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003 二級国民リョウ

―――――


両親に向かって『オレって、強サイコパスと中ドリフターと弱ニート特性だって』と言ってしまった。


効果は覿面、家の温度が二、三度下がり、それから両親はリョウを腫れ物のように扱うようになった。


中学校でも同じこと。暗い顔で自治会に顔を出す母親。時折、福祉事務所付近で目撃されるリョウ。学校でリョウは少し変だと噂されるようになるまでにはそう時間はかからなかった。


それで『そうだよ。オレはサイコパス、ドリフター、ニートだよ』と言ってやった。


中学校のクラスもドン引き状態。


ただ、ただの腫れ物扱いならよかったが、陰湿ないじめもそれに加わった。


机に「サイコ野郎」とか「*ね」とか書かれるくらいならよかったが、鞄や下駄箱にゴミを入れられる段階で小ギレ。


ヒャッハーグループから歩行中に足掛けからのどつき攻撃とか諸々で中ギレした。


『おまえらこそサイコパスじゃん』


で、密やかにヒャッハーグループの家族を巻き込んで少し継続的な嫌がらせをしてみた。いわゆる夏休みの課題である。


夏は虫の季節だ。


途中、逆ギレしたヒャッハーグループから袋叩きに会うというハプニングはあったが、その夜さらにグループリーダー宅に合鍵で忍び込み、少々威圧的に説得することによって無事解決した。


次の学期から、いじめは嘘のようになくなっていたが、とんと誰も話しかけてこなくなった。


教師すらもだ。


そしてリョウは空気になった。


―――――


高校生活も右に同じ。


こちらとしても平穏無事に過ごしたい。

それでだいぶ地元から離れた所に通ったが、何人かは同じ中学出身がいたようだ。


ただ、よかったこともある。福祉事務所の指導で瞑想プログラムを続けたところ、強サイコパスが弱サイコパスとなり、中ドリフター(放浪癖)がなくなった。逆に弱ニートは中ニートになったが。


担当のお姉さんによれば、瞑想プログラムによって前頭葉のパワーバランスが変化し、サイコパス特性の損得勘定によって、ドリフター特性が抑止され、コミュニケーションの欠落によるネットゲームへの嗜好によって、ニート特性が強化された、とかなんとか、とかなんとか…よくわからん。


『つまり、リョウくんはネット妄想の中でサイコドリフトしてるのよー』


担当のお姉さんが言うには、もう少しすれば、サイコパス特性が解除になるかも、とのこと。


『いったん解除されれば、こっちのもんよー。もう合法スキャンされることはないわー。大手を振るって「結婚」できるわよー。「元」(元二級国民)同士の合コン、あるわよー。あ、現役も紹介できるけどー』


『…そ、そうすか』


ただ、リョウは時として、自分と他人との間に何か境い目、そう境界線のようなものがあって、その境界線自体にたまらなく惹かれてしまう時がある。そこに誘惑を感じる自分を意識している。


境界線がはっきりしていればしているほどその誘惑が強い。


電車の線路をどこまでも歩いていきたい、交通分離帯もかなりよい、そんな感じだ。


リョウの二級国民カミングアウトもそういった誘惑に逆らえなかったからだ。

結果はいつも残念なものだったが。


―――――


それで今、顕現している押し入れの小ブラックホール(仮称)。

まさに境い目中の境い目。


この世とあの世の境界線のようなものか、とリョウは感じてしまっている。


じっと両手を見る。


「右手か左手か…オレの右手が」って、考えるまでもなく、左手だろ。


しかし、そうなると自分の左手が何故か無性に憐れに思えてくる。


はっ、この憐憫の情感は?と、さらにサイコパス特性が弱まったとか?と思いつつ、合理的な不利益事態に対する過度の忌避感とかもサイコパス特性だったっけ、と思い出す。


そんなこんなでリョウはともかく左手を黒い渦の中に突っ込んだ。


ぐにょるん、と、バットを突っ込んだ時とはまた全然違う感覚する。何層も膜があるようだ。


アヅっ!!!


突然の疼痛、全身の痛み。


体が震える。


視界が揺らぎ、物が幾重にも重なって見える。


臭い、音、味覚、体中が騒つく。感覚の全てが一緒くたになったようだ。


すぐに引き戻した左腕には幾重にも螺旋状の切り傷が刻まれていた。

混濁する視界で傷を朧気に眺めて、リョウは意識を手放した。


―――――


………………


グチャグチャ…ガツガツ…

グチャチャチャチャ…ガッガッ…


………


「……!!?…お、おひゃうわわー?!」


「グギッ?!」


「おいおいおいおいー!!」


「グギッ?ガッ?!」


リョウの左腕の肘から先が虫になっていた。


ひ、左手が虫化しとるるるー!


百足とゲジゲジの間の子のような青黒いのが左腕に…。

頭には幾つか触覚が並び、青い目がこちらを睨んでいる。百足のような体節はない。これは、鱗か?鱗のようなものが互い違いに体を包んでいる。口はトカゲのようだ。


「グギィ?」


「うわわわわー!!」


リョウは左腕をぶん回した。


うぃぃうぃぃうぃぃー!


「まじまじまじこれー!」


「グギッグギャギャギャギャー!」


ガンっと衝撃が…。キッチンにぶつけたようだ。


「グキュウー…・・・」


「…弱っ?」


い、痛くはないな。


左手虫をぶつけてもたいした痛みは感じない。


「あーーっ!」


「?グギッ?」


「てめー、オレのチキンラーメンを直バリ(インスタントラーメンをそのまま食べる)しやがったな!」


「グギッ?」


左手虫がぶんぶん首を振る。


《抗迷宮素剤を摂取しました。ゾンビ化を中和します…》


「…こうめ?しょかつこうめいざい?」


―――――


お読みいただきありがとうございます。拙文ですが評価いただければ励みなります。

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