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006 対ブラックホール

―――――


謎ブラックホールの中でリョウは暴れ回っていた。


「うわわわー!」と叫びながら、バットと斧を振りまくる。


しかしそれをふと止めた。


壁の蠕動はもう収まっていた。


『も、モウ、もう…』と頭の中で声がする。


『おまえも同じ、皆同じ、おまえも蟻、いつか死ぬ』とこちらはオレの心の中の声か。


耳を澄ます。


いや、心を澄ます。


すると「アイルの声」のように、幻聴のようなものが聞こえる。いや、感情が聞こえる。「幻情」か…。なんだそりゃ?


苦痛、恐怖、絶望、不安、孤独、少しの欺瞞と賢しらさ、そして諦め。


ただすべてが強すぎる。

広大すぎる。

受け止めるには深すぎる。

意識が溶けて行く。


『おまえも同じ、皆同じ、おまえも蟻、いつか死ぬ』と「アイルの声」。


「チチチチチ」と虫の声が聞こえる。


その瞬間、自分が分かれた。


自分と思っていたものが自分ではなく、というより、そのすべてを含めて自分であり、数々の自分が光や闇の収束として点在していた。


なんなんだ?


ふと、青黒い壁を見ると、ぼんやりと青い光が強いところがあった。


あの声はもう聞こえない。


逝ったか?


しかしまだ何かしら監視されていようだ。


リョウは光の強いところの鱗を剥がし出した。


鱗を剥がすごとに、意識に何かが入り込んでくる。


生き物の膨大な圧力、膨大なことわり、膨大な認識、それに触れる度に、自分であったはずの様々な意識、その収束点が溶けていく。


ここは境界だ、あの世とこの世の境い目だ。しかしそれは自分たちにとっての境界線。


こいつそのものは自身が境界線で「ありうる」ことをわかっていない。


いや、解りたくなかったんだ。


意識のある臨界点。人間くさい。


ああ、神か…人間くさい…神。リョウは自分の魂たちが溶けていくの感じていた。


ああ…オレ(たち)に力がなかったからか。だからこいつを受け止められない。


だからこいつも『カわれない』


変われないんだ。


いや?


その「力」というのも幻想だ。


それもひげ根のある紐づいたことわりの一つ。ゲーム、しきたり、筋書、定理、それらの一種だ。きっかけに過ぎない。そのきっかけを、ああ、この神は自分で設定している。


だから、もともと必要ないんだ。


何かしらのきっかけで生まれたんだ。


力というものも。強弱も、大小も、高低も、遠近も、優劣も、派生する筋書に過ぎない。そこに幻想と「今」が換算されて、喜びとなり悲しみとなっていく。


しかしその度に、その「今」という生の断面をことわりに換算する度に、実際の『今』が忘れられる。『今』は常に忘れられている。『今』とは「いつ」だ?


…………………………。

……………………。

………………。


ーーーーー


…………。


そしてそこには視点のみがあった。


オレ(たち)も視点だ。


何か記憶のようなものが流れ込んでくる。巨大な時間。


とりわけ輝く光があった。


とりわけ深い闇があった。


光が闇に話しかけた。「僕らの拡散に新しい子が生まれたよ」


闇が応える「ええ、わたしたちの収束に新しい子が生まれましたね」


放出するものという光、取り込むものという闇、その間に子が生まれた。


「「小さな子だね(ですね)」」


「「変わるものだね(よね)」」


「この子はこの世界の終わりにどんな夢を見るんだろう」


「ええ、この世界の始まりにどんな夢を見るんでしょう」


「ハハハハハ」


「フフフフフ」


「ハハハハハ」「フフフフフ」


「ハハハハハ……」「フフフフフ……」と光と闇が消えて行った。


そしてその小さな小さな「変わるもの」は膨大な理に散らばっていった。


あらゆる次元を超えるように。


―――――


また、ふと、リョウは青黒い壁を見た。


剥がされた鱗の奥に、消え入りそうな脈動する光があった。握り潰してしまえば消えてなくなるだろう。


苦痛、恐怖、絶望、不安、孤独。


「アイルの声」が聞こえる。『皆同じ、おまえも蟻、いつか死ぬ』


握り潰そうとして止めた。


光の核に触れる。


『マおうにナルか?』


そんな意識が聞こえる。


『魔オウに成るカ?』


「…何が魔王だ?…正直に言え。きっかけ、そう触媒、触媒みたいなもんだろ?

だから触媒にしたいんだろう?

そうだろう?おまえの触媒だ…。

お前がオレを乗っ取りたいんだ。

チラチラ欲をのせるな。

正直になれ」


『…う、…し、触媒にナルカ?…』


「だーかーらー、人にものを頼むときは敬語だろ?」


『…し、触媒にナリマス?…』


「それじゃあ提案だ。ちゃんとお願いするんだよ、チキンラーメンうまかったろ?」


恐ろしいほどの不安。拒絶への悲しみ。


「…あのなあ…不安は存在の拒絶からくるものだけじゃないんだよ。孤独からもくるんだ。わかってるだろう?」


オレ(たち)もそうだ。同じだった。「アイルの声」に欠けていたもの。


無条件にここにあってよい…あーなんだそれ?自分でもよく意味がわからない。


言語表現は無理だな。今日は八月十五日。あ、アイルの命日じゃねーか。


墓参り行ってねーや。……。


―――――


お読みいただきありがとうございます。拙文ですが評価いただければ励みなります。

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