声は誰の耳に届くことも無く羽衣亭のいつもの喧騒にかき消されてしまうのだった。
席に着いた隼達一行の顔がどこかツボに入ってしまい遠目にクスクス笑いするクラナを見て恋に落ちた男衆が沢山いた訳だが、実ることの無い恋だったと諦める日が来るのだろうことを、まだ誰も知らないことだろう。




